妹ができました。
昼まで寝ようとか思っていたがかなり早く起きてしまった。人は時計の無い生活をすると、逆に規則正しい生活になる的な話を聞いたことがある。俺が早起きとか、以前の世界でやったら空襲警報が鳴るっつの。
カーテンを開け窓の外を見ると、城の裏側の景色が見える。城の裏側は城門とお城の間に空いたスペースを活用して訓練施設があるようだ。藁で作られた人形に向かって矢を放ったり、木剣で訓練をしている。
なんだか頑張ってんなー。考えてみたら俺こんなファンタジーな世界に来たのに、いまいち満喫できてないなー。魔法やら剣で挑んでくる相手に機関銃で応戦だもんなー。ま、そのうち魔法に関わる事になるどるのは確定だけどさ。
窓を空けると城壁の向こうに広がる木々が風に揺れる音が聞こえ、新鮮な空気が部屋へと流れ込んでくる。外からの風がカーテンを揺らし、朝の太陽光が残っていた眠気を晴らしていった。
寝間着から支給された服に着替え、鏡を見る。さっきの言葉は撤回だな。おもいっきりファンタジーだわ。俺自身が。
部屋から出て長い廊下を見渡す。ここのメイドは優秀だな、埃一つ落ちてない。ナノボットによるマッピングでこんな広いのに迷わずに歩ける。長い廊下を歩いていると、前から白い髪のメイドさんが歩いてきた。
風呂場での一件もあり、髪切ってくれたお礼言ってなかったなー。そんなこと考えていたら小さなメイドさんが綺麗な所作で挨拶してきた。見覚えのある銀髪ツインテールを揺らしながら。
「おはようございます。お客様」
相変わらず抑揚の少ない声で挨拶してくる。
「おはよう。この間は髪の毛切ってくれてありがとな。」
「いえ、仕事ですので。それよりこの度はティア様のお命を救っていただきありがとうございました」
「別に何もしてねーよ。もし暇ならこの辺案内してくれよ。」
一人で迷わずに歩いていたら不思議に思われるだろうし。と思っての行動だ。
「あら、ナンパですか?」
「いや違ぇから、油断ならん奴だなお前。」
そんなやり取りの末、城を案内してくれる事になった。しかし、一つ気になる事があった。なんだかこの子といると他のメイドがあまりいい顔をしてない。なんだか、怖がられてるみたいだ。
「なーメイドさん名前聞いてなかったな。俺のことはマモって呼んでよ。短くて呼びやすいだろ?」
「・・・かしこまりましたマモ様。私に・・名前はありません。」
「どゆこと?」
「必要ないんです。私は奴隷ですので・・・申し訳ございません、お客様。私には残っている仕事がありますので」
そう言うと、一礼して行ってしまった。最後の言葉は、ひどく寂びそうな声に聞こえた。まったく、俺って余計な事に首つっこまないタイプなんだけどな。参ったなこりゃ。
さすがの俺もあんな少女が奴隷だと聞かされたら放っておけないよなー・・・。深いため息を漏らし、だるそうに首の後ろを手でさする。
(アルファ、ティア探してくれ)
(かしこまりました。ご主人様・・・庭園にて発見しました。)
うちの優秀なアルファさんのおかげで無事にティアを見つける事ができた。花壇の手入れをするメイドを手伝っていた。
「?早いのねマモ!おはよう!よく眠れた?」
「あぁ、おかげさまでな。ちょっと聞きたい話があるんだけど、今いい?」
一瞬、不思議そうな顔をしていたが快く引き受けてくれた。「聞きたい話って?」と質問されたので、意を決して切り出す。
「実はメイドの話なんだけど、白い髪に左右色違いの目をしたメイドいるだろ?彼女の話を聞きたい。」
「・・何で?いったい聞いて何するの?マモ」
え?何でジト目なのこの子。もしかして変態だと思われてる?俺
「いや、自分は奴隷だとか、名前がないとか言い出したから。」
「そっか、あの子またそんな事を・・・」
明るいティアの顔が寂しそうに曇った。やはり何かあるみたいだ。
「実は彼女ね、奴隷として売られていたところを偶然ね、父様に助けられたの。でも彼女は恐らく、高位の魔族とのハーフなのよ。ハーフエルフって何かと嫌われてるのよ。しかも元奴隷だもの。」
「何で名前が無い?」
「言わないし、名前をもらう事を頑なに嫌がるの。何か訳があるんだと思うけどそこまでは知らないの。」
あまり有力な話が聞けなかった。どうやら周りに壁を作ってるみたいだ。詳しい事を知っているのは本人しかいなそうだな。なぜか、別れ際の奴の声が頭から離れない。仕方ない、うじうじ悩む方が面倒だしな。
(アルファ、探せるか?)
