第3話 デク人形とエンジェルと
◆3
辿り着いたのは西隣のオフィス街だった。深夜2時を過ぎたこの街は人一人おらず、死んでいた。
「いいかデク。今日だけだ。今日だけは教えてやる。今後はお前一人だ。お前に語りかけてきた声があっただろう?」
「ああ。あの幻聴か」
思い出したくもない。
「アレが聞こえたらアレに答える気持ちで『ディメンション』と叫ぶのだ。そうすれば声の主『神器』が亜空空間より召喚される」
「ジンギ?」
「ああ、貴様ら人間の言う伝説の武器やらなにやらだ。神器には意志がある。あとはその意思と意思疎通を図れ。貴様の戦いを幇助してくれるであろう」
「バレロックが持っている斧のような杖か?」
「ああ、これはバルディッシュ。俺固有の神器だ。貴様には貴様固有の神器が出現するハズ。ハズレもあるからな。アタリを引くことを願っておこうか」
「ハズレ?」
「字引通りの言葉だ。では健闘を祈るぞ、我が愛すべきデクよ」
バレロックはそのまま飛び立っていってしまった。
殺気。そう、確かにここへ連れてこられるまで殺気に近い感覚を味わっていた。嫌な感じは単純に言えば殺気だったわけだ。
俺はオフィス街を探索することにした。
静けさが辺り一面を支配していた。ビルの窓には明かりもない。自動車も走っていない。誰ひとりいない。
しかし殺気だけは感じる。
俺は殺気のするほうへ歩き出した。
次第に殺気が強くなるのを肌で感じる。
ビルの間の小道から殺気が強く感じる。
“次元の扉を……”
また幻聴が聞こえた。
この緊張感、緊迫感、切迫感。神経がビリビリと高ぶってくるのが分かる。
この感じか。
“我の封印を解き放て……”
俺はバレロックの言葉を思い出した。
「ディメンション!神器よ!我が手に!」
多少のアドリブを織り交ぜながら俺は封印解除の言葉を言い放った。
次元の歪みが生じる。
そこから無骨なくらい、大きな銀色の大剣が現れた。
それを両手で構えた。俺の身長ほどの大きさがあった。
“我が名はレバンテイン、地獄の業火を司る……”
「分かった。レバンテイン、戦いのとき以外、俺に声をかけるなよ。勉強できないからな!」
“……承諾した……”
手にした大剣を持ち、俺は小道に躍り出た。
待ち受けていたのは、30代前半くらいの背広を着た男だった。戦鎚のような大きな武器を手にしていた。
「へえ。このガキが俺の相手か」
男は両手で戦鎚を手に取り振りかぶった。
「悪いが一発でシメる!」
俺はステップを利かせて、遠のいた。
戦鎚から発信する地響きに飲み込まれそうになった。
俺はそのまま表通りに逃げた。
「な、なんなんだ……」
“これが敵の神器の力……”
レバンテインはそう俺に語りかけた。
「無理だろ、こんな凶悪な武器持った敵と戦えなんて……」
男が振るった戦鎚によってアスファルトに亀裂が10mほどは伸びていた。亀裂は深く、相当な威力があることを示していた。
“我が真の力を解き放て……”
「どうすればいいんだよ?」
俺はレバンテインと自ら名乗る大剣に語りかけた。
「独り言ぶっこいてる暇なんざあねえぞ!」
男が襲ってきた。
思わずレバンテインを男の戦鎚目がけて振りかざした。
激しい金属音が辺りに木霊する。
両腕が強烈に痺れるのが分かる。通常の打ち合いでも相当の力を秘めた戦鎚のようだ。
「レバンテイン、どうすればいいんだ!教えてくれ!」
「んな暇与えねえと言ってるだろお!」
男は再び戦鎚を大きく掲げた。
「アイムール!我に真の力を!」
男はそう叫ぶと表通りに出た俺に目がけて戦斧を振りかざした。
“案ずるな、我最強の大剣なり……”
凄まじい地響きと共に、戦鎚の激しい威力を秘めた旋風が俺を捕まえにきた。旋風はアスファルトを破壊しながら、俺に迫ってくる。
「レバンテイン!」
その旋風をレバンテインで受け止める俺。後ろに押されるがなんとか凌いだ。
