エメラル国王
現在エメラル国の王城、その中でも一際大きな扉の前へと案内された。重厚感があり、装飾が施された扉は、思わず背筋を伸ばし、襟を整えてしまうような威厳を感じる。大きな扉の両脇には、鎧を着た兵士がスタンバっている。こういう所にいる兵士は、西洋風の重たそうな鎧を着ているイメージだったが、エルフの鎧はシンプルで、動きやすそうだ。俺も着るならこういうのがいいな。いや、やっぱり着たくない。
後姿しか見えないがロイとティアは少し緊張しているようだ。掌に人って書いて飲み込むんだよとか、言ってみたかったが、怒られそうなのでやめた。
「お願い!」
ティアが短く門の両隣にいる兵士に合図すると、兵士は軽く頷き重そうな扉を開けた。そこには、玉座へとまっすぐ伸びる赤い絨毯と、自分たちより高い位置に玉座が置かれており、装飾されている椅子ではあるが、派手すぎず、地味過ぎない、センスの良さがうかがえる。いや、俺がセンスとか言ったら笑われるからやめとこ。絨毯の両脇には、これまた鎧を着た兵士が並んでいる。
気になるのは玉座の両隣に立っているエルフだ。こちらから見て右には、見た目がロイと同い年くらいのエルフが立っている。穏やかな顔で微笑んでいる。
そして左側にいる奴がやばい。眼帯をして髭を蓄えたおじさんエルフだ。すげー恐そう。眉間に刻まれたシワとオールバックな髪形が怖いですよオーラを出している。
そして王は、上品なおじさんだ。どこか優しそうで、品の良い金髪を一本に束ねている。見た感じの年齢は40歳くらいかな。あ、俺一度もエルフの年齢聞いたことないな。後で聞いてみよう。そんな事を思ってる間に 玉座の前でひざまずき挨拶を始める。
「ティア・エメラル、ただ今戻りました。」
「ロイ・クシャナル、ただ今帰還いたしました」
あれ?俺自己紹介した方がいいのかな?小学校以来まともな自己紹介した事ないけど、大丈夫なのこれ。マモ帰還しました。とか言ったら摘み出されそうだしなー。
「うむ、よくぞ無事に戻ってくれた。随分早い帰りで驚いたぞ。・・それで、ロイ、その者は?」そう言い軽く二人に労いの言葉をかけ、俺へと視線が向けられた。
「はい、帰路で馬車が動かなくなり、盗賊に襲われた所を助けていただき、ここまで送ってくださいました命の恩人です。」簡単に紹介され、挨拶しろ的な視線を送ってきた。
「え、その、お初にお目にかかります。マモと申します。・・・・」
え!?終わり!?みたいな視線が一斉に注がれる。やっべー自己紹介はしょり過ぎたかな。割かし丁寧に挨拶したつもりなんだけど。だから自己紹介とか嫌いなんだよね~。
「父様違うの!マモは命の恩人で、今までは一人寂しく、独自に魔法の研究をしていたの。だからこういう場所に慣れてなくて!」
ティアが必死にフォローしてくれるのはありがたいのだが、何だか、とにかくボッチな奴になってね?一人寂しく、独自に魔法の研究って。そりゃ一人しかいないんだもん、独自に魔法の研究するしかないよね?しかも寂しくって・・・・。俺がこれ聞いたら、一人ぼっちで暇を持て余し、魔法とか研究してみようかなー。ってな感じのニート。って思うけどな。まあいいか。
「ティア落ち着きなさい、マモ殿お見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。此度は娘の命を救ってくださり深く感謝している。」
「恐縮です。」
そんなこんなで、形式的な謁見は終わった。今は部屋へと帰る途中だが、ティアがめっちゃブルーだ。ロイが励ましているが駄目みたいだ。なんで彼こっち見てんの?俺、人を慰めるとか苦手なんだよなー。
「ティア、フォローしてくれて助かったよ。」
「ごめんなさい。私もっと上手くやらなきゃいけなかったのに。」
「十分だろ、あんま褒められると余計に疑われたとこだったし。あれくらいがベストだ。」
「そう、かな?」
ティアが上目遣いでこちらを見てくる。何この生き物可愛い。
「そうだよ、なーロイ」「うん!姫様は十分うまくやったよ!」
「そーいえばさ、王様の右隣にいた人ってロイと年が近そうだったけど。」
強引に話を変更する。なぜなら姫のメンタルがある程度回復したから、墓穴ほらないうちに話を切り替えないと。
「あぁ、あれは僕の父上だよ。」
「・・・え?」
嘘だろ。兄上を聞き間違えたか?そんなはずは無い!てことはマジで?若いとかのレベル超えてね?エルフって年取らねえの?
