21 安倍祐一
華麗なフォームから繰り出されたサーブを今一歩のところで追いきれず俺は無様にコケた。
体力はすでに限界。俺はプロを目指しているわけでもないのに、なんでこんなハードなゲームをしてんだ…
今はとにかく息をするので精一杯。立ち上がるのも無理。そのままゴロンと寝転ぶと、目の先に転がっていく黄色いテニスボールが見えた。
息苦しさにギュッと目をつぶると地面が揺れているような感じがした。
「大丈夫か?」
一応心配そうに貴文が声を掛けてきた。
『大丈夫じゃねえよ! 誰のせいだ。誰の!!』心の中で盛大に毒づく。
不意に頬に冷たいモノが当たった。
閉じていた目を開くと貴文がスポーツドリンクを片手に微笑んでいた。
「サンキュ」
喉が渇きすぎて掠れた声でそれだけなんとか言って起き上がりボトルを受け取る。
木陰に腰を下ろして即行ドリンクを飲んでいると貴文が隣にやって来た。
「これくらいでゲームが出来なくなるなんて、もう少し基礎体力をつけた方がいいんじゃないか?」
「いっとくけど俺は人並み。貴文の方がずば抜けてるんだ、一緒にすんな。本当になにもかも桁違いだよな、お前は」
最近、貴文のストレス発散に付き合わされることも無かったので、つい油断して呼び出しに気安く応じたらぶっ続けでテニスのゲーム… こっちは息も絶え絶えだ。
だから少しくらい嫌味を言っても許されるだろう。どうせ貴文もあまり気にしないだろうし… と思っていたら、思いがけないほど貴文が項垂れた。
「えっ。何、どうした?」
「やはり僕は普通ではないんだろうか」
「はっ? 何言ってんの」
「僕と結婚したら結花が不幸になると言われた。普通の家庭で育った結花に西園寺の嫁は荷が重過ぎると」
貴文の言葉に俺は石化した。
ケッコン… ヨメ…
おい。俺達、まだ学生だよ。
ついこの間ハタチになったばかりだよ。
初恋の相手との結婚を考えるなんて夢見る乙女か!?
佐藤さんと付き合いだして一年くらいだったと思うが、お前の妄想はもうそこまでいってしまっているのか。
えーと。これ、どこから突っ込んだらいい?
それとも軽く聞き流したほうが…
「僕だって西園寺が特別な家系だということは理解している」
ああ、まあ、そうだな。
古くから続く名門、西園寺。
世が世なら公爵の称号を頂いた華族のお家柄だという。
だからだろうか。いまだに吃驚する様な時代錯誤のしきたりや祭事が根強く残っている。
そんな一族に嫁入りとなれば、そりゃ大変だろう。相当な覚悟が必要だと思う。
「でも、まさかそのせいで好きな女性との結婚を諦めなければならないなんて」
だから、なんでそんな考えになる。
まるで悲劇のヒロイン(うん。ここはヒーローじゃなくてヒロインだろう)ばりに嘆き悲しむ貴文を俺は呆れた目で見る。
「なあ、貴文。そんな理由で彼女と別れられるのか?」
「そんなことは出来ない。結花と別れるなんて」
まるでこの世の終わりみたいな悲壮感を漂わせる貴文。
『身分違いで引き裂かれそうな純愛!』ってところか。
いつも余裕の微笑を崩さない貴文がこれほど表情を曇らせるとは…
面白いからもうちょっとほっとくか。
「どうして僕は西園寺なんかに生まれてきてしまったのだろう」
うわぁ、出たよ乙女発言。そこらへんの男が言ったなら気色悪いだけだろうが、さすが貴文。サマになってる!
「いっそのこと、西園寺なんか消えてなくなればいい」
「…… 」
いつもなら冷静で合理的な判断が出来るのに、彼女が絡むとどうしてこんな残念になるんだ?
ここでこのまま放置したら状況が悪化するのは目に見えている。
貴文はどんどんマイナス思考になり負のスパイラルにはまり込んで多大なストレスを抱え込む。そしてそれを発散させる為に俺は巻き込まれ、俺のメンタルが著しく削られる。 …恐ろしい。
そろそろフォローしとくか。




