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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
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(7)火の属性 風の属性

他の話にうっかりクリスの名を使ってしまったので、こちらのクリスは「ディル」に変更します。

「薪を沢山取ってきたね」

「うん、凄いだろ? ディルに手伝ってもらったんだ」

「ディル……」

 ロジオンはゾフィの後ろにいる、壁のような少年に視線を移した。

「仲間に入れても良いだろ? 派手王子よりずっと使えるよ」

 少年は恐縮するように肩を窄め、お辞儀をした。

「ディル・アルクルです。バルカから来ました」

「ロジオン。ロジオン・イェレ・エクロース・エルズバーグです。よろしく」

 手を差し出すと、彼は喜んで握手を交わした。

「凄いだろ! 森からこんなに食べれる食料を取ってきたんだ!」

「その少年が──であろう?」

 タウィーザが茶化す。

「だから、ディルが、って言おうとしたんだろ!」

「凄いね。こんなに沢山長芋掘ったんだ。根が深いから大変だったんじゃない?」

 タウィーザとゾフィが言い合いをしている脇で、構わずロジオンはディルと話す。

「この森って人の手がほとんど入ってないから面白いように取れて……つい夢中になったら取り過ぎちゃったんです。良かったら食べませんか?」

「ありがとう。じゃあ、一緒に食べようか」

「……良いんでしょうか? 仲間に入っても……」

 遠慮がちに尋ねてくるディルに

「構わないよ」

と、ロジオンは微笑んだ。




**

「こうやって芋を葉に包んで、蒸し焼きにする」

 それから石を囲んだ中に薪を積み上げた。

「火を起こすなら私に任せてくれ」

 タウィーザが自信満々に言うと、薪に手をかざす。

「──待った! 魔法で薪に直接、火を付ける気?」

 ロジオンが慌てタウィーザを止める。

「駄目なのか?」

「あっという間に全部燃えるだろ!」

 これに火をと、ナイフで割いた柔らかな木くずの山を出す。

「空気含まないと、火も長続きしないから。火力が一気に上がると燃え尽きるのが早い。魔法の攻撃はその方が効果大だけど」

「小さいなあ、じゃんじゃん燃やせば良いではないか」

「キャンプファイヤーでもやるつもり?」

 資源は大事に使えよ、ゾフィが窘める。

 はいはいと、タウィーザは人差し指を出した。

「盟約に従え(وتابع العهد)」

 命じると小さな火が出てきて木くずを燃やす。

 一瞬見えた形にロジオンは目を見開いたが、取り敢えず薪に火種を移した。

「今の召喚獣ですか?」

 ディルがタウィーザに尋ねた。

「ああ、火の属性を持つ妖鳥だ」

「『カウ』だね。契約を交わしているんだ?」

「いや、契約ではない。下僕だ」

 タウィーザの台詞にロジオンだけでなくゾフィやディルまでも驚く。

 契約で盟約を結ぶ場合、当然『期間』『代償』が発生する。

 だが、『下僕』として盟約を交わしている場合は、その召喚獣と戦い認められた証拠である。

 その辺りは四元素の王に戦いを挑み称号を手に入れ、無条件で力を借りれるのと同じだ。

「カウに戦いを挑んで勝ったんだ。凄いね」

 ロジオンは素直に感心した。王子じゃなかったらスカウトするのにと反面残念に思いながら。

「何、属性を持つ召喚獣と戦うにはコツがある。私の場合火に突起した才があっただけだ。それだけでも召喚獣というのは同類だと感じて懐くものだ」

「本能で動くのはね。召喚獣でも力が強い獣は知能があるから、それだけでは難しいよ」

「──じゃあ、カウは知能無いんだ」

 ゾフィの突っ込みに口を慎め! とタウィーザ本人に叱られ、ディルが笑いながら逃げるゾフィを庇う。

「ほら、スープ作るから手伝って」

と、ふざけっこに変化した三人をロジオンは促すと

「私調理に自信無い」

「料理などしたこと無い」

 ゾフィとタウィーザが口々に言った。

「……魔法の使い手達って、どうしてこう生活の基本が抜けているのが多いんだろう」

とロジオンはぼやいた。


そういえば大丈夫だろうか?──うちの魔法管轄処の魔法使い達は──と少々不安になったロジオンだった。


