19 橋本小春
今回の話の都合で、18話の終わりの部分を加筆修正しました。
すみません。お手数をおかけします。
疲れた…
今日最後の講義がやっと終わった。
お昼からの2コマは眠気との戦いだった。課題を仕上げるためほとんど寝てなかったしね。今、布団に入ったら3秒で眠れる気がする。
重い体を引き摺って講義室から出ると、知らない人に声をかけられた。
「あ、やっぱり橋本さんだ。よかった、やっと会えた。探していたんだよ」
はて、あなたはどなた?
彼は私を知っているようだ。そして彼の態度からすると私と彼は面識があるみたいだ。
うーん、思い出せない。『貴方は誰?』って聞いたら失礼だよね。でも、誰だか分かんないし。困った…
そんな私の様子に気がついたのか、彼は苦笑いを浮かべた。
「橋本さん俺のこと覚えてないの? ほら、一年位前に一緒に鉄板焼きを食べたんだけどな。西園寺と安倍とそれから君の友達とさ」
一年前に西園寺様と安倍君とてっぱん__
おお! あったね、そんな事。
ええと、あと一人は、この人は…
「宮沢君?」
「そうそう、思い出してくれた? っつか忘れるなんて酷いね」
宮沢君の言葉を私は笑って誤魔化した。
すみません。あの時は西園寺様しか見てませんでした。それに一年も前の、それもほんの数時間一緒だった人の顔なんて憶えてないです。だってそれきり接点なんて全然無かったし。それなのに今頃私にどんな用事があるというのでしょうか?
「あのね橋本さん。俺、今、竹下さんを口説いてる最中なんだけど__」
ああ、はいはい真美ね。真美は美人だからね。で、それで私に何の用?
「彼女なかなか手強くてさ、それで考えたんだ__」
ふーん、相手にされてないんだ。真美は恋愛に関して結構硬派だからね。宮沢君は見るからにチャラ男だし、まあ無理なんじゃない。
「みんなで海に遊びに行くってのはどうかな」
「みんな?」
「そう。みんなで」
「みんなって?」
宮沢君は満面の笑顔を浮かべ明るく答えた。
「決まってるじゃん。俺と貴文と祐一でしょ。橋本さん佐藤さん、そして竹下さん。ぴったり3対3の6人!」
…成る程、ダブルデートならぬトリプルデートをしようってコトか。
西園寺様と結花は目下ラブラブの恋人同士。
宮沢君は真美が目当て。
ということは、私は安倍君とペアってこと? ちょっと待て、どうしてそんな発想になるのよ?
「__に貴文が別荘を持ってるんだけど、そこに泊りがけでさ「宮沢君!! なんか勘違いしているみたいだけど、私と安倍君は付き合ってないし。そもそも友達っていう程仲がいい訳でもないんだけど!」」
「えっ、そうなの? よく一緒にいるからてっきり」
それは安倍君から西園寺様の情報を得ていたんです。学食おごったりジュースやお菓子を差し入れたりして、高校時代の西園寺様の様子なんかを教えてもらっていたのだ。それに…
「なにくだらんこと言ってんだ佳樹」
背後からいきなり安倍君に話しかけられ(それもちょっと低い声で)宮沢君は笑顔のまま凍りついた。
「なんで祐一がここにいるわけ?」
「それは俺もさっきの講義を受けていたからだ」
「…あっ、そうか。二人は同じ学部だっけ」
そう。安倍君と一緒にいるようにみえるのは、受ける講義が大体同じだからだ。
「その旅行の話し、貴文も乗り気じゃなかっただろうが」
「二人きりで行くよりも大勢で行く方が楽しいって。海ではしゃぐのも、バーベキューするのも、花火をするのもさ」
「だからって、俺や橋本さんを巻き込むな」
「だって、橋本さんが来なけりゃ竹下さんを誘えないし」
「人の迷惑を考えろよ」
「親友の頼みを聞けよ」
「親友になった憶えはない!」
「なにそれ、酷い!」
なんか私のコトそっちのけですね。
もう帰っていいかな。眠いんだよ、とっても。一刻でも早くお布団に行きたいんだけど…
私への用事はもう済んだってことでいいよね。
そう結論付けて歩き出そうとしたところでスマホが鳴った。
真美からだった。
「はっ!? 西園寺様がロリコンで婚約者!?」
あまりの衝撃に思わず大声で問い返してしまった。
なんだかよく分からないが、結花がぶっ飛んだお嬢様に絡まれて、そのお詫びってことでお食事券を貰ったので一緒に行こう。ということらしい。
『詳しいことは後でゆっくり話すから楽しみにしておいてね』
そして一方的に真美からの電話は終わった。
真美のテンションから想像すると非日常的な体験をしたみたいだ。うん、楽しみにしておこう。
スマホをしまい歩き出そうとした私の前を安倍君が遮った。
「橋本さん。とても面白そうな話をしていたけど、詳しく教えてくれないかな」
これは安倍君の声ですか? いつもと違って威圧感が半端ないんですが。
「俺も凄く興味があるな」
宮沢君、さっきまでのチャラさは何処へ行った?
その笑顔、笑顔なのになんだかとても恐いです。
「えーと、ゴメン。さっきのナイショの話で… だから忘れてもらえると嬉しいんだけど」
「そう。それじゃ他の人に聞かれたらマズイね」
「俺、今日車で来てるからドライブでもしながら話そっか」
「おっ、名案だね佳樹」
「「さあ行こうか」」
君たちさっきまで言い合いしてましたよね。
なのに今、どうしてそんなに息がピッタリなんですか。
こうして私は良い男二人に連行されました。
あーあ。内緒ねって言われたんだけどなぁ。
ごめん。真美、結花。
でも、これって、私悪くないよね。
ちょっと不運が重なっただけだよね。
ねっ、ねっ!!
結花は今年も海に行けないようです。
西園寺様が旅行に反対したのは、結花の水着姿を他の男に見せたくないからデス。




