二人のセールス
私はとある『貿易会社』の、しがないセールスマンをしている。
過酷な労働環境は、お世辞にもクリーンでセーフティーとは言い難いけど、給金はソレに見合っただけはある。
「おい7。午後はアムディア王との商談、宝石虫生産視察、その後に王女様の相手をしなくちゃならない。」
それに何より、『あちら側』には無い、ロマンがこの仕事にはある。
「7・・・聞いてねーなお前。」
パシンと頭をはたかれ、テーブルの向かい側を見ると、9先輩が呆れた眼差しを私に向けながら紫煙をふかしていた。
「すいません先輩・・・・何でしたっけ?」
9先輩は、私が勤める会社で、私以外では唯一の現代日本人なのだけれど、肌や体毛はまるで新雪の様に白く、瞳はルビーのように赤い、色素欠乏症・・・いわゆるアルビノの男性だ。
「午後は忙しいから、さっさとメシ食えって言ってんだよ。」
「ほうふぃへは、ほうひゅうにいふんへいはほね?」
「清淑って言葉知ってるか?」
「?わらひのことですか?」
「じゃーメシ頬張りながら喋るんじゃねーよ・・・あぁ、あぁ、飯粒飛んでんじゃねーか。」
なんでも、とある神を封じる仕事の手伝いをした時に、その神に呪われたらしい。
そのせいで体中の色素が無くなり、おまけに寝ると強烈な悪夢に襲われるらしく、先輩の目の下にはクマができており、四六時中眠そうで機嫌が悪そうなのだが・・・
「ホレ、口の周りふけよ。」
そう言い、ポケットティッシュを差し出してくれる。
「先輩優しいですよね~今のはなかなかポイント高いですよ!」
「はぁ?今から王宮に行って王族と会うのに、口の周りにメシ付けて行くヤツがあるかって事だバカタレが。」
そこは『勘違いするなよ!』と言って欲しかったが、まぁまぁ、なかなかどうして悪くない。
「またクソどうでもいい事考えてんだろ?顔に出てるぞクソオタク。」
「ちょっと!どんな顔ですか!」
「・・・・・・にちゃぁ~~~って感じの擬音がしそうな顔だよ。」
「清淑な乙女に向かって何て事言うんですかッ!!」
「じゃぁー口の周りさっさとふけや。あと一本吸ったら店出るからな。」
「ちょっと待って下さい!!まだぜんぜん食べてないんですからッ!!」
「急げや。」
私の勤めている貿易会社は、海外の国々との貿易・・・・ではなく
「“この世界”はお世辞にも治安がいいとは言えない、メシ食ったら城下街までお前の力使ってショートカットするから。」
異世界の国々と、貿易をしている。