最終話 思いの強さ
少し遡り、朝隆二くんがバイトに出かける前に私の部屋を出た時点に戻る。
ここからは私、花瀬美蘭がまた語っていくよ。
隆二くんがバイトに出かけた後、私は熱で体が思うように動かなかったので何もすることがなく寝ていた。
昼ぐらいだったと思う。目が覚めるとママが隣で寝ていた。どうやら私のことが心配だったみたい。
小さな頃から引きこもっていたからママの寝顔なんでこの時初めて見た。
「ん…う…ん、あれ美蘭…?起きたの?」
「うん、ママ。おはよう。」
「身体はもう大丈夫なの?」
「うーん、少し身体が重いかな…。」
「それじゃ横になってなさい。」
起きるのも苦しかったのでママの言葉に甘えた。
次に目を開けた時は夕方位だった。どうやら寝入っていたみたい。
しばらく経ってママが部屋に入ってきた。
「あ、美蘭。起きたのね。」
「うん。ついさっきね。どうかした?」
「お医者さんに見てもらおうと思って連絡したの。もうすぐ来るはずなんだけどね。」
「お、お医者さん来るんだ。」
「そうよ。私も分からないし、かと言って心配もあるし。」
とその時ピンポーンとインターホンがなった。と同時にお医者さんが入ってきて、私の部屋に来た。
「美蘭ちゃん久しぶり。と言ってももう覚えてるわけないよね。」
「え…あ、はい。」
「大丈夫だよ。僕と美蘭ちゃんが会ったのは美蘭ちゃんがまだ1、2歳の頃だったし。」
ママの話によると親戚の人らしい。それりゃそんな頃のことなんて覚えてる人の方が少ないと思うけど。
とまあお医者さんの話はこのくらいにして、診断をしてもらってからの話をしよう。
お医者は診断が終わると深刻そうな顔をしていた。そして口を開いてこういった。
「本当に申し上げにくい事なのですが、本人にもお母様にも言わなければなりませんね。」
「ど、どういう事ですか?」
「美蘭ちゃんはあと1年もせずに命を落とします…。」
暗い雰囲気になり、3人とも口を開くことがなく沈黙の間が続いた。
しばらく続いてからママが口を開く。
「どういうことですか?」
お医者さん曰く、私のこれは最近増えている症状らしく前例があるらしい。私以外にも性転換している人がいた事にびっくりしたんだけど、それよりもびっくりしたのがこの性転換した人はみんな動けなくなっていって命を落とすらしい。この症状の怖いところは直ぐに症状が出るわけでなく、だんだんと、じわじわと症状が出てくる所だ。
話が終わ暗いり空気の中お医者さんは帰って行った。
私は泣くほど悲しい出来事のはずなのに、涙を出す前に状況の整理が追いついていなかった。
隆二くんが帰って来た時に私のことはママが伝えてくれるって言ってくれた。私はショックが大きかったのか、それからは全く眠れなかった。
隆二くんが帰って来て、ご飯を食べた後隆二くんがそばに居て少し心が楽になったのか寝ることが出来た。
その次の日、私の熱は下がりアルバイトに行けるまでに回復した。隆二くんとまた一緒に行けることに少し幸せを感じつつも、それがいつまで続くのか不安が積もった。
今日は金曜日、昨日休んでしまったから今日ならもしっかりしないと。
隆二くんとも合流して11時半に間に合うようにバイト先に向かった。
私たち2人とも暗い雰囲気の中で向かった。会話はいつもよりあまり弾まなかった。
花の通花店では何も無いところで転ぶことか多かった。そんな調子だったのでバイト終わりに心配された。
「美蘭ちゃん、大丈夫?」
「え、あ、はい。多分ですが。」
「調子悪い時は言ってね?」
「は、はい。」
その日は足が絆創膏だらけになり、隆二くんがおんぶしてくれた。
ただ…この次の日からが災難続きになる…。
次の日。
私は起きると視界が昨日よりも少しだけ狭くぼやけており、足で立とうとした時に崩れて膝と手をつく状態までに筋力が落ちていた。
その日からバイトに行けなくなった。
「隆二くん、ほんとにごめんね。」
と一言バイトに行く隆二くんに言った。それ以降のことは辛くてこの日のことはあんまり覚えてない。
