陣の場合 3
「あははっ、やっぱり可愛いわ」
エマさんは弾けたように笑った。
「な、なんで笑うんですか?!」
「童貞さんで性格も純粋で、顔も可愛いしあたしの好みなの。だからあなたに決めたのよっ」
そう言って、エマさんはガバッとオレに抱きついた。
「うぉぇっ!!」
エマさんのぼよよんなお胸が当たって、オレは大パニック。
「しばらくの間、彼女になってあげようか?」
「はい?!」
エマさんが彼女って……このぼよよんをぼよよんできる…うへへへ……いやいや、ダメだ。
オレは抱きついているエマさんを無理やり剥がし、座らせる。
「オレには好きな女がいるんで!」
「好きならサッサと告白しちゃえばいいのに」
「それは……」
「臆病なのね」
「違いますっ」
「じゃあどうして?好きなんでしょ?」
あいつには、あいつには…。
「わかった。その子に恋人か好きな相手がいるのね」
「ゔっ……」
「はい図星ー」
そうだよ、あいつにはオレなんかよりはるかに魅力的な男がいる。
「馬鹿ね。奪っちゃえばいいじゃないの。陣くんだって、そんなに悪くないと思うわよ」
「…勝てないっす」
そう、絶対勝てない。
オレの従兄弟の杏里には、逆立ちしようと地球がひっくり返ろうと、勝つことなど無理。
「敵はそんなにいい男なの?」
「……そこらのモデルやタレントよりカッコ良くて、スタイル抜群。歩くだけで女の子が振り返るようなそれはそれは美しいお顔の持ち主。帰国子女で英語もペラペラ。なのにあいつにベタ惚れ…」
「一度会ってみたいわー。そんないい男」
「女ナンテ…女ナンテ…」
「冗談、冗談」
つーか、なんで恋愛相談になってんだろ。
でも、エマさんめっちゃ目が生き生きしてる。
女ってこういう話が好きなんだな…。
「まあ、協力してあげるわ。ヒマだし」
暇つぶしですか、そうですか。
その日から、オレは吸血鬼のお姉さんとの奇妙な付き合いが始まった。