「あぁ、エルフの貴族の寿命は長いからね。成人してからは容姿があまり変わらないんだよ。」
「あー、なるほどな。ちなみに二人の歳は?」
「二人とも18歳よ。」
あぁ、てことは同い年なのか。よかったー、60歳よとか言われなくて。
「へぇ~・・・じゃあ王様の左側にいた怖い人はいくつ?けっこう、いい歳ってかんじだけど。」
「あぁ、彼はエルフの生きる英雄、ディノス・グランドよ。今年で180歳くらいかな?」
「どうりで強そうなわけだ。長生きってかなり長生きだな。」
そんな事を話していたら、前からロイの父さんが歩いてきた。
「お三方、王様がお呼びですよ。そしてマモ君はじめまして。息子を救っていただきありがとう。」
「いえ、僕は大したことしてませんから。」
そう言って握手したが、この人がロイの父親だなんて信じられないな。自分とたいして歳が変わらなそうな見た目だし。ロイと違いすごく穏やかそうな顔だ。ニコニコしてて優しそうだし。何より長く伸ばした金髪が、凄く似合っている。
しかし、一瞬鋭い視線を俺の手の甲へむけた。
「失礼だけどマモ君、これは?」
やべーばれた。こんな事ならアルファに隠しておいてもらえば良かった。なんて言い訳しようかな。ここは間違えられなさそうだな。
(アルファ。)
(ご自身で刻印したと言うのが最善かと)
「自分で刻印しました。これも魔法陣なんですよ。」
「これが研究の成果ですか?」
「えぇ。まあ」
やべー歯切れが悪いな。俺って嘘下手だなー。アルファがミスをした可能性は低そうだしな。
「素晴らしい!私では理解が及ばないほど難解な陣だ。」
そう言って笑ったのでとりあえず一安心だ。神にもらったとか言ったら変な奴だと思われそうだしな。
「おっといけない。お三方、王様が自室にてお待ちです。」
「はい、どれでは、失礼します。」
三人とも軽く挨拶して王の部屋へと向かう。なんだかお城に住むのも移動がだるいな。俺はアパートとかでいいや。
王の部屋は質素なつくりになっていた。まあ広いけど。王様の部屋に入ると、ロイが深々と頭を下げ挨拶したので、真似した。ティアは普通にスタスタ入っていった。
「いや、よく来てくれた。いろいろ聞きたいことがあるのでな、どうぞ楽に掛けてくれ。」
そう言われて王と向かい合うように、座りティアが隣に座ったがロイは立っていた。王が座ってくれと言い、やっと座った。忘れてたがコイツ騎士だったな。すると話が始まった。
「マモ殿、大変失礼なんだが、詳しく君のことが知りたい。娘を助けた経緯や、門の前にある、物なんかも教えてくれ。」
「はい、まず俺は転移者です。別の世界から来ました。姫様を助けたのは、誰でもいいから人と話したかったからです。そしてここまで来る間に、こっちの言葉を教えてもらいながら来ました。門の外にあるのは自分が生み出した乗り物です。魔道具のようなものです。」
「そ、そうだったのか。いや、大変娘が世話になった!」
こうして話していると凄く穏やかで話しやすい人だ。しばらく話をして、条件付きで当面は城に住んでくれていいと言われた。ぐーたらライフに歓喜した。
一つは、エルフのフリをしてほしいとの事だ。外の世界では人間に化けていてうっかり変装を解くのを忘れてエメラルへ入ってきてしまったと。そういう事にしてほしいと。
理由は、人間を怖がる者が多いという事らしい。お安い御用だ。
もう一つは、何かあったらこの国にいる間だけでいいので、力を借りたいとの事だった。これは正直めんどくさい。しかし、それを飲めば普段は好きにしていいらしいのでそれも飲んだ。今後は自由にこの国を出入りしてくれて構わないそうだ。
こんな楽園に入れる条件にしては安いものだ。まさにシメシメって感じだ。
その後俺は部屋に戻り、ロイとティアは王に報告する事が残っているといって残った。二人とも複雑そうな顔をしていて心配だが、俺の眠気も限界だった。気が付けばすっかり夜だ。私は寝る時間。昼くらいまで寝よう。最近活動しすぎな、俺。
ベッドに入ると、すぐに眠りにつけた。