16 ボクはキミでキミはあの子…そしてあの子はボク
0時過ぎただと‼
間に合わなかったか…。
まぁいいか…。
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ああそうだ…私は他とは違う。
私は、特別なのだ。
だから、アイツも見つけた。
アイツは、私にとって憧れだった。
しかし…私は、アイツのことを裏切ってしまった…。
そして、天罰を受けた。
身体は変わり果て、化け物になった。
言われた通りにしなかったからだ。
アイツが駆けつけた時には手遅れだった。
『 ごめんね…すぐに楽にするから…』
そう言われ、『私』は、撃たれて死んだ。
忘れはしないだろう…アイツの最初で最後の泣き顔は…。
そこで、消えて無くなるはずだった。
それなのに、アイツは…私のことを見捨てなかった。
手を差し伸べ、全てを包み込むように…。
『ボク』は生まれ変わったのだ…。
もう一人のレンとして…。
次は、全てを捧げよう。
身体をいじられようが、私は気にしなかった。
むしろ、嬉しかった。
そう…その想いが強かった。
まるで狂ったように…。
そう感じるようになったのは、完全に『ボク』になってからだ。
新しくもう一つ脳を入れられた時だって、悪い気持ちにはならなかった。
今では、昔のあの頃のことは、あまり思い出せない。
むしろ、もうどうでもいいことだろう…。
ボクというものは、ボクとして生きていく。
昔に無理に戻る必要なんてない…。
彼女はそれでも許してくれるのだろう。
そう思っていた時に両目を失った。
数秒反応が遅れただけで、見えなくなった。
敵が撃ってきたビームで焼かれたのだ。
今まで感じなかった、恐怖が湧き出てきた。
『目をやられたの?…とっておきをあげる』
そう言われた時は、安心して嬉しかった。
だが、目が見えるようになって気づいた。
彼女が何をしたのかを…。
彼女は、自身の左目を抉り取り、ボクの左目に移植したのだ。
生前のことがフラッシュバックする。
また…傷をつけてしまった… 。
身体が小刻みに震えるのを感じる。
どうしていいかわからず、頭の中が真っ白になる。
ごめんなさい…。
ギュッと抱きしめられる。
『お前は…最高傑作だ…。ボクより強くボクより賢い…。だって…お前にはフレアがついているから…。アイツがいれば、お前も怖いものなんて無いはずだろ?』
ボクはそう思わなかった…。
だが…彼女に抱かれているうちに考えが変わってきた。
ああ…彼女はこう考えているのか…。
これが…繋がること?
初めての感覚だ。
この時、変わりきれていなかったボクに、変わるきっかけができた。
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能力を全て使いフル回転させる。
0.1秒後、ηに斬撃による攻撃…。
カウンター推奨。
カウンター後、右腕を破壊。
10秒後、θに銃撃による攻撃。
8秒前に、εが無効化。
実行。
「あぁ…腕が!クソ…いきなり動きが変わった!?」
一度に指示を出し、それぞれ洗礼された攻撃を繰り出す。
痛い…苦しい…。
心の声が伝わってくる。
記憶も見える。
ああ…こいつか…コイツのせいか…。
お姉ちゃん達の信号が無くなったのは。
怒り?
悲しみ?
これはボクの?
分からない…。
ただ感情が高ぶっている。
「悪い子には、おしおきしないと…」
「悪い子?へっ!知るかよ!」
「そう…分からないのは…悲しいことだね…」
無いはずの右目が、赤い光を上げる。
リミッターが自動で外れた。
「それなら…怖いことしてあげよっか!」
力が湧いてくる。
瞬間移動のような速さで近づき、首元を掴み、手足を折り、引きちぎる。
人工血液が辺りに飛び散り、紅く染まり、ドス黒い色をした内部配線や破片が、ちぎれた場所から垂れ下がった。
「はぇ?痛くない…?」
痛みの感覚が無いのは、本当の恐怖。
戦場では異変に気づけずに、命取りになる。
頭を掴み、ギュッと包み込むように抱きしめる。
「な…なにをする気?」
「喰われることが、どんなことか教えてあげる」
バキバキ…グチャグチャ…。
胴体を圧迫して破壊する。
多少自分に破片が刺さっているが、構わない。
そろそろいいか…。
ポイッと床に投げ捨てる。
ああ…まだ生きてるよね?
