20 西園寺瑤子
投稿が遅くなってしまいました。
いやー今回は難産で… いろんな人で書き始めてはポシャッて、ついにはラスボスというか西園寺様のお母様の登場となりました。
『上品な奥様で気まぐれな有閑マダム』なんてハードルが高すぎてラシクないかも知れませんが、どうぞ最後まで楽しんでくださいませ。
昼間の熱気が勢いを緩め時折吹く涼しい風が素肌に心地よい。
中庭のテラスでシャンパンを飲みながら暮れていく景色を堪能していたら、顧問弁護士の野田が控えめに声を掛けてきた。
「お寛ぎのところ失礼致します」
私が視線を移すと、彼は恭しく一礼し手にしていた封筒を差し出した。
「現時点で御報告できる調査結果でございます」
調査を依頼したのは3日前のことだというのに手渡された書類は完璧なものだった。
相変わらずこの男は仕事が速い。
十枚近くに及ぶ書類に目を通す。
身上調査も素行調査も注目する記述はない。何処にでもいる平凡な女性… というよりは女の子といった方がしっくりくる。
書類をめくりながら、まるで置物のように存在を消していた野田に目を向ける。
「なんだか、あまりパッとしない娘のようね… 本当にこの娘で間違いないのかしら」
私と目があうと、野田はゆっくりと頷いた。
もう一度書類に目を移し、添えられた数枚の写真を確かめる。
そこには、まだあどけなさが残るこれといって特徴のない女子大生が笑顔で写っていた。
「貴文はこの娘の何処に惹かれたのかしら?」
我が息子、貴文に一年近く続いている恋人がいると知り、興味を引かれて調べさせたけど… これは、はずれね。
私はすぐさま関心が無くなり、書類をテーブルに投げ出した。
「奥様。どうやらこの件、北の方々も気付いていらっしゃるようです」
「北が?」
「はい。今日、瑠璃子様が直々にお出ましになられたようで… 」
「瑠璃子… 北はまだアノ話を諦めてはいないのね」
北の義基は野心家で、西園寺の中枢に食い込もうといろいろ画策しているようだ。その手始めに分家の筆頭である東と縁を結ぼうと躍起になっている。
義基の長女、瑠璃子は今年8歳。三男の政親との縁談が妥当だろうに、次期本家当主の座に一番近い貴文との結婚を望んでいる。貴文が大学に進学した頃から再三再四婚約の申し入れがあったが全て断っている。
義基などに西園寺本家を牛耳らせてなるものか。
「お母さん。こちらでしたか」
「あら貴文さん、お久し振りね。今日は戻ってくる日だったかしら?」
普段はこちらから催促してもなかなか帰ってこない息子に少々棘を含んだ物言いをしてみたが、貴文は気にも留めた様子はない。それどころか、性急に自分の用件を話し出した。
「お聞きしたい事があります。北との話は… 」
詰問するような口調で喋りながら、大股で私に歩み寄ってくる。めずらしいこと。貴文がこんな無作法をするなんて。
そして近付いた貴文がテーブルに投げ出していた書類に気付き言葉が止まる。
見る見るうちに貴文の顔付きが変わった。
「お母さん。これはどういうことです!?」
あら、見つかってしまったわ。
私は曖昧に微笑んで見せた。
「…そうか。瑠璃子に婚約者だと偽らせて結花に会いに行かせたのは貴方の差し金だったんですね。男に金を渡して彼女を誘惑したのも貴方の仕業ですか? それも、一人や二人じゃない!」
まあ、初耳。そんな事があったのね。
「思い通りに事が運ばないからといって、北の手を借りるなんて… そこまでして僕と結花を別れさせたいんですか!?」
私の知らない所で面白い事が起きていたのね。後で野田に詳しく調べさせましょう。でも、とりあえず今は…
「落ち着きなさい貴文さん。人様の前で見苦しい。そのような振舞いは西園寺の名折れですよ」
「こんな事をされて、落ち着いてなどいられません!」
「私はあなた達を別れさせるつもりなんてありませんよ」
「嘘だ!!」
ふふふ、楽しい。
貴文がこんなに表情豊かに怒って見せるなんて。もう少し遊んでみようかしら。
「学生時代の恋愛にとやかく口出しなんて… 大抵のことは『若気の至り』で済んでしまいますもの。貴文さんも遊びたい年頃でしょうし」
恐ろしい形相で貴文が睨みつけてくる。私は態とゆっくりシャンパンを飲み干し、余裕の態度で話し始めた。
「ねえ貴文さん。今の時代、身分が違うとか家の格がつり合わないなどと言う人は殆どいないでしょう。私もそんな事は気にいたしません。でもね、育ちの違いは不幸を招く元なのよ」
「……どういう意味ですか」
「もし、貴方とこのお嬢さんが結婚したとして、彼女は西園寺の中で幸せに暮していけるかしら」
「…… 」
どうやら貴文は冷静さを取り戻したらしい。私の言葉の意味を正確に理解しようと努めているようだ。
だから私は、更に問題を提起してみせた。
「貴文さんはこのお嬢さんを随分大切に思っているようだけど、このお嬢さんはどうなのかしら。どのような苦労や困難があろうとも、貴方と一緒にいたいと思うほど貴方を好きでいてくれているの?」
「それは… 」
「なら、私が手を出さなくてもいずれは壊れてしまうでしょ。それなのに態々面倒なことはしませんよ」
「野田さん。この娘のこともっと詳しく知りたいわ」
「承知致しました、奥様」
一礼して退席する野田の後姿を見届けて、私は無造作に置いていた書類を取り上げ今度は念入りに目を通す。
あの何物にも執着したことの無い貴文が、いつも完璧に表情や行動をコントロールしていた貴文が、あれほど素の感情をさらけ出すとは…
佐藤結花さん。もっと貴方の事が知りたくなったわ。
きっと貴文に向けて笑っているのであろう彼女の写真をじっと見詰めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
さて、このお話しもあと1.2話で終わりそうです。
まだ、全然形になってませんが、なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。応援宜しくお願いします。




