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それでは恋を始めましょう。  作者: 紫野 月
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 4 西園寺貴文

 忘れようと思っていたのに…

 最近何故だか彼女をよく見かけるようになった。会いたいと願っていた時はすれ違うことすらなかったのに、今更、何故? いや、彼女が故意にやっているわけじゃない。そんな事分かっているけど誰かが企んでいるような気がしてくる。


 ベンチで読書をしていたり、図書室で調べ物をしていたり、カフェで友達とおしゃべりをしていたり… いろんな場面に遭遇する。

 彼女の声を耳にするだけで僕の心は浮き立ってしまう。

 彼女に会えた日は一日中幸せな気分でいられるのだから、無理に忘れようとしなくてもいいじゃないか。彼女をたまに見かけて胸をときめかせるぐらいなら… いつしか僕はそう思うようになった。

 彼女の姿を見るだけで幸せ。それで満足。自己暗示をかけるように僕は自分に言い聞かせていた。

 ……けれど、その決意はあっけなく壊れた。


 昔からの友人である安倍祐一と大学の食堂で食事をしていると彼女がやってきた。僕はすぐに気が付いて入り口を見詰める。彼女の姿を目にして僕の心が躍る『今日はついてる』って。でもその浮き立った気持ちはすぐにしぼんでしまった。彼女は男と一緒だった。水槽の前に一緒にいたあの男と。

 こんな時にかぎって、彼女は僕のテーブルのすぐ近くに着いた。

 二人の会話が聞こえてくる。聞きたくない、でもすごく気になる。僕は祐一との話より二人の会話に集中した。


「ねえ佐藤さん。もうすぐ夏期休暇だけど何か予定ある? もしよかったら海に遊びに行こうよ」

「いいですね、海。サークルのメンバーを誘ってみんなで行きましょう。楽しみだな」

「俺、佐藤さんと二人きりがいいな」

「えっ… 」

『なんだって!』コップを持つ手に力が入る。もう少しで割るところだった。

 その後も男は熱心に彼女を誘う。自分の田舎の海はとても綺麗でいい所だ。結構大きな夏祭りがあって縁日が立ち、花火も盛大で二人で見に行ったらきっといい思い出になる。だから一緒に行こう。ただ少し遠いので泊りがけで行かないといけないけれど、と。

『そんなの駄目に決まっているだろう!!』そう叫びたいのを僕は必死に堪える。

 二人きりで泊りがけ。そこがネックになって彼女はなかなかYesと言わない。サークルの仲間と一緒にとしきりに言っている。

 どうやら二人はまだ付き合ってはいないようだ。だからこそ男はここで勝負に出たいのだろう。開放的になる海。ロマンティックなムードになる花火大会。男の魂胆はみえみえだ。

 僕の心の中に、あるビジョンが映し出される。

 男の指が彼女に触れて、愛を囁いて抱きしめ、そしてキスを… 

 嫌だ! 駄目だ! 許さない!!




「祐一。至急調べて欲しい事がある」

「なに?」

「左向こうの席に座っている水色のチュニックを着たセミロングの女のk_」

「えっ、佐藤さんのこと?」

 祐一の口から彼女の名前が出てきて、僕は心底驚いた。

「彼女を知っているのか?」

「ああ、佐藤さんの友達が僕と同じ学部でね時々訪ねてくるんだ。この前少し話を… 貴文、なんで睨むの?」

 思わず祐一のことを睨みつけていたらしい。そんな僕の様子に祐一は軽く肩をすくめると、いきなりニヤニヤし始めた。

「ふーん。なんだ、そういうことか」

 相変わらず勘がいい。僕の心情を察した祐一が彼女について知っている事を話し始めた。


 さて、どうやって出会おうか。

 出遅れているぶん、ドラマティックにしないと挽回出来ないよね。


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