(はい、ご主人様・・・お城の屋根にいらっしゃいます。)
どんな場所にいるんだ?掃除か?雨漏りの修理?ったく・・・仕方ねえ。行ってみるか。ナノボットを足の裏に配置し、屋根の上まで持ち上げてもらう。するとそこには白い髪の少女が居た。無表情で遠くを見つめている。
「何見てんだ?お前」
「これはお客様。こんなところまでどうやって。」
「俺は飛べるんだよ。んな事より仕事はいいのか?」
「はい、今日の私が担当する仕事は終えました。」
相変わらずどこか遠くをみつめている彼女だが、会話は嫌じゃないみたいだ。
「お客様こそ、こんな所に何の用ですか?」
「今度こそナンパしに来たんだよ。」
「・・・はい?」
怪訝な顔って、これのことか。そんな事を思いながら、恩返ししてくれんだろ!と適当に城の外に連れ出した。
近くの町に飯食うとこぐらいあるだろ。と一番近くの村へと向かっている最中だ。
「お客様は何をお考えなのでしょうか。狙いは何ですか?」
「んぁ?お前と話をしなきゃいけないってお考えだな。」
「・・・私の話など聞いても楽しくはないですから。」
そういってまた暗い顔をする彼女だったが、その声は少し震えていた。
「いやいや、聞き捨てならない事言い残してったんだ。俺に話があるんじゃーねーの?」
「・・・」
「そこでなだ!俺この辺には疎いから何か食えるとこに案内してくんない?」
「分かりました。エスコートして差し上げます」
そういって村までやってきたが視線が痛い。そりゃそうだ、凄く目立つ男が凄く目立つ少女に連れられているんだ。見られても仕方ないな。
メイド服を着た小さなエルフの少女は、視線に怯えていた。到着した店は、個室のある、高そうな飯屋だった。
「ちょっと、ここ高そうだけど。俺お金持ってないよ?」
「まったくレディーにお金まで出させて。マモ様はとんだ甲斐性なしですね。」
「お前なんか俺への風当たり強くね?まぁいいや。じゃあその甲斐性なしに話聞かせてくれよ」
「・・・はい。でもここでの話は絶対他言しないでください」
そう前置きして話が始まった。
彼女は簡単に言うと望まれない子だった。エルフの母と、顔も分からない魔族の父の間に生まれた子だ。問題は彼女を拾った本人だ。エルフの王に拾われたが、王は多忙だった。拾ったはいいが面倒を見ている時間は無かったそうだ。
その時メイド長をしていた人にメイドとしての仕事を教わり、城で働いていたそうだ。しかし、彼女は魔族とのハーフだ。他のメイドは彼女を怖がった。エルフという種族は元々魔族に近い存在らしい。そのため魔族とエルフの間に生まれる子供は、魔族の力と、エルフの器用さを得た恐ろしい力を持ち、災いをもたらすという言い伝えがあるらしい。
国を出れば済む話に聞こえたが、エルフの暗部がソレを許さない。彼らは王に不利益になる者を排除するためにいるらしい。俺が城に入ろうとしたときに攻撃してきた奴らが暗部だそうだ。奴らは王が知らないところでそういった事をする組織だそうです。
それから俺自身の話をした。気が付いたらこの世界にいた事。訳の分からない魔法が使える事。なんかもすべて話した。
「なるほどな。名付けを拒む理由は?」
「名前をもらうという事は、この国では特別な事なんです。その人から切っても切れない絆を貰うという事です。私はこの国につなぎとめられるのは嫌ですから。」
「なーるほど。一緒に国外逃亡してくれないか?って事か」
「どうかお願いします!なんでもやります!迷惑はかけません!どうか!・・」
「いいよ。」
「・・・本当にですか?」
信じられないという顔をしている。まーどんな理由があろうと関係ないしね。身の回りの世話をしてくれる奴がいると助かるしな。この世界の細かい常識とか知ってる奴いると助かるし。
「でもな、名前ないと不便だな。」
「でしたら、その・・・名前を付けてくださいませんか?」
もじもじと恥ずかしそうにしているが。正直ネーミングセンスがあるほうではないしなー。
「じゃーあー・・・レイナ!なんてどうだ?呼びやすいし。」
「レイナ・・気に入りました。本当に、ありがとうございます。」
「ファミリーネームも決めてください。この世界で名乗れるものでおねがいします。」
「じゃーブロッシェルだな。」
そう言った直後、自分とレイナに一本の光る鎖がつながった。
「ん?何これ!」
「はい!これでマモ様と私!兄弟ですね。弟よ!」
「おい、何で俺が弟?てか義兄妹だろ?」
「いえ、兄さん。お互いに納得してファミリーネームを受け入れましたので、私たちはもうマジの兄妹です。・・・嫌ですか?」
「・・・嫌じゃねーよ。ほんじゃよろしくな。」
「城に戻りましょう。旅立ちの準備を!」
「お前、冷静そうで案外せっかちな。」
かくして、妹との逃避行が確定した。