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NECROMANTICA  作者: Darkplant
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第四章 4-1

 ――――――殺される。


 瞬時の直感だった。それは生存本能があげた悲鳴だった。


 無理もない。迫る《聖痕者》の顔は、鮮やかな殺戮の歓喜に彩られている。アスモデから聞いている内容を加味しても、正面から戦える相手ではない。


 素直に戦っては、死ぬだけだ。


 普通に逃げても、追いつかれる。


 窮したブランカが反射的にとった行動は、足元に死霊を召喚し、自らの身を横に放り投げさせると同時に――


 その左手に握られていた《エリエゼルの聖骸》を、逆方向に、無造作に投げ捨てることだった。


 マリアが目を見開く。殺してから奪い取るつもりだった彼女にとって、相手自ら《聖骸》を手放してくることは予想外だったに違いない。貴重な聖遺物を収めた箱が地に触れるのを良しとしなかったのか、彼女は片手の武器を投げ出し、そのままの勢いで飛び上がると、箱を空中で掴み取った。


 たった一瞬、ブランカに与えられた猶予。その隙に彼女は、自らの足元に死霊をかき集め、浮遊する半透明の足場を構築した。その上に飛び乗り、燃料代わりの瘴気を思いっきり左手のひらから送り込み――全速力で、路地の奥へと走らせた。


 ――逃げる。逃げる。全力で、逃げる。迷宮のような道を、次々とランダムに、願わくば追われないように曲がっていく。後ろを振り向く余裕はない。しかしその間にも、切り株のようになったブランカの右肘は、耐え難い程の激痛を絶え間なく発し続ける。傷口からあがる蒸気、肉体が溶けて侵食されていくかのような感覚。聖別された武具に備わった、悪魔的存在の浄化作用。このままでは程なく、戦闘どころか、正常な思考すら難しくなるだろう。


 劈く痛みに喘ぎながらも、ブランカは残された左腕で懐からナイフを取り出した。震えるナイフを、自らの右腕、肩より少し下あたりに構える。歯を食いしばり、目をぎゅっと閉じて――


 ――右腕が、根元から切断された。


 それと同時に、ブランカは安堵の声をあげた。痛みが引いたのだ。既に半分死んだ肉体、たかが腕が普通に切断された程度の痛みなら気にならない程に感覚は鈍い。要するに浄化さえされなければ良いということになる。切断された肉塊が、泡立ちながら、後ろへと宙を転がるようにしてすっ飛んでいく。


 と、同時に――一本の牛刀が空を切り、その肉塊を正面から貫いた。軌道が僅かに逸れ、牛刀は、前方を見据えて飛翔するブランカの顔のほんの真横を通り過ぎた。放られた牛刀は、そのまま横の建物の壁にぶち当たり、土煙を上げ、右腕の肉を貫いたまま、煉瓦に深々と突き刺さる。持ち手部分すら、半分煉瓦の中にめり込んでいる有様であった。


 声にならない悲鳴と共にブランカが振り向いたその先、狂奔に彩られた笑顔を浮かべた生き血染めのマリアが迫ってきていた。建物の屋根から屋根へと身軽に跳ねて飛び移り、或いは垂直な壁を通常の地面さながらに前のめりに走りながら、凄まじい速度で距離を詰めてくる。その両手には鋭利な牛刀。血走った目に映るのは、どんどん大きくなっていくブランカの姿。《聖骸》を持っていないことを鑑みるに、大方後から追ってきた聖職者たちにでも預けてきたのだろうが、そのような悠長なタイムラグがあったにしては、追いついてくる速さも、早さも、ともに尋常ではない。


 迷路のように曲がりくねる路地を、霊体の塊に乗ったブランカが抜け、その一瞬後をマリアが追う。距離は詰められる一方だ。ブランカは唇を噛み、必死に思考を巡らせた。どうすれば――。


 と、その思考が途中で切れた。


 路地を抜けたのである。

今後少し、一日当たりの投稿量が減ります。

毎日更新は続けます。

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