第1話 後日談
翌日。
俺はいつも通り銀河や真梨恵と登校してきて、いつものように教室で荷物の整理していた。
……違う事と言えば、理科室から聞こえる泣き声の噂が聞かれなくなった事と、自分のクラスの担任枠が空白になってしまう事だろう。
あの日の夜、熊谷先生から『自首する』と電話で告げられた。
榊先生は、熊谷先生の幸せを心から願っていると言った。
俺がその事を言うと、『だから自首するんだ』と返された。
『俺が本当に幸せになるには、自首して、ちゃんとこれまでの事を反省しなきゃいけないんだ。でなきゃ、俺はずっと自分を責め続けるだろう。だから』
俺は、何も返せなかった。
『……卒業まで、見送れなくてごめんな』と言って、熊谷先生との電話は切れた。
――あの時、なんて返せばよかったんだろう?
俺は今でも、それが分からない。
分からないまま、時間は過ぎていった。
――その日の昼休み、俺が銀河にその事を告げた。
銀河は暫く考え込み、その後、口を開いた。
「……俺は。俺だったら。……いや、俺も恐らく、何も言えなかっただろうな」
「だろ? やっぱ何も言えないよなあー」
そう言って、俺は教壇の方を見る。
――HRや授業で、教壇に立つ熊谷先生の姿を思い出す。
明るくて、だけど優しくて、かつちゃんと叱ってくれて。笑顔が凄く眩しくて。
……そんな熊谷先生は、もういない。もう、熊谷先生が教壇に立つ姿を見れない。見れないんだ。
卒業式、熊谷先生にも見送って欲しかった。いや、寧ろ熊谷先生に、見送って欲しかった。
――いつの間にか、俺は涙を流していた。止めようとしても、止まらない。
その様子を見ていた銀河が、そっと俺の肩に手を置いた。黙って慰めてくれているのだろう。
熊谷先生の姿は、もう見れない。
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(熊谷視点)
刑務所の部屋の中で、これまでの事を思い出していた。
あの事件の事も、恵久美の事も、全部。
佐藤に全てを告げたあの日、実はもう一つ、佐藤に告げていなかった事がある。
いや、事件とは関係のない事だったから、告げる必要ないと思っていた。
……実は、俺は『佐藤光輝』の事が『好き』だった。
お互い同性なうえに、佐藤は俺の生徒だ。あまりにインモラル過ぎる。
だが、それでも俺は、佐藤に恋をしてしまっていたんだ。
結局、言えずじまいで終わってしまうけれど。
結局、俺に下された刑は『終身刑』。
神や仏は、俺の事を許してはくれなかったらしい。多分、死んだとしても俺は地獄に落とされる。
「……言えば良かったかなあ」
そう呟いても、そんな呟きが佐藤に届く訳がない。
……ごめんな恵久美。
俺はどうやら、もう二度と幸せになれないらしい。幸せになる事は、許されないらしい。
……きっとこれは、神から与えられた、罰なのだ。
結局俺は、許されない人間なんだ。
一生、償っても、償いきれない罪。
その罪を犯してしまった俺は、もう二度と――幸せには、なれない。
【第2話に続く】