「馬鹿な……アイムールの旋風を受け止めるなどと……!」
男の表情が一変した。
「ならば直接お前に叩きこんでやる……!アイムール!」
男は戦鎚をかまえながら一直線に俺のほうへ向かって走り出した。
“我を信じろ、さすれば道は開かれん……”
レバンテインが俺に語りかける。
俺は信じることにした。
レバンテインの真の力を。
俺もレバンテインを構え、向かってくる男目がけて走り出した。
「アイムール!」
「レバンテインよ!」
激しい衝撃波が二人周囲に広がる。
激しい金属音が死んだ街にエコーする。
そしてレバンテインは赤く激しく燃え盛った。
「これでいいのか!?レバンテイン!」
俺は燃え盛ったレバンテインを再度振りかぶり、男の戦鎚に目がける。
男は戦鎚でガードしようとしたが、紅蓮のレバンテインはそれごと男を地獄の業火で包み込んだ。
男は炎に包まれ、声にならない叫びを上げていた。
と、その時、上空から声が聞こえた。
「フン、使えないデクだった」
バレロックとは違う、白い翼を持った男が「戦場」に突如上空から舞い降りてきた。
やはり優雅で神秘さを秘めた華麗な飛躍と着地であった。
半ば呆れ顔で戦鎚の男を見つめていた。
分かる。コイツもバレロックとは別の「エンジェル」だ。
そのエンジェルは燃え盛る男のそばまで行き、剣を取り出した。そしてそれを心臓目がけて突き刺した。
「使えないデクは糧にするのみだ」
そのエンジェルはそういうと突き刺した剣を抜き、そっと鞘にしまい込んだ。
「でお前さんかい?俺のデクを見事に葬り去ったのは」
このエンジェルはバレロックと同様、褐色色の肌と銀色の髪の毛をしていた。
ただ髪の毛の長さは短髪だ。服装は黒い十字架の紋様をした白いローブに、白いマント。ローブはスカートのようになっており、下半身は白、ブーツも白と、全身白で統一されている。
服装には所々銀色で装飾されており、剣の鞘も銀色の模様が描かれていた。
中でも印象的なのがマントで、何かの魔方陣のような形に銀色で描かれていた。
「バレロックめ、厄介なデクを作りだして。まあよい。光栄に思うがよい。この俺が自ら殺してやるよ。そして俺の糧になるがよい!」
(こいつ……敵いそうもない!)
本能がそう叫んだ。俺は踵を返して逃げ出そうとした。
しかし、翼のあるエンジェルのほうが速いに決まっていた。
「勝てないとすぐに理解するだけの賢さはあるようだな。当たり前だ!お前さんのようなデクとこのエンジェルを一緒にされては困る!」
エンジェルは俺を通せん坊するように立ちはだかった。
「アンサラー!こいつを始末するんだ!」
すると独りでにこのエンジェルの腰にある鞘から剣が抜けだし、俺目がけて攻撃してきた。
「レバンテイン、俺を守れ!」
レバンテインの意思の力で、辛うじてエンジェルの剣の自動攻撃を凌いだ。
しかし相手の剣の動きのほうが早かった。
乱舞のように舞うエンジェルの剣。
独りでに動き、攻撃を繰り返し続けるその舞剣に翻弄される俺。
「か、かわしきれない……」
と、その時、赤いジャケット姿の女の子が突如現れ、エンジェルのほう目がけて剣を抜いて走り出していた。
「ついに見つけたわ、ヘイズル。お前を殺す!」
女の子の身長は少女にしては高いほうだ。
赤いジャケットにインナーは紺、黒いベルトをしており、スカートは白のミニだった。そして黒のストッキングに茶色のブーツ。少しこの季節にしては厚手の装いである。
髪の毛は黒髪のポニーテイルで赤いリボンでまとめている。二重瞼でパッチリした黒い眼には闘志が漲っていた。
胸は少ないほうで全身スレンダーなボディだ。
「お前さんは……あの時覚醒したバスターか!」
ヘイズルと呼ばれるエンジェルは剣を自分のもとへ戻した。
俺は二人のやり取りを見ることなく、逃げる好機とみなし、脱兎のごとくその場を全力疾走で後にした。




