第2話 信じる気持ち
私は家に帰るなり部屋に入った。
そして部屋のドアをかける。
私の家はお父さんがプロ野球の選手ってこともあり、お金持ちなところがある。
ただ、家はそんなに広くはない。
中は違うけど…。
ドアは外からは鍵が開けられない状態になってる。もちろん外からかけるということもできないけど。
つまりは帰ってきて早々引きこもった。
さっき泣き止んだばかりなのに、ドアの鍵を閉めた瞬間…涙が溢れだす。
1人で静かにしてるとどうしても、皆のあの変なものを見る目、虐められている時の光景が浮かんでくる。
するとドアが
「トン、トン」
と音がした。そこからママの声がした。
「美蘭?どうしたの?」
「ママ、しばらくはほっといて。お願い。」
私は涙声でそう言うとママがまた心配そうな声で言う。
「わかったわ。」
声が薄れて弱々しく聞こえた。そしてママは
(これまでこんなこと無かったのに、あの子大丈夫かしら)
と呟いたように聞こえた。私は泣き疲れたせいでうまく聞い取れなかった。
この日私は疲れが来たせいかこの後、ご飯も食べずに寝入ってしまった。
多分時間は8時前くらいだった気がする。
次の日の朝起きた時は午前9時。
まだ視界がぼやけていて、正直眠たかった。
でも昨日にあんなことがあって、また何が起こるか分からない恐怖感があったりして、寝られなかった。
気晴らし程度にはなるかなと思って絵を描こうと思った。
ベットから降りて、ベットの横にクッションを立てかけ、背もたれ代わりにして絵を書き始める。
どうせ上手くはかけないだろうと思ってまずは部屋の模写からはじめた。
取り掛かってすぐドアから声が声が聞こえた。
「美蘭、ご飯毎回置いておくから食べなさいね。」
と言ってママは1階に降りて行った。
昨日の夜からないも食べていなかった私は、ペンと紙をベットの上に置いて扉の鍵を開け、ご飯を部屋に入れてドアの鍵を閉めた。
朝のご飯はパンと牛乳だった。
パンは食パンをこんがり焼いた上にバターが塗ってあった。
牛乳は程よい温かさだった。
私はパンを噛み締めるようにゆっくり食べて、乳牛を少しずつ飲んだ。
食べ終わったら部屋の外に出しておいた。
私は元の場所に戻って、絵を描くことを再開した。
部屋の絵…、幼稚園児が書くだけでも変な感じがする。
描き終わった頃はもう2時すぎ。
絵の全体を見てみると、線は曲がっていて
窓は位置がバラバラ、そんなふうな誰もが最初は描いたことがあるだろうそんな絵になった。
そして私は再び絵を書き始める。
今度はもっと上手くなるように…。
絵を描いているとインターホンの音がした。
私は
(私には関係ないな)
と思いそのまま絵を続けた。
たけどその10分後、思いがけない人が部屋の前に来た。
「トン、トン」
とドアを叩く音がした。
そこからは男の子の声がした。
「美蘭ちゃーん。」
その声は聞き覚えがあった。
「面と向かって話したいことあるから、開けてくれないかな?」
隆二くんの声だった。
人を信じれなくなっている私はドアを開けることも、隆二くんとまともに話すこともできない。
ドアの近くに行って
「ご、ごめん。隆二くん、もう私には…会わないでお願い。」
と小声で頼んだ。
隆二くんには恐れる気持ちや、1人になりたい気持ちが声のトーンで伝わってしまったかもしれない。
隆二くんは最後に
「また明日も来るからね。大切な話だから。」
と言って下に降りていった。
私だって…本当は…。
人を信じたい、人を信用して生きたい…。
でも…、あんなことがあったら…もう何も信じられないよ…。
私は布団にうずくまり、うずうずして今にも自分を傷つけてしまいそうな衝動を抑えた。
私は変な気持ちに襲われていた。
もう外には出たくないのに、人には会いたくないのに…、信用できる人が欲しい。
私は欲張りだ。
今日の夜ご飯もママが部屋の前に置いて行ってくれたから、食べてから食器を戻しておいた。
