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正義の味方混乱する

 今日リアは昼前に幼稚園が終わる日だった。

 いつものようにシッターさんに幼稚園までお迎えに行ってもらい、一旦家に帰って昼食を食べてから、通っている体操教室へ送ってもらっている。そして再びシッターさんが教室に迎えに来て家に帰り、おやつを食べ終わった後、それは起こった。

 リアには子ども会で仲良くなった近所に住む友達がいる。その子の家へと遊びに行きたいと言い出したのだ。それは別に構わない。問題はリアが一人で出かけてしまったことだ。

 シッターさんは元組織の人間であり、事情を説明し、リアを一人で行動させないよう頼んでいた。だがリア本人が一人で出かけると言い張ったのだ。

 勿論、危険がある以上シッターさんがそれを許可するわけがない。彼女はリアを送っていこうとした。だがリアは隙をみて、一人で家を出てしまったのだ。

 確かに今までならば一人で遊びに行っていた距離である。そして本人に警戒するよう注意したくても、まさか悪の組織に狙われているなどと言えない。だから最近変な人が多いから注意しろと中途半端なことしか言えず、あまり本人に危険が迫っていることを伝えられていなかったのも一因だろう。

 結果リアは一人で外出し、彼女につけていた護衛二人は何者かに襲撃された。本人の安否はわからない。組織のオペレーターの話ではリアの現在地を示す表示は一旦近所の公園でしばらく止まり、また移動を開始したと言う。

 リアが一人でフラフラしているならばいい。だがつけていた護衛二人もが襲撃された今、その考えは甘いものでしかない。護衛に手を出しておきながら、肝心のリアには何もしないなどありえないだろう。

 ジェイは発信機が示すリアの位置に一番近い場所へ転送してもらった。ここからは自分の携帯電話に表示されるリアの場所を追っていくしかない。追いつければ良いがと考えながら、転送装置である一般人から見れば何か分からない金属製の箱から出た。

 そして携帯電話の画面を見て、首を傾げる。


「なんだ?」


 リアの現在地の表示がぴたりと止まっている。移動をしていない。

 ジェイはひとまずその場所まで行くことにした。地図から見るにその場所はリアが遊びに行くと言った友達の家だ。ここからすぐの場所である。

 全力疾走でリアの友達宅の前についたジェイは外から家の様子を伺った。最悪の場合、リア共々この家の住人が人質とされている可能性もあるのだ。

 ジェイはほんの僅かに悩んだが、本部へ通信で連絡を取り、突入すると伝えた。万が一の場合に備え、別の人員もまわしてもらうよう頼む。

 覚悟を決めて、インターホンを押した。少し間があって、その家の主婦が出る。


「はーい」

「あの、レッドフォードですが」

「あら、リアちゃんのパパ。どうしたの?」


 とても人質にとられてるとは思えないノンビリとした声にジェイは面食らった。


「えーっと。うちのリアがお邪魔していませんか?」

「来てるわよ。ついさっき来たばっかり」

「一人でですか?」

「もちろん。ちょっと待って、開けるから」


 彼女はインターホンを切った。そして少しして玄関の扉が開かれる。

 罠の可能性もあると少し警戒しつつ、さりげなく玄関から廊下を伺ったが怪しい気配はない。


「どうしたの?」

「い、いえ。リアのやつ、シッターさんに秘密で一人で家を出たらしくて」

「まあまあ。それは心配になるわね。上がったら?」

「は、はあ。じゃあ、ちょっとリアに話さないといけないんで。お邪魔します」


 ジェイは彼女に連れられ、リビングへと足を踏み入れた。そこには彼女の娘とリアの二人しかいない。二人の子どもは仲良く遊んでいる最中だった。

 リアが顔を上げ、己の父親が入って来たのを見て目をまん丸にする。当然だ。ジェイは仕事中の時間であり、こんなところに現れるとは思っていなかったのだろう。

 リアはおもちゃを置いて立ち上がるとジェイに駆け寄って来た。心配そうに父親の顔を見上げ、聞いてくる。


「パパ、どうしたの? 何かあった?」

「いや……」


 どうしたのはこっちの台詞だとため息をつきたくなるのを堪える。


「そんなことより、リア。お前勝手に一人で外出しただろう。シッターさんが心配して連絡してきた」

「にゃっ! だ、だって、だってミミちゃんのお家は近いもん……。いつも一人で来てるもん。リアはしっかりしてるから一人で平気だもん」


 もごもごと言い訳するリアにジェイは最近変な人が多いから、必ず大人の許可をとって一人で行動するように言い聞かせた。変な人が多い、という言葉にリアは真剣な表情になり、うんうんと頷いている。

