エメラル脱走
その後、飯を食いながらレイナと話をした。
俺への質問コーナーになってしまっているのが。この世界に来る前には何をしていたのかとか、どういう属性の魔法を使っているのかとか、さっきはどうやって飛んだのかとか。
「ちなみにさ、エルフって見た目から年齢分からないみたいだけど。レイナいくつなの?」
「まだ15年しか生きてない。」
「そっか、妹でよかった。」
その後は城に戻り、王を訪ねた。
「マモ殿、どうなさいましたか?」
「王に折り入って頼みがあるんですけど。」
「はい、言ってみてください。」
相変わらず王は穏やかな口調だ
「この子を俺にくれないか?」
「なんと!!・・・お前はそれでいいのか?」
驚いた様子でレイナを見る王に対して、レイナは顔を赤くして「はい」とか言っている。
「そ、そうか・・・しかし君たちは会ったばかりではないのかね?」
「これからお互い、時間をかけてイロイロ知っていけばいいのです。」
「・・・何か言い回しが気になるけど、いいですか?」
「そうだな・・・彼女には少し可哀想な思いをさせていたからな。私にそれを止める権利はない。・・・だからどうか、幸せになってくれ。」
ん?何だか結婚報告みたいになってね?僕にください!になってない?これ
「おい、レイナ、様子が」
「分かってます。・・・王様、今までお世話になりました。私はこれから幸せになります。」
「・・・・・何が分かってたの?」
そんな訳で不本意な誤解をされたまま王との話が終わってしまった。すぐにでも国を出る事になった。理由は、どうも暗部が動き出したらしい。その後ティアとロイに話をした。
「そっか、マモが決めた事なら止めない。でも何か困った事があったら僕を頼ってくれ!騎士の名誉にかけて君の力になるよ!」
「また・・会えるよね?」
「また遊び来るよ」
とだけ言い残してエメラルを出てしまった。
ハンヴィーでの移動はあまりにも目立つので、消してしまった。徒歩で国外に出ると、見覚えのある草原が広がっている。
なんだかバタバタと逃げるように出国してきてしまった。
「お兄たま、乗り物も無しに移動したんでは魔物に食われますよ。」
「んーそうだな。」
ナノボットを馬車の形にし、機械仕掛けの馬車を召還した。
「驚きました。ニーニは本当に凄い魔法を使うのですね!」
「うん、とりあえず俺の呼び方を統一してくれる?」
「はい、今までの呼び方で一番気に入ったので呼びますから選んでください。」
なるほど、選択肢をくれていた訳だ。あまりにも平然と統一感のない呼び方をされていたため、あれ?俺がおかしいのかな?ってなってツッコミが遅れてしまった。不覚だ。
「んーじゃあ、兄さんで。」
「おもしろくありませんので、お兄ちゃんで行きますね。」
「一番ベタだな。まあいいか。せめて敬語はやめてね。」
そんな事を言いながら、御者のいない馬車へと乗り込む。
「分かったわ、お兄ちゃん。」
セリフだけ聞くと元気いっぱいな妹を思い浮かべるのだが、相変わらず抑揚の少ない声で喋る。
「ところでお兄ちゃん。御者が居ないのに何でちゃんと進んでるのも魔法?」
「あぁ、便利だろ。」そういって馬車の中で寝転がった。
「ところでお兄ちゃん。行先は決まってるの?」
「決まってないけど。どっかの町だな。」
「でも・・・私目立つから町に入れないかも・・・。」
レイナの真っ白の髪の毛は恐怖の対象らしい。北方には全員が真っ白な髪の毛をした暗殺集団がいて北方の死神と恐れられている。
故に白い髪は死神の髪と言われ、迫害されるのだとか。
「髪の毛染めればいいじゃん。」
「そんなのすぐに落ちるじゃない。バカなの?」
なんか恐ろしく自然に罵倒された気がするがここはツッコまないでおこう。この世界に髪を染める文化はないらしい。
「俺の魔法で髪の毛の色を変えられるんだけど、やる?」
「本当!?じゃあお兄ちゃんと同じ色がいい!」
