第3話 ママの暖かさ
小学1年生の初夏…。
私は冷房を付けながら暮らしていた。
それにしても暑い。
4月から約4ヶ月、私は隆二くんと話すのが1つの楽しみになってきていた。
しかも今は学校は夏休みというものがあるらしい。隆二くんから聞いた。
朝10時くらいに隆二くんが家のインターホンを鳴らす。今日は家に私以外いないため私が玄関まで行かなければならない。
玄関のドアを開けると前には隆二くんの姿ななかった。
「わぁ!」
と横から隆二くんが出てきた。
私はびっくりして体重が後ろに行って尻もちを着いてしまった。
「ご、ごめん。やりすぎたかな?」
「もう、隆二くんってば。大丈夫だけどさ。」
「ほんとごめんって。」
そんなやり取りをした後私は隆二くんを部屋に案内した。
早く冷房のきいたへやに行かないと外が暑すぎて耐えられなかったから。
部屋に着くと隆二くんが手さげの中を探っていた。
「隆二くん?なにしてるの?」
そう聞いた私の疑問に返答はなかった。
「じゃじゃーん!」
と言いながら隆二くんが出したそれは…
「お、オセロ?」
そう、あの白と黒のコマをひっくり返しあうオセロだった。
私はボートゲームを初めて見たので興味津々だった。
「それで遊ぶの?」
「そだよ、そのために今日持ってきたんだ〜。」
隆二くんは私に、「ハンデ付けるね」とか言って私に角を2つくれた。
私はちょっとむすっとしたが、勝ってハンデつけたことを後悔させてやると思った。
結果は負けだった。それも結構な大差で。
「隆二くん…強すぎない?」
「いやー僕実はオセロが得意みたいで、じっちゃんに勝ってからまだ誰にも負けたことないんだよね。」
「え、へー。そりゃ勝てないわけだね。」
私はここで1つ提案した。
「ねえ隆二くん、角4つ貰えない?」
「よ、4つ?それは流石にちょっと…」
「え?出来ないの?しょうがないな〜、じゃあ…」
「ちょっと待った!出来ないなんて一言も言ってないぞ!やったろうじゃないか。」
とまあ私のハンデが増えて再スタートしたわけだけども。
途中までは均衡しているように見えた。だけれども中盤辺りからだんだん私が劣勢になってしまい、最後には大差で負けた。
「隆二くん、すごいね。もう適わないや。」
「でしょ〜、僕これだけしか自信ないけどね。」
と得意そうにいっていた。
そして私達は笑った。
それから1日オセロを指し続けた。
結果は9戦全敗。
「隆二くん、そろそろ門限だね。」
「あ、本当だ。そろそろ帰らないと。」
「隆二くん、明日も遊ぼ!」
「もちろんさ。また来るね。」
そう言って、隆二くんは帰って行った。
私はドアの鍵を閉めてまた1人の時間を過ごす。
絵を書いたり、絵本を読んだりして。
そうしていると夜7時頃、誰かが階段を登ってくる音がした。
「美蘭。少し話したいんだけど今いい?」
ママだった。今度はドア越しにママが来た。
「お母さんね、なんで美蘭が引きこもっていたか気になってね、無理に隆二くんに聞いたの。だから隆二くんを責めちゃダメよ。」
ママはそう言ったあと一呼吸して話し始めた。
「美蘭…性転換しちゃって虐められたんだってね。お母さんはずっと心配だったんだよ。何かあったんじゃないかなと思ってて、この約半年間ずっと胸が痛かったの。」
そうママが言った時に、私はドアの鍵を開けて自分からドアを開いていた。
「美蘭、お母さんはこれからもずっと美蘭のお母さんだよ。美蘭がどうなってもね。だからお母さんの前くらい気を抜きなさい。」
とママに言われた時、頬に涙がつたっていた。
私はママの胸に飛びついた。
「うわぁーん、私怖かったよ。私を見るみんなの目、いきなり体がかわったり。何もかも分からないことだらけで怖かったよ〜。あと寂しかった…。もう人を信用できないって思って1人になって、それでも人がいないと寂しくて…。」
自然と今まで思っていた言葉が溢れてきたようだった。
その日私は久しぶりに泣いた。
ママはそんな私の背中を腕で包んでくれた。
私が泣き止んだ頃。
私とママはリビングで話していた。
「美蘭どうする?これから。ご飯とか、遊びとか、勉強とか。」
「ご飯は食べに行くよ。遊びはママがいる所でするかな。勉強は…ママ教えてくれる?」
「ドリルとか買ってくるから、それをやりながらなら教えられるかも。」
「ほんと!?ありがとうママー!」
私はママに抱きついた。
ママは私をいつも抱きかかえてくれる。
「ママ…。」
と私はママにおねだりするように、上目遣いで話す。
「今日から一緒に寝てくれない…かな?」
「ええ、もちろんいいわよ。美蘭が寝るまでちゃんと待ってるからね。」
「ありがとうママ!」
「あ、あとお風呂も…いい?」
「もちろん!」
その日私は久しぶりにお風呂に入ることになった。
ご飯を食べたあとにしばらくたって、私はママとお風呂に入ることになったのだが。
脱衣所で服を脱ぐと、本当に性転換してしまったんだなと自覚してしまう。
そしてママとお風呂の中に入る。
まだ浴槽には入ってないけど。
私は1番の疑問点であった、体の洗い方について聞こうと思って
「ママ、男の子体ってどう洗えばいいの?」
と言った。ママは
「ママもお父さんから聞いただけなんだけどね、女の子よりは丁寧に洗う必要はないみたいよ。」
などと言いながらも教えてくれた。
体を洗いお湯で流したら、2人で浴槽には入った。
いっぱいだった浴槽の水は、私たちが入ると外にこぼれてった。
「美蘭、部屋にいる時はどうしてたの?」
「えっと、タオルを暖かい水に付けてから体だけ拭いてたかな。今日洗い方を聞いたから今度からはちゃんとやるよ!」
「そ、そう。」
ママは申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。
何かしたかな?と思ったが聞かなかった。
お風呂を出た。
私は服を着ると、少し安心でもしたのか眠たくなってきた。まだ9時くらいだった。
「ママ、眠たい。」
「じゃあ、お布団ひいて寝よ。」
「うん。」
私は眠たくてゆっくりと喋っていた。
2階の2人で寝られるスペースのある部屋で、2つの布団を2人でひいた。
私が布団に入ると、ママは横に寝て子守唄を歌ってくれた。
私は暖かい存在がいることがどんなに幸せなことか気づいた。
その暖かさに包まれて、寝入った。
翌日。
「……ん、…ら…ん、美蘭!起きなさい、朝だよ。」
「う…うん。」
私は朝に弱いことを今日知った。
今まで寝る時間も起きる時間も自由にしてきたから気づかなかった。
私はパジャマから着替えて、食卓へ行くともう朝食の準備は出来ていた。
私は椅子に座り、
「いただきまーす。」
と言って食べ始める。
「召し上がれ。」
とママも返してくれた。
こんな感じ久しぶりだなと思った。
「ママね今日買い物があるの、いい子でお留守番できる?」
「うん!」
「誰が来ても玄関開けちゃダメよ?」
「分かったよ!」
朝食を済まし絵を書き始める。
絵を描いていると ポキッ と鉛筆が折れてしまった。
私は上の部屋に鉛筆削りを取りに向かった。
部屋に入るとなんか変な匂いがした。
気のせいかなと思い、鉛筆削りを取って戻ろうとした時だった。
頭がぼーっとしてきて、そのまま床に倒れてしまった。
目蓋が重たくそのまま閉じた。