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NECROMANTICA  作者: Darkplant
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第四章 4-6

 無数の蠅が飛び回り、赤黒い肉塊に群がっている。この腐敗しかかった肉塊が元々人間であったなどと言われても、信じることは難しいだろう。だが、貧民街の路地ではよくみられる光景である。


 一人の血まみれの幽鬼のような少女が、建物の影の中から現れる。ところどころ骨が剥き出しになった裸足が、ぺた、ぺたと、石畳の上をふらついていった。


 ひび割れた爪が、首元をガリガリと引っ掻いた。見ると少女の首は、少しばかり切り口の大きさが合わない青白い身体に、無理やり縫い合わされている。体格にさほどの変化が無いのは、この街において、幼い少女が人知れず命を落とすことがさほど珍しくないからに他ならない。


 この肉体には欠損があった。片腕が既に失われている。


 だが、その状態も、そう長くは続かない。


 群がる蠅や蛆に構わず、肉塊の中に突っ込まれる、青白い左腕。引っ張り出された、辛うじて人の腕の残骸と思われるものを、少女は自らの右腕の付け根に押し付けた。


 針と糸を手に持った、半透明な骸骨が、少女の周りに二体ほど浮かび上がる。瞬く間に少女の新しい「腕」を縫い合わせると、そのまま風の中に溶け込むように消えた。少女はそのまま、しばらく黙っていた。


 やがて、そのひび割れた唇を開いて、


「――――アスモデ」


「なんだい」


 どこか小馬鹿にしたようなその声が背後から響いた瞬間、少女は反射的な勢いで振り向くや否や、左腕を突きだし、そこに立っていた中性的な少年の胸ぐらを思いっきり引っ掴んだ。続けて、強く握った血みどろの右腕を振りかざし、掠れた絶叫と共に、そのまま少年の顔に向けて振り下ろす。


 笑顔の少年、その顔の横にいつの間にか持ち上げられていた彼の左の手のひらによって、その拳はあっさりと受け止められた。まるで銅像にでも殴りかかったかのような感触だった。少年はびくともしていない。


「ところで君の新しい右手、これ誰かさんの左手だったみたいだけど」


 アスモデがにこりと笑う。


「大丈夫? 困らないかな、君は」


「アスモデ――」


 ブランカの目は血走り、怒りに燃えていた。


「あんたは、嘘をついた」


「嘘なんてついていないさ。君がただ早とちりしたってだけのことだよ」


「ふざけないで!!」


 ブランカが喚く。


「《聖骸》を手に入れても何も起こらなかった。お姉ちゃんは生き返らなかった!! 何が奇跡よ、何が神の権能の残骸よ!! そんなバカげた代物神様なんかじゃない、あたしはそんなもののために、これだけの対価を支払って、これだけのことをしてきたわけじゃない――!! こんな話があってたまるか!! ふざけるな!! この悪魔め!! 


 教えろ、アスモデ!! 何を隠してる!! あたしがお姉ちゃんにもう一度会うために――これ以上、一体何が足りないって言うんだ――!」


「……」


 アスモデはブランカの叫びを、目を閉じて、まるで高尚な音楽にでも聞き惚れているかのように黙って頷いて聞いていたが、やがてその赤と黄色の山羊のような目を開いて、


「今回の一件で、僕には大よそ事態が掴めたよ。成程ね、言われればその線があった。早めに君に伝えられなかったことに関しては、本当に悪いと思っているんだよ」


「白々しい――」


 そう吐き捨てたブランカだったが、その次のアスモデの言葉を聞いて、思わず彼女は絶句した。



「矛盾しているようだけどね、僕のジェスター。ちょっとでも考えればわかることだが、万能の奇跡にも、不可能なことはある」


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