この日からさらに1週間が過ぎると、立てなくなり、耳の聞えも前より悪くなった。上半身はまだ動くのでいいのだか、病の経過というやつが早すぎると思った。
これこら段々と悪くなっていくと思うとゾッとした。
半年後…。
季節は肌寒い季節となり、紅葉が綺麗だった。
だけど、その時の私は、もうほとんどの体の機能が働かなくなっていた。目がメガネをかければ少し見えて、ボソボソと話せ、音が多少聞こえる程度だった。
この時、私もう明日は死んでるなと悟った。ならせめて隆二くんと一緒に居たくて…。
「隆二くん、今日だけはさ、一緒にいてくれない?」
「うん…いいよ、バイト先には連絡して…おいたから。」
「あ…ありがとう。」
あの半年前から下の方から段々と動かなくなってきており、この時は体を起こしてもらって食べさせて貰ったり、飲ませて貰ったりしていた。
私は正直もう生きてるのが辛かった。楽になりたいと思った。隆二くんへの思いはあるけれど、この時の状況が本当に辛かったから、思いより楽を選んでいた。
そんな時隆二くんが夜に思いも寄らない展開を起こしてくれた。
隆二くんは私の右手を顔の前で握りながら私と話していた。
「美蘭ちゃん…もう寝る時間だね。」
「う…うん。隆二くん、今日は1日楽しかったよ。ありがとう。」
「そんな、そんなこと……。」
隆二くんは泣き出していた。
「美蘭ちゃん、自分で理解してるんでしょ…?もう明日も危ないって…。」
「うん。」
「ごめん…ごめんね…。僕が無力なばっかりに…。結局、性転換の時と今も何もしてあげられず、ただ…そばにいてあげられることしか…出来ない…。」
「隆二くん、やっと泣いてくれた。いつも我慢して私と話してるの何となく分かってたよ。良かった、ちゃんと隆二くんも悲しんでくれてた。もしかして、私なんか本当はどうでもいいんじゃないかって少し心配だった。」
「そんなことある訳ないよ!好きで好きで…好きで…。」
「ふふっ、ありがとう。隆二くん。あ、あと、ごめんね、私もう疲れちゃった、隆二くん好きだよ。おやすみ。」
「お、おやすみ…。」
隆二くんはそっと私の手を自分の目の前に置き、泣いていた。その時だった。隆二くんの涙が私の薬指に当たった。このことが驚く展開に持って行ってくれた。
次の日、死ぬと思っていた私は、起きた時に驚くべきことが起こっていた。首は曲げられなかったが、確かに隆二くんが握っていた右手の薬指が多少動いたのだ。
この日から私は驚くべき回復を遂げた。3ヶ月経つと上半身は完全に動くようになった。
お医者さんによるとあと長くとも3ヶ月で完全回復に向かうだろうとのことだった。もちろん経過で見てだが。回復の要因は分からないらしい。好きな人の、つまり隆二くんの好きな人への思いが伝わったのかもとお医者さんはつき加え、らしくもないことを言うけどね、と言っていた。
それから2ヶ月後体は完全回復し、リハビリを始めていた。歩く感覚を取り戻すのに時間がかかった。その日も車椅子に乗り家に帰った。確かママが今日は隆二くんが来ると言っていた。その事が楽しみで早く帰りたかった。
家に着いて玄関を開け、車椅子ように作ってくれた手作りの坂道を上り、台所のドアを開けた。
「ただいま、隆二くん、ママ。」
~Fin~
-おまけ-
「ママ!いってきます!」
「行ってらっしゃい!今日もアルバイト頑張るのよ。」
「はーい。」
私は家を飛び出した。今日は私が隆二くんを迎えに行くから少し早めに。
(ピンポーン)
インターホンを鳴らし、隆二くんが出てくるのを待った。
ドアを開け隆二くんが姿を見せる。
「隆二くん、行こ!」
「うん、行こっか。」
今日も変わらずにアルバイトに出発した。
お・わ・り
とんでもなく終わりが早いと思っている方もいらっしゃると思いますが、僕が描いていた「私はわたし1」はこれで終わりです。
また機会があればこの作品を書き上げたいと思います。ここまで読んでいただいた方、ご愛読ありがとうございました。




