第5話 色んな成長
私が4年生の年になった時。
「美蘭ちゃん、そろそろ外で遊ばない?」
「え…でも、怖いよ…。」
「大丈夫だって、去年だって外に出るくらいなら平気だったでしょ?」
「え、そ、そうだけど…。」
「ほーら、一緒にいこ?」
といって隆二くんは私を引っ張って、庭に連れ出す。
「ね?何ともないでしょ?」
「はぁ…はぁ…。ちょ…ちょっと、まって…。」
「そっか、美蘭ちゃん体力ないんだったね、ごめんごめん。」
「はぁ…はぁ…。もう、ば…馬鹿にしてー…。」
「ごめんって。それよりさ縄跳びやろーよ。」
「いや、縄跳びやるならちょっと待ってて、着替えてくるから。」
そうこの日美蘭はスカートだった。
「え?何か問題でもあるの?」
「あるよ!下着…見えちゃうかもしれないし。」
「あー、ごめんね。じゃあ、着替えてきて!」
「う、うん。」
私は2階に上がりスカートを脱いで、短パンをはいて、隆二くんの所に行く。
「おかえり。」
「うん、ただいま。」
「じゃ、飛ぼ!」
と隆二くんは前飛びから2重跳びをいきなり飛び始めた。
「前から思ってたんだけど、隆二くんってなんでも出来るよね?」
「うーん、そうだなー。美蘭ちゃんみたいに絵は書けないけど、まあ大抵のことは。」
「なんかすごいね。」
と言って私は前飛びを飛んだ。
「美蘭ちゃん、駆け足飛びやったら?こうやって走りながら縄を回すんだよ。」
隆二くんは手本を見せてくれた。
私もやっては見るがタイミングが合わなくて2、3回で引っかかってしまう。
「美蘭ちゃん、回すの早すぎだよw。なんて言えばいいかなー。そう、片足で飛んで、また片足で飛んでを繰り返すんだ。」
「う、うん。」
私は言われた通りに飛んでみた。
すると10回くらい飛べた。
飛べたんだけど…?
「はぁ…はぁ…。」
息が切れてしまった。
こんな馬鹿なことをやっていると、隆二くんが背中をさすってくれた。
「大丈夫か?少しずつ体力付けていけるといいな。」
「そ…そ…そうだね。」
私は外で遊ぶようになった。
ようやく1歩前身って感じだ。
5年生の年はと言うと…。
「美蘭、気分転換にうち行きましょ。」
なんてママが提案してきた。
この日は夏で1番暑い日だった。
「え…でも…私はいいよ。」
「何言ってるの〜、ほら行くわよ。」
とママは私の手を引いて家を出た。
電車に乗った。
だいたい2時間くらい乗ってたと思う。
私は不思議に思ってママに聞いた。
「ママ、なんでわざわざこんな遠い所までいたの?30分位のところにあるのに。」
「美蘭が、幼稚園児の頃の同級生には会いたくないかなって思ってね。」
ママもしかして、本当は私を海で遊ばせたくて…?
海に着くと人は大勢いた。
私は女の子用のスクール水着を着てきた。
小学1年の頃に買ったのだが、結局使う機会もなく。
少し大きめに買ったためか、今ちょうどいいくらい。
私は最初、ママと砂浜で遊んでいた。
砂で山を作ったり、足で思いっきり蹴ったり。
しばらく遊んでいると、ママが
「ねぇ、お母さんと一緒に海に入らない?」
「えっと、ママ泳ぎ教えてくれるの?」
「ええ。でも泳がなくてもいいの。海に入って海水っていうものを感じてくれればそれで。」
と言って私の手を取る。
ママは私の歩くペースに合わせてくれた。
私は水に浸かるのが生まれて初めてというのもあって、少し怖かった。
でも1回入ってみると、冷たくて気持ち良かった。
ママと水の掛け合いをしたり、ママにバタ足を教えてもらったり。
この日は外に出て久しぶりに楽しいと感じた日だ。
同じ幼稚園の人がいないって言うのもおると思うけどね。
疲れて水の上に浮いていると、見上げれば真っ青な空が見える、耳をすませば海の小さな波の音や楽しく遊んでいる人達の声が聞こえる。
海って素敵な場所だなって思った。
海の帰り道…。
私は体がすごく重たかった。
ゆっくりゆっくり歩いていた。
「美蘭、おんぶしようか?」