その日は何かをする気分ではなく、窓から外に見える庭の木を眺めていた。
鳥が実をつついていたり、風で葉が揺れる音が少し心地よかったりした。
少し安らいだら、その気分のうちに寝た。
もう起きてるのが辛いから…。
翌朝…。
目が覚める。時計を見ると午前5時30分。
流石に2日続けて早く寝すぎた。
目が冴えてしまった私は、部屋の電気を付けた。
そして部屋にある洗面所で、歯を磨いて顔を洗った。
私は2日ぶりに髪を縛って見ようと思い、鏡を見た。
顔を見るとひどい顔をしている。女の子の頃の顔立ちは少しは残っているけど、細かな所が本当に男の子になってる。
特に体…。何とかトイレなどは済ませていたけど、やっぱりいつもと違って不便だった。
とはいえ、正確なことは分からなくて困ってはいるけど。
そんなことを考える時はあるけど、まだ女の子に近い顔立ちってだまだ良かった。
服とかはあんまり違和感ないし、当分の間大丈夫だろう。
髪は短くなっていて、1つしか縛れなかった。
髪の毛の長さだけは大きく変わっていた。
ま、伸ばせばいいだけなんだけどね。
終わった頃にはもう8時くらい。ママが食事を置いていく音がした。
私は食べてまた戻しておいた。
私がまた絵を描いていると、4時すぎにまたインターホンが鳴った。
もしかしてなんて思ってしまった。
「美蘭ちゃん、来たよ〜。」
その予感は的中した。隆二くんがまたドアの前にいる。
「何回来てもダメだよ、私はもう人と会いたくないよ…。」
私はそういった。ただのごまかしだった。信用したいけど信用できない。そんな気持ちから出た逃げの言葉だった。
「美蘭ちゃん、僕ね…。」
隆二くんはそう言って少し黙った。
しばらくたってからまた話始める。
「ドア越しでもいいから聞いてほしい。あの時、僕は何も出来なかった。美蘭ちゃんの体に何が起きたのか初めは分からなくて、皆のいじめがエスカレートした時にやっと気づいたんだ。ごめんね、もう遅かった…。だから僕は別に一緒に行こうなんて言わない。少しでも美蘭ちゃんに償いたいだけなんだ。友達として何も出来なかったあの時の…。」
そう言うと泣いているのか、水が下に落ちる音がした。そう隆二は泣きながら話していた。
私はそんな隆二を見てほんの少しは信じて見ようかなと思った。
けれど初めからそんなこと出来るはずない。
だからまず…。
「ね隆二くん、私はまだ完全に人を信じられないの、だからさドア越しでも良ければお話しよ?」
「もちろんだよ。僕からも聞くね、また僕とお話してくれる?」
「うん。」
それから私たちは隆二くんの門限が来るまで、1日話せなかった分沢山話した。
楽しい話を…。
それからしばらくたって、桜咲く季節の春がやってきた。普通に生活出来ていれば、小学1年生になるころ。
私は未だ部屋から出れずにいる。
隆二くんともずっとドア越しのまま。
私は今なら隆二くんだけは信じられると思えてきた。
こんな私を見捨てることなく3ヶ月以上もずっと家に来てくれていたんだから。
その日の夕方、隆二くんはまた来てくれた。
そんな隆二に私は
「隆二くん、ドアの鍵開けておいたから入って。」
と声をかけた。
隆二くんは入ってきてくれた。
そして私の方を見る。
「隆二くん、顔を見るの久しぶりだね。半年行かないくらいぶりかな?」
「そ、そうだね。本当に久しぶり。」
その時の私の姿は、髪は方まで伸びていて服は女の子が着る可愛い服を来ていた。
白のワンピースに膝くらいまでの長さの白いスカート。
性転換をしたことを知ってる隆二くんには、私のことは男の娘に見えただろう。
「隆二くん、へん…かな?」
「そんなことない!良かった、美蘭ちゃんは美蘭ちゃんのままで!」
「えへへ、ありがとう隆二くん。」
その時2人は顔を見合いながら、そして笑いながらずっと話していた。
そう…あの幼稚園児の頃のように…。