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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
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(12)協会魔導師達の事情

夜中に樹海全体に結界を張り、火災を起こす――


『幻覚ですが』

と、ドレイク。

 そして結界内で、熱風や火の粉を中心に火災として本当に体感出来る空間を作り出すのは、協会の魔導師達。

 ――ちなみに

『悪戯程度の軽い 攻撃あそびなら構わない』


「だよな~。そうでなくちゃ」

 ゲオルグは声を弾ませた。

「ゲオルグ、本気は駄目だよ?」

 隣に立つルーカスが不安げに注意した。言うことなんて聞かないだろうな、と思いながら。

「分かってるよ、信用してねえな」

 うざったそうに返すゲオルグにルーカスは、

「ゲオルグは、手を抜く度合いが少ないから心配なんだよ。状況や相手を視て判断してさあ-」

と言い返す。

「だ~か~ら! 人を選ぶって! ――あいつなら平気だろうよ」

 楽しそうに遠隔魔法を施行しはじめたゲオルグを横目に、ルーカスは一つ溜息をつくと、樹海の木々の様子を身体で確認しはじめた。

 火災は幻覚だ。だが、熱風や火の粉は本物である。それによって樹木が萎れたり、火の粉が移って燃え広がったら本当に火災になる。

 ルーカスのように土に関係の深い魔力を持つ魔導師達や、同じように風の恩恵を強く受けた魔導師達は慎重に樹海の様子をうかがっている。

 火の属性を得意とする魔導師も然り。

 勿論、水だとてそうだ。もし、収拾が付かないほどに燃え広がったら対処しなくてはならない。

 その『万が一』のために四代元素を得意とする魔導師達は事前に話し合い、模擬演習をしたが。

 それでも緊張を強いられていた。

 

 ――魔導師認定考査と同時、協会に所属する魔導師達の再考査でもあるからだ。

 

 協会が国や機関に対して証明する発行する魔導師認定証があるが、大国エルズバーグで偽証された発行証が見付かった。

 その発行証自体、魔力の無い只人や魔力を使う魔法の使い手達『視る』力のある者には正直、必要の無いものだ。

 だが、実際使われ、国の最高機関の魔法管轄処の上層部達は気付かなかった。

 ――いや、気付いていながら素知らぬふりをしていたのか。

 上層部が偽証した本人だったのか――

 この件はエルズバーグだけでなく、世界の魔法の使い手達を一気に掌握している魔導術統率協会にとっても沽券に関わる。

 時代の流れに沿った改革が必要だと感じた魔承師及び魔承師補佐は、三年ぶりに再開した考査に

『魔導師再考査』

をも組み込んだのだ。

 第2考査は自然界に存在する元素を利用し、魔法を施行する協会魔導師達の再考査が含まれている。

 それを審査するのは――第二考査の対象になっていない協会魔導師達。-と補佐に補佐の助手達。

 補佐の助手達は樹海に降り、考査を受けている魔法使い達が事故に合わないよう見守り、尚且つ、自然が壊れることなく体験シアターが見事作られているか確認しているわけだ。


 ――そんな事情を協会魔導師達も抱えているわけで。

 ルーカスのように、久々の試験に緊張しているものもいれば、

 ゲオルグのように関係無く、考査に来た魔法使い達に悪戯を楽しもうとする者がいるということなのだ。

(だからといっても、許容範囲を超えた悪戯をすれば勿論、ドレイクも黙っちゃいないのになあ)

 ゲオルグは現役で

「今もやんちゃでさあ~」

なものだから、仲の良いルーカスの心配は尽きない。

「見付けた、ロジオン!」

 ゲオルグが玩具を見付けたような表情を見せる。

(おっさん顔のくせに、子供みたいで……)

 ――そういうえば、ロジオンの師匠だった亡きコンラートもこんな性格だったな、とこういうのにロジオンは好かれやすいのかもなとルーカスは思った。

「稲妻でいくか」

 ゲオルグが両手をかざす。同時、魔方陣が生まれ、中心に細くて小さな避雷針のような稲妻が次々と出来た。

 攻撃の左手が振られると、稲妻が消えた。

 空間移動によってロジオンの真下に落ちるように――

 ゲオルグは目利きの能力が強い。

 それは遠隔で目標物を確認できるのも含まれる。

 所謂『千里眼』

(直ぐに気付くか。それとも-!)

 ゲオルグは思わずたじろいだ。

 ロジオンを覗いている自分と彼の目があったのだ。

 瞬間、不敵に瞳を細めて微笑みを作ると刹那――ロジオンの防御の右手が空に向かって、おざなりに振られた。


「――!」

 ドレイクの目が僅かに見開く。そうして、ある方角を見据えた。

 ロジオンがいる先を――

 それはイゾルテも同じだった。

「……ああ、あの子が出てきたのね」

 イゾルテはそう困ったように笑った。



「――あだっ!」

 返された魔法に咄嗟に防御をしたが、一つ食らった。痺れを伴う痛みが左手を襲う。

「っあああ!ってぇぇおええ! 何だ、あのガキ、なにもんだよ……!」

 腕を振り痛みを逃しているゲオルグに、ルーカスは呆れた眼差しを向けた。

「そんな痛いやつ、一体幾つロジオンに向けたのさ。全部命中したらロジオンが危なかったじゃないか」

「死なねえ程度にはおさえたぞ。――それに……『あれ』ロジオンじゃなかったぞ?」

「……ロジオンのそっくりさんって、考査に来ている魔法使いにいた?」

 じゃなければ成りすまし? とルーカスは記憶を辿りながら口を開く。

「どっちでもねえ……見掛けはロジオンだ。中身がロジオンじゃねえ……」

 訝しげに顎を擦るゲオルグに、事情を知っているルーカスは話すべきかどうか悩んだが、思いとどまる。


 ――今は自分は再考査の途中だ。

 こちらを優先すべきだと思ったのだ。






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