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NECROMANTICA  作者: Darkplant
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第三章 3-6

 《エリエゼルの聖骸》を手に入れるにあたり、アスモデとの話を通じて、分かったことは三つ。


 第一に、今日の夕方か夜にも派遣されるであろう執行者は、まず間違いなくブランカが戦って勝てる相手ではないということ。故に《聖骸》を求めて聖堂への攻撃をかけるのだとすれば、それは今日中、それも可能な限り早くでなければならない。


 第二に、昨夜の襲撃を考えれば当然のことではあるが、教会の警備は本来にも増して厳重なものとなっており、強行突破はできないということ。《聖骸》に辿りつくためには、秘密裏に潜入する必要がある。パターンとしては、気づかれずに忍び込むか――或いは、誰かのふりをするか。後者の方が、まだ算段がある。


 そして第三に、潜入する過程において、一切の魔術を用いてはならないということである。


 教皇庁の執行者たちは皆聖別を受けており、個人によってその力量に差はあれど、奇跡の御業を操ることが出来る。聖句を詠むことによって傷を癒し、或いは不浄を取り除き、或いは悪魔を除霊し、或いは魔女を退散させる。また彼らがもう一つ得手とすることが、魔女の手による魔術の行使、これを敏感に探知することであった。故にこそ彼らは、魔女を正確に討伐することが可能となっている。




 大勢の目を盗んで、しかもブランカのような不自由な身体で、一切の魔術を用いることなく、気づかれずに教会に忍び込むことはまず不可能だ。ともなれば潜入するためには、誰か信用され得る人物のふりをするしかない。それも、歩き方のぎこちなさをごまかそうと考えるのであれば、怪我人のふりをするのが一番だ。


 そこでの問題は、そのような人物の「ふり」をするために必要な変装だが。


 最も容易い変装の方法を、ブランカは既に知っている。




「――お相手の切り取りは終了」


 丁寧に剥いだセリーヌの顔の皮を手にしたブランカに、アスモデが笑いかける。


「それじゃあ今度は、君の番だ」


「……うん」


 ブランカはこくりと頷いた。自身の顔の元へと、ナイフを掲げる。




 路上に滴る鮮血。痛みを我慢して食いしばられた歯がギリギリと鳴った。やがて仕事を終えたブランカが、自身の血まみれの顔の上に、まるで仮面のように、セリーヌの顔の皮膚を張り付けた。


 話によればアスモデは、その気になれば、腹を修復した時より余程綺麗に縫い方を整えることも可能だという。少なくとも、詳しく調べられない限りは発覚しない程度には。


 ブランカには、うまく芝居を打てる自身が無かった。ましてやこの少女の人となりについて、自分はほとんど何も知らない。その点、意識も朦朧とした怪我人という「設定」は、演じやすくて好都合だった。


 これで恐らく、問題は無いだろう――。そう思った矢先、アスモデがブランカに声をかけた。


「あぁ、ダメダメ。それだけじゃ足りないよ、僕のジェスター」


 アスモデは、本当にしょうがないなぁ、とでも言いたげに溜息をついた。


「君の眼の色は黒。対してこの娘は青色だ。このままで潜入できるとでも本気で思ってるのかい」


 そう言って片眉を吊り上げて笑うと、


「さぁ、早く君の眼球を抉り出して、この娘のと交換するんだ」

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