ひな鳥ドリーム
「好きです・・・高梨先輩。」
放課後の校舎裏で今まさに告白が行われていた。
緊張した面持ちで告白をしているのは一年の女子生徒。
それを驚いて告白を受けているのは二年の男子生徒。
「・・・・・ごめん。俺は・・・」
「わかってます。七瀬先輩が好きなんですよね。」
「なんでそれを・・・」
驚いた表情の男子生徒に女子生徒が悲しげに微笑む。
「みんなが知ってますよ。断られるのも分かってました。でも・・・この気持ちに決着を着けたかったんです。」
「ごめん・・・」
「先輩・・・私がこんなことを言うのも変ですが、七瀬先輩とお幸せに。」
目を伏せる男子生徒に女子生徒は儚げな表情で一礼してその場を去る。
「さて・・・行くか。」
物影からこっそりその現場を見守っていた俺は女子生徒が去ったのを見てからこっそりと呟いて移動する。
立ち去った女子生徒を追うために・・・
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さて、少し自己紹介をしようと思う。
俺の名前は大熊正吉。
高校2年生だ。
一般的な男子高校生である俺だが、実はある秘密がある。
なんと、俺は前世の記憶があるのだ!
・・・・・いや、ひかないでよ。
中二病とかじゃないから。マジだから。
さて、そんな前世の記憶がある俺なのだが、もうひとつ重要なことがある。
なんと、ここは俺が前世でやっていた恋愛シュミレーションゲーム。いわゆるギャルゲーの世界に似ているのだ。
「ひな鳥ドリーム」というタイトルで、内容は主人公が高校に入って、悩みをもつヒロイン達と出会い恋におちるという王道ストーリーで、前世オタクな俺はまさに大好物なギャルゲーだった。
プレイヤー・・・主人公の名前は「高梨イツキ」という名前で固定で、ヒロインは同級生2人に、後輩が一人と、先輩2人の全部で5人。
メインヒロインは同級生で幼馴染の「七瀬綾香」という、黒髪巨乳な美少女だ。
俺が、この世界をゲームだと気付いたのは高校に入学してから。
なんか見覚えのあるところだなーと思っていたら主人公に話しかけられたのだ。
いやー、最初はマジでびびったよ。
隣の席になった主人公に「よろしく」と挨拶をされて、有名人に会ったような感覚になったよね。
あ、ちなみに、俺はいわゆるモブキャラで役柄的には「クラスメイトC」とかそのあたりに属する存在。
名前すらないモブキャラで、ゲームの中でも主人公に「おーい!高梨。お前の奥さんがきてるぞー。」という一言のためだけのキャラだ。
ちなみに、奥さんと言ったのは幼馴染の七瀬のことだ。
さて、このゲームの期間は主人公が2年生に進級してから3年生になるまでの1年を主な舞台としており、その間に主人公はヒロインと恋する。
で、ここ最近の主人公の動きから完全にメインヒロインのルートに固定になった。
フラグは完全に立ったのであとは流れに任せればいいのだが・・・モブである俺、というか、俺自身には記憶を得てから決めていたとある決意がある。
メインヒロインの七瀬ルートでは、途中に後輩の女子生徒から主人公が告白されるというイベントがある。
もちろん、告白を断る主人公だが、それがきっかけで七瀬と恋人になるという重要なシーンで、密かにこの告白イベントはファンに愛された名シーンとなっていた。
ゲームでは“後輩女子”としか表示されない告白をした女子生徒の名前は「工藤沙耶」。
俺は、彼女のことが好きだ。
というか、前世の時からの密かなファンだ。
実はこのゲームがまだ同人ゲームの頃は彼女とのやりとりはテキストにしか出なかったが、そのあとの一般向けなハードに移行されてからはファンからの熱い要望により、なんと立ち絵が追加されたほどの人気だ。
工藤沙耶の告白イベントを生で見られる!と嬉しく思ったのが最初の頃だが、2年生に進級してから部活で彼女と一緒になって話をしているうちにマジな恋心を彼女に覚えたという甘酸っぱい記憶は今も鮮明に覚えている。
さて、今俺は先程告白をしていた工藤を先回りして部室で待っている。
何故部室かって?
実はここ最近、俺は彼女によく恋愛相談を受けていたのだ。
まあ、部活の仲のいい先輩、後輩としての相談からがはじまりだったが。
内容は主人公のことなのだが、聞いてると意外に心にダメージがくるんだよね。
いや、だって、好きな人からの恋愛相談って何の拷問だよって話だよ。
まあ、結果は分かりきってるからほどほどに、でもある程度真剣にアドバイスはしてましたよ。
いや、もうほんとにある程度、好感度を上げておきたかったから、辛かったけど、頑張りました!
