17 鈴木加世
西園寺家のお手伝いさんです。
暁仁さんの回でちょこっと出てきた人です。ホントはあれで出番は終わりのはずだったのに…
私はこのお屋敷の住み込み家政婦の鈴木加世と申します。
本日は奥様がお客様を招いて茶会をお開きになるため、早朝からあれこれ細かい用事があり慌ただしくしておりました。
茶会の開始時間が近付きお客様方をお茶室に案内しておりましたら、この屋敷の長男貴文様がお戻りになり、御挨拶したいと皆様が居間の方へ戻られたため予定が大幅に狂い目の回るような忙しさとなりました。
先程ようやく茶会が始まりやっと一段落着きました。なので少し休もうと使用人用の控え室の前まで来ると楽しそうな笑い声が聞こえてきました。おそらく通いの者達が休憩をしているのでしょう。今日は朝から大変で少し時間に余裕が出来た今なら多少のおしゃべりはいいでしょうけれど、ドアの外にまで聞こえるようなはしゃぎ声をだすなんて… 『普段はこんな事はないのに』と思っていると会話から「貴文様」としきりに聞こえてきます。そういえば貴文様が戻られたのは2ヶ月ぶりだなと思いました。
貴文様は昨年大学進学と同時にお屋敷を出られ、マンションで一人暮らしをなさっておられます。
それ以来あまりお屋敷には戻ってこられません。
これは貴文様の少し遅い反抗期ではないか… と私は思うのです。
私がこのお屋敷で働くことになった時、貴文様は6歳の可愛らしいお子様でした。ですが、すでに西園寺の跡取りとしてありとあらゆる英才教育を受けておいででした。毎日毎日、お勉強と習い事に追われる日々を過ごされ、使用人がこんな事を考えるのはおこがましいことですが気の毒にと思うくらいでした。
名門西園寺の一員として、また旦那様の経営する会社の後継者として必要なことなのでしょうが、旦那様と奥様の厳しい教育方針に必死に応えようとなさる幼い貴文様があまりにも健気で… つい貴文様に肩入れしてしまったのは仕方ないことでしょう。
御両親様の高い要求に幼い頃から素直に従っていらした貴文様が初めて御自分の意志を通されたのは、進学先をK大に変更されることとそれに伴って一人暮らしを始める事でした。最初は全く聞く耳を持たない御両親様でしたが、貴文様は根気よく説得を試みられ、ついにはお二人を説き伏せられました。
貴文様がお屋敷から出られるのは大変淋しいことですが、この息の詰まる家を一時的でも離れることは貴文様にとってきっとプラスになると自分に言い聞かせ、その気持ちを無理矢理押し込めているところです。
そうです。貴文様はようやく自由な日常と普通の学生生活を手にされ、青春を謳歌なさっておいでのようなのです。
実は先月、貴文様のマンションのお掃除に伺った際に、可愛らしいお嬢様を紹介していただいたのです。大学の同級生だと仰っていましたが、絶対お二人は恋人同士に違いありません。貴文様とお嬢様の間には隠しきれない甘いムードが漂っておりました。それに、お嬢様を見る貴文様の熱い眼差しは間違えようもありません。
初々しいお二人の様子を見ていると、久しく恋愛に縁の無かった私ですら胸がキュンとしてしまいました。
ちゃんと分かっておりますよ、貴文様。
お嬢様のコトは決して口外いたしません。
週に一度、ハウスキーパーとして貴文様のマンションへお伺いするのは私だけ。ですから、私が口を閉ざせば、どなたにも知られることは無いはずです。
ええ、言いませんとも! 貴文様のお部屋で女性に会ったとか、なぜか歯ブラシが2本あったとか、小さなハート型のイヤリングがベッドの脇に落ちていたなどと!! 噂好きの他の使用人にウッカリ洩らしでもしたら大変な騒動になるのは目に見えていますから。
相変わらず、ドアの向こうから話し声が聞こえてきます。
内容は今日の茶会に招かれた5人のお嬢様のうちどなたが貴文様にお似合いかというものになっていました。
貴文様のお隣に相応しいのは、私だけが知っているあのお嬢様だけです。
ですが、こんなこと誰にも言えません。
おそらく今この部屋に入れば私もこの会話に混じることになるでしょう。もしかすると貴文様の私生活について、あれこれ質問されるかもしれません。疲労困憊のこの状態で話しかけられたら、ついポロッと言ってしまいそうです。
シャベリタイ。けれどシャベッテハイケナイ。
主の私生活については一切口外しない完璧な使用人に戻るためには休息が必要です。
ですから、私は控え室に入るのをやめて、いったん自室に戻ることにいたしました。
ほんの数十分でしたら私の姿が見えなくても誰も気に留めたりはいたしませんでしょうから。
加世ちゃんは31歳独身。彼氏募集中。でも仕事が大好きで知り合う機会なし。
実はおしゃべり好きで、ポロッと言わないように仕事中は無口、無表情を心がけている。なんて設定まで考えちゃいました。




