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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
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(9)戦の檻

久々更新

 魔導率統率協会を取り巻く樹海は、今夜はいつもの静かな夜とは趣が違っていた。

 冬の最中、鳴く虫もいないがあちらこちらから笑い声や話し声、たまに歌声まで聞こえてくる。

 魔導師認定の第二考査に受かった魔法使い達の声だ。

 今のご時世の魔法の使い手らしい若者達が多く受けに来た。

 最初まごつきながら不安そうに野宿の支度をしていたが、頭と魔法を使いそれなりに過ごしている。

 時々、不満に咆哮のような怒鳴り声を上げる輩がいるくらいだ。



「そうそう、そのくらいの風力で……」

 ロジオンが隣で両手を扇ぎながら焚き火の火に向かっているゾフィに教えている。

 先程暴走したゾフィに水鉄砲を食らわして、己を取り戻すことに成功したが、全身水浸しになった彼女。

 とりあえず替えの服に着替えたが、魔法防御がコーティングされていないので不安だというゾフィ。

 とはいえ、今は冬の最中。火に近づけて乾かしているとはいえ乾きが悪い。

「『火』の属性が強いタウィーザと『風』の属性が強いゾフィがいるんだから、うまく利用したら良いじゃない。属性は相性は良いはずだよ」

「風の属性が強いなら、色々な種類の風を起こせないのか?」

 タウィーザが面倒臭そうに物言いを付けた。

「そこまでできないよお」

 ゾフィが泣きそうだ。

「属性を持って生まれていると、魔力は最小限のまま属性を強く発揮できるから随分楽なんですけどね」

 ディルが残念そうにロジオンに言うと、ロジオンも相槌を打っ。

「良いではないか、こんな全身タイツみたいな魔妨服」

 枝と枝にくくりつけた縄にぶら下げた、白の頭から爪先までしっかりある被り物……。

「確かに……白タイツ」

「これだけ着て徘徊したらウケる~! 超不審者!」

 タウィーザがリアルに想像したのか、自分で言った台詞にツボって笑いこける。

「もう! バカにすんな! これ良いんだぞ! 寒い時期なんて薄着でいけるんだからな!」

 腹を抱え込んでひざまついているタウィーザの背中を、ゾフィが叩いて怒っているのをディルが宥めて落ち着かせていた。

「……風の種類は作れなくても、風の調整は? 出来る?」

 ロジオンがゾフィに尋ねると、

「うん」

と、タウィーザをポカポカ殴りながら答えた。

「じゃあ――」


 ――ということで、ロジオン指示の元に今こうしている。

「温風や熱風を自らの属性で作れれば楽だけど、それができなければこうして他の属性から力を借りるしかないよ」

「うん」

 ゾフィは集中しているせいか生返事である。

 タウィーザとディルには先に休んでもらった。途中交代で周囲を監視するためだ。

 まさか、何もないまま一晩樹海で過ごせ――なんて甘いことを協会が考えているとは思えない。

「どうかな? 結構続けているけど」

 ゾフィがウキウキとしながら干した自分の魔妨服に触れた。

 乾きにくい脇も慎重に触れてロジオンに振り向く。

「ここだけ少し湿っぽいけど、後は乾いてる」

「ゾフィが良いならそれで良いんじゃない?」

「じゃあ着替えてくる!」

 ゾフィは嬉しそうに干した魔妨服を取り込むと、暗い樹海の奥に入っていった。


**

「補佐、各自指定位置に待機完了です」

 フレンが移動法陣から出てきてドレイクに報告する。そのドレイクの周囲には、名高い魔導師達が出揃っている。

 勿論、ルーカスやゲオルグも。

「――では、始めましょう」

 ドレイクの一言にゲオルグは、

「楽しみだねえ、さて何人見破れるか」

と満面の笑みで言った。

「ちゃんと手加減しなよ」

と指をポキポキと鳴らしているゲオルグに、ルーカスは無理そうだと思いながら注意を促す。

「危険な行為が結界内で起きても、中で待機しているドレイクの助手達が手を差し伸べてくれんだろ?」

 ゲオルグは全く聞く耳を持たない様子だ。

「死人は出さないように」

ドレイクは短く、しかし威圧的に魔導師達に促した。

 ドレイクの言葉に肩を竦めたゲオルグにルーカスは安堵の息を吐いて、真っ直ぐにドレイクの背中を見つめる。

 ドレイクの口から短い詠唱を終えると、彼の身体がぼんやりと輝き出す。

「ᛒᚫᛏᛏᛚᛖ ᛈᛟᚱᚾ(戦の檻)」

 指定範囲内で攻撃を仕掛けるための結界が地から樹海を囲む。

 それは協会を囲む樹海全土に渡った。

(当たり前だけど相変わらず綺麗な結界を張るなあ……)

 隙のない、強固な結界壁。

 これだけの広さと大きさを加えて一人で全てをやり遂げて且つ、中に攻撃さえ出来るだけの魔力に才能。

(竜――というだけじゃなくて、彼の生まれながらの才なんだろうな)

 自分がまだ師の元にいた小さな少年だった頃、彼に会ったことは今だ印象深い。

 表情の乏しい、だけど秀麗な顔立ち。そして――恐ろしいと後退りするほどの『魔力』

 今では慣れっこになってこうしているのだから不思議なものだ。

 施行が完了したのか、ドレイクが振り向く。

「手はず通りにお願いします」

 と、いつものように慇懃な言い方で、第三考査が始まった。




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