そんで、今日の告白が終わったら報告と鞄をとりに部室に寄るように言っておいたので俺は彼女を待っている。
しばらくすると、廊下から足音が聞こえてきて、ドアがあいた。
「おかえり工藤。」
部室に入ってきたのはもちろん、工藤だ。
彼女はうつむきがちで入ってきたが、俺の声で顔をあげた。
「先輩・・・・」
彼女は、悲しげに笑顔を浮かべていた。
俺はそれを見て思わず椅子から立ちあがり、彼女の元に歩み寄る。
「工藤?」
「え、えへへ・・・やっぱりダメでした。」
近づいてわかったが、彼女の体が軽く震えていた。
俺は彼女の頭に手をおいて撫でた。
「せ、先輩・・・?」
「よく頑張ったな。工藤。」
いいこいいこ、と頭を撫でる。
驚いた表情だった工藤はしばらくすると、表情が歪みやがて俯いて涙を流した。
・・・まあ、そうだよね。
望みが薄いのは本人もわかっていたはずだ。
でも、好きな気持ちを持っていたのも事実。
それでも、ここまで泣かずに我慢してきたのは褒めてあげるべきだろう。
「工藤。」
俺は彼女に呼びかける。
顔をあげた彼女は触れれば壊れてしまいそうなほどに弱々しく涙を流していた。
そんな彼女をみて、俺は罪悪感を抱きつつも彼女の目を見て言った。
「俺に・・・いや、俺を見ろ。」
「せん・・・ぱい・・・」
真っ直ぐに見つめると彼女は涙ながらにこちらを見返していた。
そんな彼女に俺は・・・
「工藤、俺はずるいやつだ。今から俺はお前に酷いことを言う。だけど、聞いてほしい。」
失恋したばかりの後輩に言うには酷なことだろう。
けど、俺は言う。
「工藤。俺は・・・」
不安そうな彼女に俺は思いをのせて言った。
「俺はお前が好きだ。」
「・・・・・・・・・えっ?」
驚いてフリーズする工藤。
俺はそんな彼女の目を見て真剣に言った。
「俺を・・・俺だけをみてほしい。」
「な、なんで・・・・」
「きっかけは、お前との恋愛相談だ。お前の真っ直ぐな瞳が好きになった。もし、お前が成功すれば諦めるつもりだった。けどさっきのお前をみて我慢ができなくなった。」
「せ、先輩・・・」
「なあ?お前は俺のこと嫌いか?」
「そ、そんなことは・・・で、でも・・・」
不安そうに彷徨う瞳。
俺は彼女の頬に手を添えた。
「俺はお前だけを見つめる。絶対にお前の側から離れない。だから・・・俺だけをみてくれないか?俺はお前が好きだ。大好きだ。」
「あ、あのあの・・・わ、わたし・・・」
顔を真っ赤にしてあわあわする工藤。
可愛いが、俺はここでやめたりしない。
傷心に漬けこむようで嫌だがチャンスは今しかない。
「工藤。」
「あ、あの・・・先輩は・・・」
躊躇したあとに工藤はすがるようにこちらを見つめた。
「先輩は、わ、私の側にいてくれますか?」
「当たり前だ。お前の側にいて絶対に離れない。」
「・・・本当ですか?」
「本当だ。」
「・・・本当に本当ですか?」
「本当に本当だ。」
「でしたら・・・」
工藤は涙の溜まってる瞳と赤くなった頬でこちらをみて微笑んだ。
「先輩だけをみます。先輩だけを・・・」
「工藤。それって・・・」
「はい・・・先輩はずるいですよ・・・傷心な後輩を口説くとか・・・」
「悪かった。お前が本気で好きだから止められなくてな。嫌だったか?」
「いいえ・・・」
工藤はこちらが見惚れるほどに最高の笑みを浮かべた。
「私も今ので先輩に惚れちゃいましたから。」
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さて、それからのことを少し話そう。
俺と工藤はそれから恋人になった。
実は物凄く依存心が強かった工藤が若干のヤンデレ化したり、ひとり暮しをしている俺の部屋に工藤が同居したり、工藤のご両親と話し合って、工藤父と「娘はやらんぞ!」イベントをこなしたり、それから仲良くなったり、工藤母に弄られたり、俺の両親と弟から驚かれたりしながらも、工藤とイチャイチャしながや過ごした。
ちなみに、主人公は見事に七瀬ルートを攻略して今は周りを気にせずイチャイチャしている。
ときたまデートの時に主人公カップルを見かけるときもあるが、工藤はもう気にしていなかった。
むしろ、「むこうよりももっとイチャイチャしましょうよー。先輩。」と言って恥ずかしいくらいにベタベタとくっつく。
ーーモブな俺と当て馬的な彼女は今日も平和にイチャイチャしているーー
お読みいただきありがとうございます。
今回はギャルゲーのモブ風味に書きました。
いやー、よくギャルゲーで主人公などに告白してひっそりと引き下がる女の子をピックアップしてみましたが、キャラが難しいですね。
最近は婚約破棄もの、いわゆる乙女ゲー的な作品が多かったので、今回はギャルゲーにしてみましたがいかがでしたでしょう?
少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
ではではm(__)m