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それでは恋を始めましょう。  作者: 紫野 月
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 2 西園寺貴文

「よう、貴文。今度の金曜合コンするんだけどさ、お前参加してくれよ。お前が来てくれると女の子のグレードがアップするんだよ。なあ、いいだろう」

「ねえ西園寺君、この前封切になった映画面白いらしいよ。明日一緒に行こうよ」

「今日これからリサの家に行くんだけど西園寺君も来ない?」

「なあ西園寺… 」

「ねえねえ貴文くん… 」

 うるさい、うるさい、うるさい!!

 僕は心の中で叫ぶ。でも、顔には出さない。

 僕はいつも誰かに見られている。だから、常に自分の行動と表情に気をつけている。これはもう幼い頃からの習慣だ。

 僕は彼らのことをよく知らない。こうして話しかけてくる者達は決して友達なんかではない。強いて言えば知人か… 同じ講義を取っているとか、学食で相席になったとか、そんな程度。同じ高校を卒業したって声をかけられた事もあったが『だから何?』って思う。

 みんな僕と関わりを持ちたいと思ってる。それは僕の背後にあるモノが魅力的だからだろう。


 ただ単に、僕の外見に惹かれて近寄って来る女性もいるが、どちらにしても鬱陶しいだけだ。だから、いちいち真面目に受け取らず適当に受け流していく。誰でもどんな女性でも、みんな等しく同じように接する。これも幼い頃からしていること。特別は作らない。学内という狭い社会で特別を作ったらあとあと面倒なことになる。

 それは以前学習した。

 遊びたければ他で遊べばいいのだから。

 そうさ、特別はいらない。

 だから、彼女のことは捜さない。

 あの時浮かんだ疑問も、もう深くは考えない。

 あの時僕はたまたま精神的に疲れていて、無邪気な顔で笑っている姿を見て少し癒されただけ。

 ただそれだけのこと。

 このまま会わずにいればすぐに忘れていく。記憶から薄れていく。それでいい…




 月日は流れる。

 相変わらず僕の周りに群がる人間たち。

 僕に話しかけ、僕に触れ、僕の興味を引こうとしてくる。だから、いつもどおり人当たりのよい好青年を演じる。そして僕の心は少し苦しくなってくる。

 いつだったか、誰かの会話を偶然立ち聞いた事がある。

 僕のことが羨ましいと… たまたまお金持ちの家に生まれ、ルックスに恵まれただけで皆にチヤホヤされていい気になっている。なれるものなら、僕に成り代わりたいと。

 僕の方こそ代わってもらいたいものだ。

 僕は目立ちたくて目立っているわけじゃない。

 逆に、四六時中見られていることの息苦しさ。西園寺の家名を背負っている事のプレッシャー。それらをみんな受け取ってみろ!

 それでも僕になりたいか?

 それでも僕が羨ましいか?

 どこにも持って行きようのない怒りが込み上げてくる。


 ああ、僕はまた疲れてしまったのだろう。

 この心を慰めてくれるモノを捜さなくてはならない。

 週末にどこかドライブに行こうか。そこでまた、その場限りの恋人を見つければいい。そうすれば、このささくれ立った気分も少しは落ち着くだろう。

 そんな事を考えながら窓の外を眺める。久し振りに雨が降っていた。

『雨か… 今日は中庭には行けない』ふと、そんな事を思った。すると足が勝手にあの水槽に向かっていた。

 行ったってどうせいない。けど、もしかして… そんな淡い期待が胸をよぎる。

 いる? いない? どちらだ…



 彼女がいた。

 いつものあの笑顔で、水槽の前に。幸せそうに魚を見ている。

 その姿を見るだけで僕の心は穏やかになり、満足するはずだった。けれど今日は…

 彼女の隣に男がいる。

 楽しそうに何か話している。

 あれは誰? なぜ隣にいる? 楽しそうに何を話しているの?

 僕は君の傍に近寄ることも、話し掛けることも出来ないでいるのに。

 僕は見ていることしか出来ない。

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