第一章 1-1
「なんと忌々しい。なんと度し難くおぞましい」
此度の黒魔女の討伐を任されている執行者部隊の長、クリストフェル=ロドリゲス神父が、件の現場に辿り着いて真っ先に、苦々しく口にした言葉である。
「よりにもよって、死霊術師とは」
深夜を回ったサン=ダヴィーデ聖堂へと駆け込んできた恐慌状態の市民たちの知らせを受け、街へと繰り出した執行者たちが目の当たりにしたのは、まさに地上の光景とは到底思えぬ惨状だった。
街は燃え上がり、燃え盛っていた。火の手があちこちから上がり、悲鳴をあげる人々が逃げ惑っている。空には赤黒い黒煙が満ち、遥か満月の威光は最早消えて失せていた。
そして石畳の道を、喰らうべき生者を求めて、亡者たちが蠢き、よろめいている。
亡者の形相は様々である。路地にでも打ち捨てられていた貧者の遺骸を蘇らせたと思われる、腐乱の激しい肉塊のようなものもあれば――これらが事態の発生源であると見て良いだろう――見るからに新鮮、腕の一本、胴の内側、或いは顔の半分だけが貪り食われていることさえ除けば生身の人間ともまるで変らぬようなものもあり、数としてはこちらの方が遥かに多い。後者に関しては、ほぼ間違いなく、ほんの僅か数刻前まではごく普通の人として生き、ごく普通の生活をこの街で送っていたに違いない者たちの、おぞましき成れの果てである。
「――許せぬ、許せぬぞ、忌まわしき魔女よ」
聖別されたメイスを振りかざし、ロドリゲス神父が吠え猛る。
「必ずや我が手にて見つけ出し、成敗してくれよう――!」
亡者どもの群れが、ロドリゲス神父たちへと向き直る。神父が雄叫びを上げ、他の執行者たちと共に、彼らの群れの中へと切り込んでいく――。
だが、ロドリゲス神父は知らない。
彼の咆哮と同刻、彼の本拠地、本来守り抜く最終砦たる筈の荘厳たるサン=ダヴィーデ聖堂――ゴシック・フランボワイヤンの最高傑作と称えられるその右塔、アーチ構造の複合棟を突き抜けて頂上たる角錐に、一人のぼろを纏った少女が、眼前に広がる地獄絵図を見据えながら、一匹の飢えた蝙蝠の如くしがみついていたことを。己の望んだとおりの光景を認めたその少女が、ひび割れた唇の間から、乾き切った笑いを洩らしたのを。
そしてそも、彼女のような者が、そのような場所に平気でいられるのは、聖堂内部の主要たる執行者部隊が既に現場へと出向き、聖堂の守りが極端に手薄となっている、今だからこそであるということを。
有り体に言えば、それは陽動であった。
冷たい夜風が吹き抜け、少女の灰色の薄い髪をなびかせた。少女は虚ろな吐息を洩らした。骨と皮ばかりのような、既に骸であると言ってよいその躰を、徐々に前にのめらせ、のめらせ、そして一言小さな詠唱を呟いて――
――前方の虚空へと、己が身を投げ捨てた。




