13 安倍祐一
「安倍君てさぁ、西園寺君とよく一緒にいるけどなんで?」
「高校のクラスメートなんだ」
「えっ! 安倍君も付属なの? すっごーい。お金持ちなんだね」
「そんな事無いよ。うちは至って普通のサラリーマン家庭」
「せっかく付属に行ったのになんでK大に来たの?」
「こっちの方が僕に合っていると思ったからだけど」
K大に入学してからこんな会話を幾度となく繰り返してきた。
嘘は言ってない。
だが、全てでもない。
それほど親しい間柄でもないのに、個人情報を懇切丁寧に話すこともないだろう。
俺と貴文の付き合いは生まれた時からだ。
幼馴染とは少し違う。俺の母親は貴文の父親の妹で、つまりは従兄弟同士になる。
親戚とはいえ俺と貴文の生活レベルは天と地ほどの差がある。
近所から御殿と称される豪邸に住み、数人の使用人に傅かれていた貴文。建て売りの一戸建てに家族で暮している俺。
大きな会社を経営している父親と、社交界の花と呼ばれている母親を持つ貴文。何処にでもいるサラリーマンの父親と、パートと家事に勤しむ母親を持つ俺。
そう、俺の父親はただの会社員。
息子の俺が言うのもなんだが、父はコレといって特筆したモノがあるわけじゃない。だが、母にとってはこの世で一番大好きな人だという。
高貴な血筋を持ち、指折りの資産家でもある西園寺。
その分家とはいえ筆頭に当たる東の西園寺の令嬢と一般庶民の青年。
住む世界が違いすぎて通常なら接する機会などなかっただろうに、何故か二人は出会い、恋に落ち、結ばれた。
当時、一般人が西園寺のお姫様を射止めたと凄い騒ぎになったらしい。
さて、普通のサラリーマン家庭の我が家ではとても有名私立の付属になんて通えない。
ぶっちゃければ、入学金すら払えない。いや、払えないって訳じゃないが、入学金として支払うにはちょっと… な額だ。
当たり前のことだが、入学金だけでは学校には通えない。授業料、制服、指定の体操服に靴に鞄、そして教材費。それら全てが有名私立に相応しく高額なものだった。そう、公立校のそれらとはケタが違うのだ。例えではなく本当に。なかには二桁違う物もあった。
貧乏子沢山の我が家では、到底支払えるわけがない。
付属にかかる費用は、伯父が全額出してくれた。
もちろん慈善事業ではない。
次代の西園寺の当主と目されている貴文の右腕として忠実に仕える腹心になること、それが条件だ。
貴文と同い年でそれなりに出来の良かった俺に白羽の矢が当たったわけだが、これは幸運だったと俺は思っている。
幼い頃に将来を決められてしまった不自由さはあるが、そのお蔭で最高の環境で最高の指導を受けることが出来た。勉強も、スポーツも、それ以外でも…
そう、伯父と貴文には感謝している。
とはいっても、心の底からではないけれどね…
名門西園寺家の御曹司で、端麗な容姿と優雅な物腰を持つ貴文は王子と呼ばれ、男女を問わず人気がある。
しかし本人はそれを負担に感じている。
まあ、みんなにチヤホヤされて嬉しがるお調子者でもなければ、四六時中他人に干渉(鑑賞?)されるのは煩わしいだけだろう。
西園寺の名を背負っている彼は、迷惑な周囲の人間を突っぱねるわけにもいかず、紳士的な態度で接している。
それがまた彼の人気を高めていき、今では大学で一番の有名人だ。
貴文の境遇にはおおいに同情する。まあ、見ている分には面白いけれどね。
彼の演技は完璧で、誰もそれが見せ掛けだとは気付いていない。大した者だ。
さて、自分を偽れば当然精神に負荷が掛かる。
彼はいい子を演じて溜まったストレスを発散させるため色々試してきた。スポーツ、武道、音楽、旅行… 時には逆ナンしてきた女をテキトーにつまんでヤリ捨てていた。これは美形に生まれてきた者だけに許された特権だろうか。羨ましい…
そんな彼が恋をした。
相手はどこにでもいそうな平凡な女の子。けれど人を引き付ける不思議な魅力を持った子だ。外見の地味さで隠されているけれど、磨き方次第では輝く宝石になる気がする。
どんな経緯で見初めたのかは知らないが、今までに無く真剣になっている。俺が知る限りでは初めてのことだ。
だからだろうか。貴文は彼女とのコトになると途端にヘタレになる。
今も彼女とのコトで俺に相談しに来た。
その内容を聞いた俺はしばし呆気に取られた。




