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陣の場合 5





結局、またユマさんの屋敷に連れ込まれるオレ。


はあーと溜息をつくと、ユマさんは笑った。


「なんすか…。どうせ馬鹿にするんでしょ?」


「してないしてない」


「どうせオレには勝ち目ないし……イインダイインダ」



あんなに完璧な男相手じゃ、月とスッポン……いや、太陽と豆電球だもんな。


小さい頃から親戚集まれば比較されて、ダメ出しばっかり食らってた。


まだ比呂のほうが器用だから、オレなんかもう……くすん。



「あ、そういえば、杏里と知り合いだったんですか?」


初対面って感じじゃなかったよな。


「あー、知り合いってほどじゃないけど、昔一回会ったことあるくらいよ。いつだったかは忘れちゃったけど」


「ふぅん。じゃあ、余計オレなんかより向こうのほうがいいってわかるでしょう?」


凹みまくりのオレの頭をユマさんはそっと撫でた。



「何を言ってるの。陣くんだって素敵じゃない。陣くんにしかない魅力たくさんあるでしょ。童貞さんだし」



「それ、慰めになってないですから」


「えー。超魅力的だよぉ?」


はいはい。と、オレはユマさんの淹れてくれたコーヒーに口をつける。



「そんなに童貞なのが嫌なら、あたしが卒業させてあげるってば」


その言葉に飲んでいたコーヒーをゴフゥッとカップに吐き戻してしまう。


「だから、それは結構ですっ」


「んもう。素直じゃないなぁ」


なんて一つだ、まったく。



「それより、今日もお腹空いてるの。お食事させて?」


「うぇええ……」


「そんなに嫌な顔しないでよっ。あたしだって、生きるためにはお食事が必要なのよ」


そう言いながら、エマさんはオレのベルトに手を掛けた。


「アーレーーお代官様ー」


あっという間にパンツまで奪われるオレ。


靴下履いてて下半身丸出しって、ちょっと恥ずかしい。



「つーか、パンツまで脱ぐ必要なくないっすか?」


太ももから吸うのは、痕が残っても目立たないためらしいけど、パンツ履いてていいよね?


オレの小さいお兄さんは、恥ずかしがり屋さんなのに。



「下着が顔に当たるのって、なんか嫌なのよね」



中身が当たるのはいいんですか、そうですか。


オレは手で小さいお兄さんを抑える。


大きくなるなよー、恥ずかしい。



「いただきまーす」


かぷっと、太ももにかぶり付く。


一瞬痛みを感じたけれど、すぐに麻痺する。


むしろ、チロチロと舌が太ももを刺激して、ムズムズしてくる。


ちゅうちゅうとゆっくり自分の血液が吸われる不思議な感覚。



前回より慣れたのか、むしろ気持ち良く感じる。



そう、感じてしまう。



「………っ!」


抑えた手の中で、ムクムクと起き上がる股間の小さいお兄さんに、オレは心の中で、耐えろと命令を下す。


でも、壮絶テクニシャンな吸血鬼によってカッチカチにされてしまう、無情。


股の間にあるユマさんの閉じた目が、またなんともそそられる。



「……ぁっ」


触れられてもいないのに、達してしまいそうなほどに敏感に感じる。


これはヤバイヤバイ、ヤバすぎる。


今イッたら、ユマさんに掛かる。


掛かったら犯されて、精を絞り取られるに違いない。



「んっ……うっく……あっ」


奥歯を噛み締め、心の中でうろ覚えのお経を唱えつつ、我慢する。



すると血が減ったせいか、小さいお兄さんは徐々に正常な状態に戻って行った。



お食事が終わったユマさんの唇が太ももから離れる。


吸われた箇所には薄っすらと牙の痕が付いててなんとなく卑猥に感じた。



「ごちそうさまでした」


「……お粗末様でした」


とりあえずパンツを履き、ぐったりとソファに身体を沈める。


もうダメです、貧血です。


「あ、これ一粒飲んでね」


ユマさんがテーブルに小さい瓶を置いた。


辛うじて動く腕を伸ばしそれを手に取ると、中身は黒い丸薬のようだった。


お腹の調子悪いときに飲む正○丸みたいに見える。



「それ、あたしお手製の増血剤よ」


こんなの飲んで大丈夫なのかな。


疑問に思いつつ、このままでは動くことが困難なので一粒飲み込む。


「にっが……。何で出来てるんすか?」


予想より遥かに苦いその薬に、顔を歪める。



「成分は聞かないほうが良いと思うよ」


その返答に、自分の顔がさらに青ざめたように感じた。



蝙蝠の丸焼きとか、トカゲのシッポとかそういうのって事?!



「あはは。大したものじゃないわ。すぐに動けるようになるから、それまでは休んでいてね」


明日からレバー食べねば……。


エマさんはオレの頭を持ち上げてソファに座り、自分の膝の上に降ろした。


ひ、膝枕なんて、いやん。


優しい手つきで髪を梳いてくれる。


それがまた心地良くて、なんだか眠くなってしまう。


膝枕でいいこいいこされるなんて、男のロマン過ぎる。


な-んて興奮できるほど血の気ないけど。



「なんか、陣くんの反応が可愛過ぎてちょっと吸い過ぎちゃった」


バレてたんですね。


「あんな声きいちゃうと、あたしまで昂ぶってきちゃう。今夜は街で適当にエッチの相手探そうかしら」


適当な相手って……。



「……ダメですよ。そんなの。もっと自分の事大切にしなきゃ」


吸血鬼だって、女性は女性なんだ。



「自分を……大切に?」


キョトンとした声が頭上から降ってくる。


「そうですよ。適当な相手となんて、病気とか怖いし、女性なんだから損しちゃうでしょう」


そりゃ、人間とは違うかもしれないけどさ。女性は損する立場だから、安売りダメゼッタイ。



「陣くんって、本当にいい奴だね」


「え?」


「ううん。なんでもないよ」


「そうですか」


「少し寝ていいよ」


撫で撫でされて、段々瞼が重くなる。



美女の膝枕でお昼寝なんて至福の時……なんて考えながらオレは眠りについた。





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