こいつ時々完璧に妹キャラ使いこなしてくるよね。末恐ろしい。ナノボットで遺伝子操作し、髪の毛の色を自分の色と同じ髪色に変えると、飛び上がって喜んでいた。なんだか妹属性が一瞬理解できそうになった。
(ご主人様、敵です。数は18人です。陣形はスリーマンセルの部隊が6組。戦闘開始予想は10分後です。)
「うわー、めんどくせー。」
「お兄ちゃん。寝転んでるのに面倒なんて・・・もう死ぬしかないんじゃない?」
「お兄ちゃんはもっと敬うものですよ。レイナ敵襲だ。10分後に向こうさんの間合いに入っちゃうね。」
ま、今のままではだけど。現在馬車は徒歩程度の速度で、馬が歩くように進んでる。いくらでも逃げ切れるのだが、レイナの戦闘力が気になるのも事実。魔族とエルフのハーフって強いらしいし。
「レイナ!お前の力みせてくれ」
「私に戦闘力はないの。ちょっと体が頑丈ってだけ・・・」
「そっか、まあ妹を危険な目に遭わせる気はないから安心しろ。お前に魔法をかける。」
「なるほどね、いかがわしいのでやめて!」
「うるせーよ!お前の中での俺いったいどんなキャラなわけ?」
ちょいちょい発動される兄いじりを丁寧にツッコミつつ、気になる疑問をぶつけてみる。
「・・・定まってません。」
「いや定めとけよ!そして上方修正しなさい。」
そうこうしている間に敵が攻撃をしてきた。相変わらずの弓矢攻撃だ。しかし、矢が風をまとっている。その風は矢を加速させ、生身でくらったら即死だ。
ま、止めるのはチョロいけどな。前回同様ナノボットで矢の軌道をずらす。
「レイナ、こんな感じで攻撃当たらねえから。やばくなったら助けるから。」
「・・・エルフの暗部相手に随分と余裕みたいだけど・・・」
「まーな」
適当に返事してしまったが、決心したように馬車から降りるレイナ。ソレを見た暗部が魔法を展開している。すると風の刃がレイナに向かって飛んでくる。
しかし、見えない壁がソレを防ぐ。
「どーだ?お前は傷一つ付けさせねーよ。疲れたら言えよ~。なんとかすっから。」
「疲れました。」
「おい、少しは頑張ってみろよ。」
本当は妹に血なまぐさい戦闘をさせたくはないけどな。この世界で戦闘能力は必要だ。自分の身は自分でまもらなければならない。
(なーアルファ。レイナに最適の武器を作るためのデータ、しっかりとれよ。)
(かしこまりました。ご主人様。)
レイナは強い。戦闘慣れした感じではないが、回避能力が高い。エルフの矢の軌道を予想し、上手に避けている。暗部の連中はソレを見ると、分身する魔法の矢を放ってきた。結構な数の敵が分身する矢を放つため、恐ろしい量の矢がレイナを襲う。
しかしレイナもズバ抜けた身体能力で、華麗に避けていく。真っ白なツインテールを振り乱し風のような速さで矢を避けるのだから圧巻だ。
しかし、敵の攻撃を掻い潜って間合いを詰めるが、レイナの拳が暗部の連中には当たらず、カウンターをくらってしまう。ナノウエポンの防御でレイナはノーダメージだが、勝ち目がなさそうだ。
パンドラ起動。真っ黒の球体を宙に10個ほど配置する。敵を殲滅する。
黒い球体からは赤く光る光線が放たれる。高出力の光線は、いとも容易く人体を貫通し、照射した対象物を消し炭にする威力がある。
掃除に10個の武器を操り、次々暗部を葬っていく。戦闘訓練を受けた暗部とはいえ、全滅まで時間はかからなかった。
「お兄ちゃんさ、やりすぎじゃない?何も殺さなくても」
「・・・まー、人間は過去の失敗をバネに強くなるんだ。彼らは立派なバネになる事だよ。」
内心動揺していた。軽口でそれをごまかすのに必死だった。人を殺したからではない。人をあれだけ殺しておいて、何も感じない。そんな自分に動揺していた。
なんだか自分はどんどん人間じゃなくなっていくような気がしていた。後になって思えば、この日の懸念は的を射ていたんだなーと思う。
(ご主人様。魔法の解読が完了いたしました。インストールします。)
そして、待ちに待ったこの情報は彼の運命を大きく変える事になる。