死んで無いよね?
「その…使えない脳みそでさ…。ボク…いや…ボクたちの思い…痛み…その身体で受け取って見せてよ!」
自身の手首からコードを取り出し、相手の頭に直接繋ぐ。
「ハッキング…する…の…」
それよりも酷いこと。
「頑張ってね?」
馬乗りになりながら身体を押さえ込み、先程処理した演算のデータを、痛覚を解除しながら流し込む。
「!…ガァハッ…ッ…ッーー……ッ…」
苦しいそうな顔…。
こんな奴でも…涙を流すのか…。
ボクは手を止める。
どうしようか…。
全部壊すのは、もったいない。
そうだ…持って行こっか…。
もう動かないだろうし…。
ボクは彼女を布に巻いて、持ち上げる。
「…ん…?どうしたの?みんな?」
少し距離を置いていたみんなが、ギュッと抱きついてきた。
「血…沢山ついているから拭いてあげる」
「もう…大丈夫?少し…怖かったからさ…」
「身体を支えるきれないでしょ…。肩貸してあげるから」
あぁ…やりすぎたかな…。
「みんなが待ってる…から行こう?」
「それでさ…誰がどの子もつ?」
難しい選択だね。
「ηは目が綺麗な子、θは雪夜、εは『それ』を運んで」
「え〜。∑のこと…運ぼうと思ったのに…」
「ボクは大丈夫。歩けるよ?」
まだ足は動く。
「ダメ!歩かせない!おぶって行く‼」
そう言ってεは、ボクのことをおぶった。
「あれ、置いていかないでよ?」
「わかってるよ」
アイツのことを脇に抱えた。
「コレでよし…」
「早く脱出しよっか!」
「ポチッと!」
「起爆装置今押すの?!」
奥の方から徐々に爆発していく。
「よーいドン‼」
いっせいに駆け出す。
障害物なんて関係なしに、壊しながら走る。
「目の前壁‼」
━━━ドカーン━━━
壁に蹴りで穴を開けた。
「ぐぁぁ…足痛い…」
θが負傷している方の足で、蹴ったみたいだ。
痛みをこらえなが走っている。
「もう少しだよ!」
また壁がある。
「ηのすごいパンチ」
一面の壁を、一瞬で喰らい尽くす。
あれ…パンチなのか?
「外だよ〜」
爆発を背にして、いっせいに飛び出す。
そして、着地する。
決めポーズは忘れない。
「ふぅ…大丈夫だったか…よかった〜」
アプルが駆け寄ってきた。
「通信来なかったけど、どうしたの?」
「交戦時に壊れた…」
「あちゃ…」
アプルが、それぞれが持っているものに気づいたようだ。
「ずいぶん増えたね、それで…一目惚れした子は?」
ボクはεに下ろしてもらい、ηが背負っている子を受け取る。
「この子だよ」
「へぇ…その子が」
「キレイでしょ」
「目がレンや、キミにそっくりだね〜」
少し嬉しいかも。
強い風が吹いてきた。
空を見上げると、巨大なヘリコプターがこちらに着陸してきた。
「帰りのヘリだよ。さぁ…乗った乗った!」
ボクはみんなに、乗るように指示した。
あれ…身体がフラフラする。
「お疲れ様…!」
アプルに受け止められ、そのままお姫様抱っこされる。
「何する気?」
アプルは、少しニヤニヤしたまま小さな声で言った。
「二人っきりで…気持ちいこと…しよ♡」
あ…逃げられない…。
そのまま少し頬にキスをされ、ヘリに入り、彼女の部屋に連れ込まれた。
…ボクは…どうなってしまうのだろう。
少しの身の危険を感じながらも、ドキドキしているのであった。
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