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エピローグ

――あれから数ヶ月が経ち、中学3年生である俺と真梨恵は、志望校にも合格し、無事に卒業の日を迎えた。

由乃や楓真、瀧太郎や菜月、それに後輩達が、卒業していく俺達を祝福してくれた。

俺は、親の志望通り、都内の有名な進学校へ。真梨恵は市内にある通信制高校への進学が決まった。皆、それぞれ思い思いの道へと進む。だが、やはり地元である杜坂高校へ進学する人の方が多かった。都内の学校に進学するのは、多分俺くらいだろう。


――そして、やはり、紀和子と新見先生は、いない。


何時しか、学校中の話題にもあがらなかった。あの二人の話を今でもしているのは、あの時あの場所にいた者達くらいだろう。……こうも簡単に忘れてしまうのか、人というものは。

「……いなかったね、松伏さんも新見先生も」

式の後に屋上で真梨恵と話している途中、真梨恵がそう呟いた。

それは、改めてあの時あった出来事を思い出させるもので、辛くなりそうで、俺は真梨恵の言葉に「やめろよ」と返した。

その後、暫く静かになっていたが、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「何辛気臭い顔をしておるのだ」

「……『坂杜様』」

声がした方を振り向くと、そこにいたのは『坂杜様』だった。

『坂杜様』は俺達の方に近づきながら続けた。

「折角の門出だぞ? 喜ばなくて良いのか?」

「……喜べる状況に見えるか?」

俺がそう返すと、『坂杜様』は「……そうだな」と返した。

「だが、いつまでも引きずっている訳にも行かぬぞ。これから新たな道へ進まねばならぬのだ」

「……分かってるよ、そんな事」

『坂杜様』の言葉に、そう返したのは真梨恵だった。

……だが、真梨恵の性格上、恐らく彼女はいつまでも引きずるのだろう。そして、多分死んでも忘れないと思う。

俺は……、正直、分からない。

俺は真梨恵ほど過去を引きずる奴じゃない。いつか、紀和子の事も、新見先生の事も、忘れてしまうのだろう。

そう考えると、少し、いや、かなり怖い。

紀和子の事も、新見先生の事も、大切な友達、信頼できる教師だと思っていたのに、忘れてしまうなんて。

だが、俺も所詮は人間。いつかは、忘れてしまう時が来るのだろう。

「真梨恵とも、離れ離れだしな」

「まさか、本当に都内に行っちゃうなんて思わなかったよー」

「……ごめんな」

「なんで謝るの? 佐藤君は佐藤君の道を行けばいいんだよ。それが佐藤君が決めた道なら私応援する」

「……ありがとうな」

俺がそう言うと、真梨恵はいつもの満面の笑みで「うん!」と返事をした。


――いつか、『坂杜様』の事も忘れてしまうのだろうか。


そんな事を考えていると、楓真がやってきた。

「あら、ここにいたのね!」

「あっ山下さんだー! どうしたのー?」

「皆で写真撮ろうって話になったから呼びに来たのよー。一緒に撮りましょ! ……『坂杜様』も!」

楓真が、そう言って『坂杜様』の方を見た。

『坂杜様』は驚いたような表情で「私もか?」と返した。

「そーよ! ほら早く行くわよ! 先輩達も! 2人とも今日の主役なんだから!」

楓真はそう言って、何事もないかのように『坂杜様』の手を引いて促す。

「ちょ、おい、待て山下!」と少々動揺しながら連れて行かれる『坂杜様』のようすに、俺も真梨恵も、自然と笑みがこぼれた。

そうして、俺達も写真撮影の為に、皆の元へと向かった。



「あ、来はったわー。こっちやでー」

学校の玄関前に行くと、そこには既に霊界堂先生達の姿があった。

霊界堂先生は『坂杜様』の様子を見て「あらー?」と言った。

「『坂杜様』も、ちゃーんと来はったんどすなあー」

「……こやつに無理矢理連れて来られてな」

「せっかくだから、『坂杜様』も一緒に映った方がいいじゃないのー!」

「はいはい、ほな撮りますえー。早よう並んでやー」

そう言って、霊界堂先生が並ぶように促す。

「あ、丑満時はんと佐藤はんは、一番前の真ん中に並んでやー」

「あ、じゃあ『坂杜様』は私の隣ね!」

真梨恵のその言葉に、『坂杜様』がハアとため息をついて、真梨恵の横に並んだ。

全員が思い思いの所に並んだ後、霊界堂先生がカメラのセッティングをし、準備ができた後に「ほな撮りますえー」と言い、シャッターのボタンを押し、俺の隣に並んだ。

それぞれが思い思いの表情、ポーズを撮った後、カメラのシャッター音が聞こえてきた。

「さて、どないやろかー……あら?」

霊界堂先生がカメラに近づいて写真をチェックすると、驚いた表情で固まった。

「霊界堂先生? どうしたんスか?」

俺がそう聞きながら霊界堂先生に近づく。

霊界堂先生は俺にカメラを渡しながら、「これ……」と呟いた。

俺はそのカメラに映った写真を見て、驚いた。


