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NECROMANTICA  作者: Darkplant
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第二章 2-3

「……ヨルベスクに勝てる見込み、かぁ。普通に戦ったら、極端に低いだろうね。いや、無いと言ってもいい」


 アスモデはブランカの顔を神妙な顔で見つめ、


「最大の違いは『効率』だ。同じ術式を発動するために必要なコストがまるで違う。君が効率を捨ててでも効果を取ったのに対して、ヨルベスクの魔術は兎に角節約志向だ。奴は術式を起動するのに必要な魔力を、通常のように自分自身の魂を削り取って賄うのではなく、使い魔を構成している無属性の魔力を分解・再編成することによって効率的に補っている。本人の魔力消費はほぼ無いに等しい。悪く言えば臆病、よく言えば用心深く、それ故に継戦能力が高い。それに対して君は……」


「……戦えば戦うほど」


 ブランカの白濁した右眼に、一匹の蠅が止まった。本人は全く気付きもしない。


「命が、削られる」


 亡者と大差ないブランカの躰であったが、全ての魔女が、契約にあたり、このような有様と成り果てるわけではない。この肉体の異様な変性は、ブランカのようなネクロマンサーにのみ必要となる「瘴気」の影響である。


 亡者を動かすための燃料となり、また他の魔術式の起動のための贄としても代用可能な瘴気だが、生体にとっては猛毒にあたる。そこで本来、ネクロマンサーは何らかの密閉容器に瘴気を封じ込め、使用の際に取り出すことによって亡者を配下に置くのだが、元々路上で暮らしていた孤児に過ぎないブランカの手元に、そのような便利な代物がある筈もない。そもそもブランカは魔女としての才能に乏しく、そのままの肉体だけでは基礎的な魔術の行使もままならなかった。


 結果として、アスモデに薦められる形で彼女が選んだのは、己の身に瘴気を宿すという選択だった。


 変化はすぐに訪れた。髪は抜け、或いは白く染まった。肌から色が消えて失せ、肉は萎びて、やがて内側から腐り落ちた。体温が無くなり、死体同然になった。ほんの少しばかり身体を動かすことにすら、激痛が伴うようになった。アスモデの言が正しければ、瘴気を使用し、或いは躰の内部で生成する度、彼女の肉体と魂は朽ち果て、その寿命はみるみる縮んでいるらしい。契約を交わして一週間で、既にこの有様だ。今後どうなっていくのか、想像もつかない。


 ブランカは、構わない。たとえどんな肉体に成り果てようと、どれほどこの命を削ろうと。元よりこの命は、姉のためにのみある。姉が戻ってくるのであれば、自分などどうなっても構わない。


 だが仮に、そのせいで聖骸に辿り着けないのだとしたら、それは何とも苛立たしく、腹立たしかった。


 元より姉を失ったのは、己の弱さの所為なのだ。それを乗り越えんとして、魂を汚してでも手にしたこの力。これだけのことをしても、これだけのものをその身に宿しても、なお姉に至る術を持たない、そんな自分の弱さがどうしようもなく癪に障った。


「……ねぇ、アスモデ。あんたさっき、『普通に戦ったら』って」


「あぁ、言ったね」


「教えて。どうすれば、勝てるの。あいつを、潰せるの」


「そうだね。それは確かに重要な事項だ。この後教えてあげてもいい。ただ――」


 アスモデはブランカをじっと見つめ、どこか困り果てたような溜息をついた。


「それよりもだよ、僕のジェスター。ヨルベスクの対策を練るのもいいかもしれないが、今君が第一に考えるべきはそんなことじゃない筈だ」


「……どういうこと?」



「教皇庁だよ」



 ブランカの表情が固まった。アスモデは淡々と続ける。


「聖遺物が保管されている大聖堂に、二人の魔女が堂々と侵入した。《聖骸》が奪われずに済んだのは彼女たち同士の諍いのせいであって、とうの執行者たちは本当になすすべもなかったわけだ。これだけの無能が露呈した以上、何らかの人事再編が行われるのは間違いない。大方あれだよ、魔女を狩ることを専門とする、トチ狂った連中の中の誰かを連れてくるんだろうね」


「トチ狂った……?」


「あぁ、その通りだよ。君は見たことがないのかもしれないけど」


 自分は見たことがある、という口ぶりだった。彼にしては珍しく、苛立ちをあらわにしているあたり、相当厄介な目に遭ったのだろうとブランカには推測できた。


「その手の連中がここにやってきたならば、これから不味いことになる。君にとっても、僕にとっても。思惑が完全に崩れかねない」


 そうして、どこか投げやりに付け加える。


「願わくば、同じ名高い執行者でも、穏健な奴に来て欲しいところだけれどね。……そんな奴がこの世にいれば、だけど。」


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