9 竹下真美
イジメの表現があります。ご注意ください。
私の目線の先に四人の女子がいる。
賑やかに話している声が聞こえてくるが、楽しくお喋りしているわけじゃない。1対3で言い争っている。ううん、違う。一人の子に三人がかりでいちゃもんをつけている。
言われている子、佐藤結花は私の友達。本来ならすぐに助けに入るべきだけど、私は出来ないでいた。
三人は口々に結花に酷い言葉を浴びせている。少し離れた所にいる私にも聞こえるくらい大きな声で。
結花のことだ、おそらく反論もせずおとなしく聞いているのだろう。
「本当に結花って要領が悪い。あんな風に囲まれる前に逃げ出せばいいのに」
私の口からも結花を非難する言葉が出る。
結花とは高校の時からの友達。でも今は会うことをやめ、偶然出会っても無視するようにしてた。
私が結花と距離を置くようになったのは、結花が西園寺様と付き合うことになったから。
『なんで結花と?』それが一番初めに浮かんだ疑問。私と結花が並んで立っていたら大抵の男は私に興味を示す。あの日だって、宮沢君と安倍君の視線は私に釘付けだった。
そう、あの日。何故か西園寺様と一緒に食事することになった。これは千載一遇のチャンス! 私は私の持てる女子力を総動員して男性陣(特に西園寺様)の世話を焼いた。飲み物の手配、料理の取り分け。お好み焼きも焼きソバも上手に焼いた。
なのに、なんで結花と? 結花なんて美味しい美味しいって食べてただけじゃない。
見た目も、女の子らしい気遣いもみんな私の方が勝っていたはず。なのに、なんで私じゃなくて結花なの!?
私の心の中にある負の感情があふれだす。
私は結花のことを友達だといっておきながら、その実心の中では見下げていた。
そして今回の件でそれに気付いてしまった。
私の醜い本当の気持ち…
私より劣っていると思っていた結花が、大学の王子西園寺様の彼女になったことが許せないのだ。
心のどこかでは分かっている。こんな風に人に優劣をつける私だから、西園寺様に選ばれなかったのだと。でも、それを認めたくない。だから結花を悪者にする。嫌な奴。嫌い。大嫌い! いなくなればいいのに…
本当はこんな事を考える自分が一番嫌い。
三人の女は言いたい事を言って気が済んだのか、捨て台詞を投げて立ち去ろうとしている。
その時ワザと結花の身体にぶつかった。バランスを崩した結花が転ぶと、それを見てまた嘲笑う。
私はどうにも我慢が出来なくなった。
「ちょっとあなた達! ワザとぶつかって転ばせた挙句、笑って見ているなんてどれだけ意地が悪いの? そんなだから西園寺さんに相手にされなかったのよ!」
三人は突然私が大声で乱入したのでビックリしたようだ。けれど私だと分かると、悪びれもせず反論してきた。
「なんだ真美じゃん。なによ、人のこと言えるの。あんただって同じようなモンじゃない」
「私達ぃ、ワザとぶつかってないわよぅ。それなのにこの人当てつけみたいに転んじゃってさぁ。そっちの方が酷くない?」
「そうそう、ひっどーい」
三人はまたケラケラと笑い出す。
そんな悪意の籠もった言葉なんかまるっと無視して、私は結花を立ちあがせると怪我の具合を確かめた。
彼女たちは笑い声をおさめると、
「私達、彼女に忠告してあげてただけよ」
「そうそう、親切心でね」
「そんな見っとも無い格好してぇ、西園寺君の隣に並んでたらぁ、みんなの笑い者だよぉ、てねぇ」
ネチネチと三人で結花の悪口を並べ立てる。本人を前にしてよくそれだけ言えるものだ。ある意味感心してしまう。
けれど、それ以上に怒りが込み上げてきた。
「いい加減うるさい! あなた達が意地悪なうえ卑怯者だってコト、よく分かったわ。だからもうその口を閉じなさいよ」
「誰が卑怯だって!」
「だってそうでしょう。三人がかりで結花のこと悪く言って… それとも弱虫か。三人揃わないと言いたいk__」
最後まで言えなかった。三人の内の一人がいきなり私の頬を打ったのだ。すかさず私はやり返す。
「なにすんのよ!」
「最初に手を上げたのはそっちでしょう!」
「そっちが酷い事を言ったからでしょう」
「酷い事言ってたのはそっちの方じゃない」
結花そっちのけで水掛け論を始めてしまった。こうなったら三人相手に喧嘩するしかないか。
勝算は… ないかも。
「小泉教授、大変です。カフェの中で喧嘩しているみたいです。早く来てください」
廊下から女性の声が聞こえてきた。この声は…
小泉教授の名前を聞いて三人は慌てだした。学内で一、二を争う厳しい先生なのだ。彼女達は、きっと教授の授業を取っているのだろう。こんなことで目を付けられたらとんでもない事になると思ったみたいだ。
「もういいわ、馬鹿らしい」
「マミィ。あなたとはぁ、もう友達じゃぁないからぁ、声かけないでよねぇ」
「そうそう、気安くしないでよね」
慌てて彼女達はカフェから出て行った。
私と結花は暫らく無言だった。随分経って状況をやっと飲み込んだ結花がペコリと頭を下げた。
「あの、ありがとう、庇ってくれて… その、頬っぺた大丈夫?」
「私より結花の方が… あーあ、血が滲んでいるじゃない」
私はさっき声がした方に顔を向けて大声で叫んだ。
「ちょっと、小春そこにいるんでしょ。結花を医務室に連れて行くから一緒に来なさいよ」
「えっ、小春?」
結花がきょとんとした顔で繰り返す。やっぱり気付いていなかったか。さっきの声は小春。多分、今のやり取りを見て、分の悪くなった私を助けてくれたのだ。
「へへ、さっきの機転が利いてたでしょう。我ながら凄いよね」
言いながら小春は私に濡れたタオルを渡し、結花の傷口を消毒して絆創膏を張った。凄いよ小春、いつの間に用意してたんだ…
それから私達三人には、なんとも気不味い雰囲気が漂った。
みんな仲直りしたい。その気持ちがアリアリとしているのに、どう切り出したらいいのか迷っている感じなのだ。
三人の仲がおかしくなったのは、私が結花を無視するようになってから… だから、ここは私が口火を切るベキよね。なので、私はニッコリ笑いながら言った。
「三人揃ったんだし、久し振りに西園寺様ファン倶楽部でもやりますか」…と。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
これまで毎日更新をしてきましたが話のストックがなくなりました。なので、暫らくお休みします。すみません。