「ママも疲れてるのにいいの?」
「ええ。美蘭はママの背中でゆっくり寝てなさい。」
「ありがとうママ。」
私はママの背中で1分も経たないうちに寝てしまった。
目が覚めると、そこはママの背中だった。
目がぼやけていたからか、目を擦った。
「美蘭、起きたの?」
「うん、もういいよ。ありがとう。」
「はーい。よっこらしょっと。」
とママは私をおろした。
周りを見るともうそこは家の近くだった。
「ママ、私どのくらい寝てた?」
「だいたい2時間ちょっとかな。」
「ええ!?そんなに寝てたの?重くなかった…?」
「大丈夫よ。でも流石にママも疲れたから家に帰ってご飯食べたら寝るわね。」
「うん。」
なんて会話をしていたら家に着いた。
家に着いて、ママは食事の支度を始めた。
私はママの支度の時間、ママが寝るための布団を用意した。
「美蘭、ご飯できたよ。」
「はーい、ママのお布団も引いておいたよ〜。」
「ありがとう。お母さんもう寝るね。」
「うん!おやすみ。」
「はい、おやすみ。」
この後私は、食事をしてお風呂を沸かした。
お風呂に入ってよく汗を流してから、そのままお布団に入った。
もちろんママの横に。
さっき自分の分も横にひいておいたから。
目を閉じると、今日あった色んなことが頭に浮かんだ。
最初は怖かったけど、着いてしまえば楽しい時間だった。
海の楽しさ、そして疲れることの幸福感。
もっと味わってみたいなと思った。
そんな思いに囲まれながら、寝入った。
これは小学5年生の夏のとてもとても暑い日のことである。
小学6年の冬明けの頃のこと。
「ピンポーン。」
午後4時半頃、インターホンが鳴る。
「多分隆二くんだ、少し出てくるね。」
とママに一言いって玄関にでる。
キーッ(ドアの開く音)
「やあ、美蘭ちゃん。」
「やっほ、隆二くん。それじゃいこっか。」
そうこの日は2人で洋服を買いに行く約束をしていた。
6年になる歳になってから、近所を散歩するようにはなってはいたけど、お店に行くのは初めて。
少し怖いし、緊張もした。
「隆二くん、私を1人にしないでね?」
「もちろん!美蘭ちゃんも僕から話せないでよね?」
「うん!」
ショッピングモールがある大通りに来た。
流石に一通りが多い。
私は隆二くんの袖を掴んだ。
「ん?どうしたの、美蘭ちゃん?」
「え、えっと、その。はぐれるといけないから。」
この時私は恥ずかしくて顔が熱かった。
もしかしたら赤くなっていたかもしれない。
「美蘭ちゃん?大丈夫?顔赤いよ?」
「だ、大丈夫!」
と言いながら片手で顔を隠した。
私…どうしちゃったんだろ。
隆二くんの袖に引っ張られながら、服屋まで歩いた。
服屋に着くと、隆二くんは止まって、
「ほら、着いたよ。どれを見に来たの?」
「えっとね、上から下まで1色ピンクのやつで、上は半袖で下は膝下までスカートのやつ。」
「なるほど…。」
と言って隆二くんは辺りを見渡した。
そして私の腕を掴んで、移動した。
「これなんでどう?上はピンクの上に白い可愛いやつが乗ってるけど、大体上限はそろってるよ?」
「本当だ!これいいな〜。」
値段を見てみるとやはりそれなりに高かった。
「いくらなの?」
「えっとね…(ゴニョニョ)」
「え、そんな高いんだ。」
「うん、今まで貯めてきたお金が大体なくなっちゃうくらい。」
私が迷っていると、隆二くんが
「試着してみたら?」
「え?う、うん。」
私は試着室へ向かった。
その服を着て、隆二くんの前に出る。
「お!可愛いじゃん!似合ってるよ。」
「ほんとに!?じゃ、買おうかな。」
少し大きめのサイズで買った。
男の体とはいえ、まだ成長期前。
今合うサイズでは流石にやばいなと思った。
「買ってきたよ!」
「うん。それじゃ帰ろっか。」
「う、うん。」
これから私は来る時と同じように、隆二くんの袖を掴んで家に帰った。
私が少しこれまで味わったことのない気持ちが沢山あった日の1日だった。