―― 一番前の列。一番右端に紀和子が、一番左端に新見先生が、並んでいる後ろには『蛇神様』と『猫叉』と思われる影が見えた。


「……ちゃんといたんだな、あいつら」

写真を見ながら、俺は耐えきれなくなって、涙がこぼれた。

紀和子も、新見先生も、はっきりと映っている。『坂杜様』もだ。

これで、俺も真梨恵も、一生忘れられない写真となったと同時に、紀和子の事も、新見先生の事も、『坂杜様』の事も、一生記憶に残る事が確定した。

真梨恵も、カメラに映った写真を見て一瞬驚き、その後涙を流しながら笑った。



俺がこの半年で経験した、『杜坂東の事情』。

それはきっと、ずっと忘れない。

いつまでも、俺の記憶の中に、残るのだろう。



----------------------------


――数十年後。


「佐藤先生! おはようございまーす!」

「おう、おはよう! ってかお前今日もぎりぎりだぞ!」

生徒からの挨拶に、俺はそう返した。生徒は、「ごめんなさーい!」と叫びながら、教室の方へと駆けて行った。

俺は都内の進学校で勉強した後、地元に戻って大学で勉強し、再び杜坂東中学校に教師として戻ってきた。

真梨恵は通信制高校を卒業した後、何の縁があったのかシンガーソングライターとしてデビューした。今じゃ真梨恵の事をテレビで見ない日はないくらいだ。

「相変わらず元気だな、子供というものは」

「よお、『坂杜様』。お前は相変わらず怠そうだな」

「何を言うか。私だって元気が有り余っておるわ」

そう言いながら、『坂杜様』は両手でガッツポーズをしてみせたが、そういうわりには顔がやる気に満ちていない。

「あらあら、相変わらずの漫才ぶりやなあー」

「あっ校長! おはようございます!」

霊界堂先生は、長年杜坂東中学校に勤め続け、ついに校長にまでなった。転勤の話は何度かあったらしいが、色々と尤もな理由をつけて転勤を避けたのだというから凄いと思う。

「今日は入学式もあるさかい、忙しゅうなるなあー」

「けど人数も減ってきて、今年の新入生はたった2人ですからね」

「それでも、入学してきてくれただけでありがたい事やなあー」

そう言って、校長はフフフと笑った。お淑やかなこの笑い方も昔と変わらない。

そんな中、新入生と思われる2人がやってきた。――が、聞こえてきた名前に、俺も校長も驚きを隠せなかった。


「ほら、早く来ないと置いてくぞー、『松伏』!」

「ちょっと待てって! お前足速すぎるんだよ『新見』!」


俺も校長も、声が聞こえた方を見た。

そこにいたのは、『松伏紀和子』や『新見尾登弥先生』にそっくりの新入生だった。

『坂杜様』もその声に気づいたのか、フッと笑って言った。

「……奇妙な偶然もあるものだな。まさか、あやつらの『生まれ変わり』が、この学校にくるとは」

「『生まれ変わり』……?」

「あれからもう何十年も経ったのだ。あやつらが『生まれ変わり』がこの世に居てもおかしくないであろう」

『坂杜様』は「面白くなりそうだ」と言い、クククと笑いながら学校の中へと戻って行った。



入学式。何かが始まるそんな時期。

俺は、既に、何か不思議な事が起こるような、そんな予感がした。



【杜坂東の事情 完】

作者のおかつです。この度は『杜坂東の事情』を最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

何せホラーが苦手な私が書いたホラー小説ですので、「これあんまり怖くねえぞ!?」となってしまったところもあると思います。じゃあ何故ホラー小説を書こうと思ったのかって話なんですけど。怖い物見たさというか、怖い物『書きたさ』がありまして。


さて、最後まで読んでくださったあなたにちょこっと裏話を。

実は当小説の構成的には『学校の七不思議』とほぼ同じです。

「あれ? 数足りなくない?」と思われた方もいるでしょう。杜坂東中学校における『学校の七不思議』の一つには、『坂杜様』の事も、『蛇神様』の事も、含まれているのです。『蛇神様』に関しては、あの『開かずの教室』の話なのですが。

「それでも足りないよ? あと1つは?」と思われた方。貴方はもうご存知なはずです。


――『学校の七不思議』。その『七つ目』を知ってしまった人が、その後どうなったか。


さて、そんな冗談はさておき。……冗談? 冗談ではないかもしれませんね。

兎にも角にも、最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回作を出すような事がありましたら、その時はまた読んで頂けると嬉しいです。

それでは、本当にここまでありがとうございました。


2017年1月11日 『杜坂東の事情』 作者 おかつ

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