 一通りリアに言い聞かせると、ジェイは転送装置を使って本部へ戻った。



 ***



「ジェイ、襲撃された奴が目を覚ました」

「話出来そうか?」


 ジェイが転送装置で本部にもどるとすぐ、『無色』のリーダーがやって来た。彼はジェイの問いかけに頷く。


「問題ない」

「じゃあ、ちょっと話を聞くか」


 ジェイは彼とともに足早に医務室へ向かう。

 リアが無事だったのは喜ぶべきことだが、謎が残る。襲撃された本人から色々と聴き出さねばならない。

 第三医務室の扉を開くとすぐ、ベッドに横たわっていた者が飛び起きる。


「あー、そのままでいい」


 立ち上がろうとしているのを手で制す。二人の負傷者はベッドの上で居住まいを正した。


「早速だが、襲撃された時のことを聞きたい。ちなみに襲撃してきた者を見たか?」

「いいえ。見ておりません」


 ジェイと無色のリーダーは顔を見合わせる。襲撃された二人は何とも気まずそうな表情だ。


「全く気配を感じなかったと?」

「はい」


 少し考え、ジェイは背後に控えていた医師を振り返った。この医師が運び込まれた二人を診察したはずだ。


「怪我の状態からどの様な攻撃を受けたと判断する?」

「どちらも一撃で昏倒させています」


 隣に立つ無色のリーダーが唸った。


「手練れだな。それもかなりの」


 そもそもリアにつけていたこの二人も組織の戦闘員の中で手練れであった。特に諜報活動を専門とし、戦闘能力にも長けている彼らは敵組織の暗殺者にも決して引けを取ることはないはずだった。しかし、その彼らが襲撃者の姿すら見ることが出来ず一撃で倒されてしまったのだ。

 だがそこで新たな疑問が浮かび、ジェイは首を傾げた。


「しかし、それだけの手練れが何故お前たちを殺さなかったんだろうな」

「わかりません」


 ジェイは俯き、考えを巡らせた。

 本音を言うと、最初はこの二人を疑っていた。襲撃を受けたが、犯人の姿は見ていないし、怪我自体は至って軽傷だ。

 しかし仮に彼らが悪の組織の手の内に落ち、襲撃されたふりをしてリアから目を離したとすればまた別の謎が生まれる。なぜリアは連れ去られることも、危害を加えられることもなく無事なのか、と。

 ふと二人の上司である無色のリーダーに視線を向けた。彼も難しい表情を浮かべている。

 何とも言えない重苦しい空気を破る様にジェイは口を開いた。もし本当に彼らが悪の組織の手の内に落ちているならおそらくここで問い詰めて口を割らないだろう。それにすぐに調査員が動くはずだ。


「他には、何かなかったか?」


 そういえば、と襲撃された方の一人が思い出したように言った。


「我々はとある民家のガレージの前で襲撃されました。しかし発見されたのは通りを挟んで向かい側、歩道脇の茂みの中です」

「襲撃したあと、お前たちを移動させた訳か。ますます分からないな。そこまでするなら息の根を止めるくらいしそうなもんだが」

「ああ、そういえば……」


 背後でずっと黙っていた医師が何かを思い出したように声を上げた。医師は襲撃された二人のうち一人を指差して続けた。


「ほら、そっちのヒゲの方。そっちの服の背中にちっちゃい子どもの足跡が幾つかついてたんだが」

「足跡?」


 思いがけない言葉にジェイだけでなく他の者も声を揃えて問い返す。


「そうそう。ほれ」


 医師は椅子にかけてあった上着を取り上げて、広げ、その背中の部分を見せてくれる。確かに白いその上着には薄っすらとであるが、小さな足跡がついていた。

 医師以外の四人は思わず首を傾げた。


「な、何で足跡が?」

「倒れているところを通りがかりの子どもにでも踏まれたか?」

「そういえば、微妙に背中痛いんです……」

「馬鹿者! 子どもに踏まれてものうのうと寝ているなど言語道断!」

「も、申し訳ありません!」


 ジェイは片手を額にあて、項垂れた。思わず呟く。


「まったくもって、意味がわからん」



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