第6話 中学生の私
時はあっという間に過ぎる。
私ももう本当なら中学一年生の年だ。
4月8日、本当は入学式の日に私はまだ家の周辺から出られていない。
「美蘭、はい制服。着てみて!」
「うん!」
それは女子制服だった。
ママは私に気を使ったのか、制服を買ってきてくれたのだ。
ママに見られるのも少し恥ずかしいので、部屋から一旦出てってもらう。
私はパジャマから制服に着替えた。
そして着替えたことを、ドア越しのママに伝える。
「うん!可愛いじゃない!」
私は、女の子の体と比べると少し足に違和感があると思った。
でもママが心からそう言ってくれたことは嬉しかった。
その日私は1日を制服で過ごした。いつも通りママに勉強を教えてもらったり、絵を描いたり、ご飯を食べたりしながら。
この年の冬。12月31日。
大晦日の日に隆二くんがお泊まりにきた。
もちろん隆二くんの両親が了承済みでだ。
「美蘭ちゃん、来たよ!」
「隆二くんいらっしゃい!ささっ、入って入って!」
私は隆二くんをリビングのコタツがあるところへ連れていった。
一緒にこたつの中に入って温まりながら話していた。
「美蘭ちゃん、この後初詣一緒に行くって話してたけど、本当に大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ。」
「 そこまで言うならとめないよ。頑張っていこうな!」
「うん。頑張る!」
そう今日は私の人への恐怖心を、少しでも克服するための日。
隆二くんも一緒に来てくれるって言ってくれた。
しばらくテレビを見ていた。
すると
(ゴーン、ゴーン)
と鐘をつく音がした。
初夜のかねだ。
「も、もう行く時間か...」
「美蘭ちゃん、行こ。」
「う、うん。」
と言って近くの神社の初詣に出発した。
神社に着くと人が大勢いた。
当たり前のはずなのに少し期待をしていた。少しでも少なければなと...。
「美蘭ちゃん、そんなに力強く腕に引っ付かれてると流石に痛いよ。」
「ご、ごめん!」
と言って私は隆二くんの手を握った。
「このくらいならいい...よね?」
「うん、大丈夫。」
と言って行列が出来ている所に並ぶ。
「ね、ねぇ隆二くん。人多すぎない?」
「え、うん。美蘭ちゃん、もしかしなくても怖いでしょ?」
「こ、怖くなんかないもん…。」
「やっぱ怖いんじゃん。」
実際少し怖かった。
多分だけど手も少し震えてた。
それを知ってて隆二くんはあえて言ってきたんだ。
「隆二くんの意地悪。」
と私はボソッと呟いた。
「ん?美蘭何か言った?」
「何んでもないよ。」
話ながら並んでいたら私たちの番になった。
周りの人の動作を真似して参拝した。
参拝をした後の帰り道では、私は深くため息をついた。
「はぁ…。」
「美蘭ちゃん?どうたの?」
「なんでもないよ。」
「本当は怖いから、今人混みを抜けてこられて少し安心したでしょ?」
(ドキッ)
私は喉の奥が詰まったように言葉が出てこなかった。
そう。図星をつかれたからだ。
「そうだよ。怖かったんだよ、悪い?」
「ううん、全然。そんなに早く治るなら誰だって苦労はしないさ。」
「…ずるいよ。」
また私は聞こえないように言った。あれだけ人を弄ってから、いきなり優しくするなんて。
本当になんだろう、この気持ち。
「何か言った?」
「う、ううん。なんでもない。」
私たちは帰って中学一年生らしくすぐに寝た。私は久しぶりに人混みに出て、人への恐怖心がまた酷くなっちゃったかななどと、色々考えてしまいすぐには寝付けなかったけど。
中学二年生になると、私の思考も少し変わってきた。別に女の子の心から男の子の心に、いきなり変わった訳ではなく、ただ単にネットという物に少し興味が湧いた。
ただ、ネットをしたいかと言えばそれも違う気がする。
なんにせネットにいるのも人なのだから。
私は恐る恐るママに話をした。
「ママ、家にWiFiってつかないかな?」
「そうね。着くことには着くけど、美蘭何する気?」
「私お外怖くて出られないから、外の情報が少しでも見られればと思って…。」
「なるほどね、お父さんに聞いておくね。」
「うん!ありがとう!」
ママに話をしてから、私は2階に戻りパパが反対するだろう理由を考えていた。
(えっと、女の子が騙されて被害に合ってるから危ないとか。ネット依存症になるかもしれないとか。寝不足になるかもしれないとか。…うーん、あとなんて言われるかな…。)
色々考えているうち、訳が分からなくなって来たので途中で考えるのをやめた。
それから私は少し眠たかったので昼寝をした。多分頭をいつも以上に使ったからだろう。
目を覚ますと、晩御飯の時間だった。
今日はパパが久しぶりに帰ってくる。
確かママは「帰ってくる時間?多分晩御飯頃になると思うわよ。」なんて言ってたなあ。
「美蘭、ご飯よ〜」
「はーい。」
私は1階に降りる。
パパに会うのは小学6年の卒業式の日以来だ。
パパは私の卒業式を見たかったらしいけど、私は学校に行ってなかった。
パパは私の今の現状を知っても何も言わなかった。その答えは、動揺なのか、納得したのかは分からない。
1階に降りるとママはいたけど、パパはまだいなかった。
「ママ、パパは?」
「まだかかりそうだって言ってたわ。」
「そうなんだ。」
私はちょっぴりがっかりした。
そりゃ初め(小学6年の時)は緊張したよ。でもそれ以来、私でも会っていいって分かったら会うのが楽しみになっちゃうよ。
(はぁ…早く帰って来ないかな〜。)
私は食卓に付き手を合わせた。
「いただきます。」
と言って茶碗左手にもち、箸を右手に持ち、おかずをご飯と一緒に食べ始めた。
ご飯が食べ終わる少し前に
(ピンポーン)
とインターホンが鳴った。
しばらくして、パパが入ってくる。
「パパ!おかえりなさい!」
「おう、美蘭か。ただいま。少し見ないうちに大きくなったな。」
「えへへっ。」
パパは私の頭を撫でながらそう言った。
「少し声低くなったか?男には変声期があるからな。」
「あ、確かに…。そんな気がする。」
実際小学生の頃の頃と比べると声は低くなっていた。
身長も中学一年の時は151cmくらいだったのに、中学二年の時は158になっていた。
そんな会話をした後、私は今日聞こうとしていた話題を自分から出す。
「ねぇ、パパ。うちにWiFiつけられないかな?」
「別に構わないけど、変な事故とかあるし気をつけろよ。」
「うん!ありがとうパパ!」
パパはあっさり許してくれた。でもすぐにはつかないとも言ってた。
パパがこっちに居られるのは3日くらいだから、契約にいってWiFiがつくのはパパが出発するギリギリだって。
それでも私はとても嬉しかった。パパに久しぶりに会って話して、自分のお願いも聞いてもらえたのだから。
中学三年生の卒業式の日から三日後。
もう受験も近いというのに、隆二くんがまた家に来てくれた。
その時私は気になって聞いてみた。
「ねぇ、隆二くん。高校はどこ行くの?」
「うーんとね。まだ内緒だよ。」
「明日受験なのに私の家に来てていいの?」
「うん。僕の骨休みだからね。逆に来ちゃダメかな?」
「そんなことないよ。」
結局この時しっかりとした答えは聞けなかった。
なんかはぐらかされた気分だ。
その日も私は少し勉強したり、絵を描いたり、ネットで外の情報を見たりした。いつもと同じで、そしてあの日に変わってしまった大きな出来事。
(はぁ…これであんなことなかったらな。心は女の子でも体が男の子じゃな…。結局またみんなからいじめを受けるだけ…。)
こんなことを寝る前に考えていた。今までは心に余裕がなくて考えるのさえ嫌で、考えていなかった。いざ考えてみるとやっぱり心が痛い。
そんな風にしてて疲れてきた時に寝入った。
その次の日の朝。
「ふぁ〜。」
とあくびをした。
その時少しひっかかった。