 焚き火を囲み、早速夕飯にありつく。

「──美味しい! ディルって料理上手なんだあ」

「うむ。これは、なかなかのものだ」

 ゾフィとタウィーザが、スープの美味さを堪能している。

「僕の実家は小料理屋をやっていたので、よく手伝ってたんです」

「道理で。味付けが素人っぽく無いと思った」

 ロジオンが蒸し焼きにした長芋を、皿代わりの葉に乗せながら感心した。

「いやあ、母もきちんと勉強した訳ではないし、家庭料理ですから」

 ディルは大きい身体を丸めながら照れる。

「小料理屋をやっていた──って言ったけど、今はやっていないの?」

 ロジオンが尋ねた。

「はい、つい最近閉めたんです。元々、父の稼ぎの足しにやっていたんですが思ったより繁盛して、父と母が二人してやるようになった経緯があって──父が亡くなったので……」

 シン、となった空気に驚きディルは慌てて言った。

「あ、でも亡くなったのはもう七年前ですから! 七回忌でちょうど節目だから閉めるって母も言ってましたし! それに以前から結婚前の職場から『戻って来ないか』って打診があって、僕ももう大きいし、独り立ち出来るから勧めたんですよ!」

「……ディルはお母様かお父様、どちらかかどっちも特異な種族だよね?…」

 ロジオンの問いにはいとディルは素直に答える。

「やっぱり分かりますか? バルカは結構異質な外見の者が多くて気にはならなかったけど、皆さんはやっぱり気になりますか……?」

 ますます背中を丸くするディルにロジオン達は「ううん」と首を振り、実にあっけらかんと言った。


 それにディルはホッとしたのか、顔を赤らめ破顔一笑した。




「父は昔、協会に所属していた魔導師だったそうです」

 安心したのか、気を良くしてディルは自分の事を話し出した。

「でも、ある仕事で魔力を引き換えに人命を救った事で魔法が施行できなくなって、協会を辞めたんです。母も当時、侍女として協会で働いていてお付き合いをしていて、父が協会を出る際に一緒に出て行ったそうです。」

「それでディルが産まれたの? でも、魔力が無くなったのに、どうしてディルは魔力があるんだ? お母さん、侍女だったら魔力無いよね?」

「お前、見かけ通りの子供だな」

 ゾフィの問にタウィーザが意味深に答える。

 何で何でー、とふてくされるゾフィにロジオンが

「出て行く時にもういたってこと。ディルが」

と教えた。

「何処に? 生まれてたの? 協会から出てから結婚したんだよね?」

「……もう! 話が進まないよ。察しなよ」

「君は黙っていたまえよ」

 タウィーザどころかロジオンまでにも言われ、ゾフィは頬を膨らましたまま黙った。

 ディルは、ほんのりと頬を染めて続きを話し出した。

「それからバルカで暮らしたのはさっき話した通り。父は魔力を失って只人になったから普通に歳を取って亡くなって母は異種族の人で、ゆっくり歳を取って行く人だからね……」

「では、母上は協会に戻ったと言うわけか」 

「はい。定期的に協会の方がいらっしゃっていたので。その方が」

「じゃあ、その人がディルに魔法を教えてくれたんだ」

「まあ、尋ねたら教えてくれた程度です」

「バルカは、魔法を教える学校があるんじゃなかったかな?」

 ロジオンの台詞にディルは「はい、僕もその系統の学校に入っていました」と頷いた。

「へえ、良いなあ。じゃあ、自分の師匠探す苦労無かったんじゃない?」

「ゾフィは、ドレイクに教わったんじゃなかったの?」

 あの様子だとそうかと思っていたとロジオンが言うと、ディルは大変驚いたように目を見開いた。

「ドレイク様をみんな知っているんですか? 定期的に来る協会の人ってその人ですよ」

「──えっ?そうなの?」

 ロジオンとゾフィが驚いている中、タウィーザは「何だ個人的に知らないのは私だけか」と珍しくふてくされた。


「ドレイク様はいつもフラリと突然やってきて、父と自家製の果実酒を飲んで帰っていきましたね。数年に一度の事なんで、僕はあまり話はしませんでした。話しても魔法の質問位で……大体は母と話していましたよ」

 だからそんなに補佐の事は知らない、とディルが告げた。

「協会の元侍女の元に足繁く通う、№2か…」

 タウィーザが意味有りげに笑う。

「数年に一度って言ったじゃん」

「お父さんも一緒に飲んでるって言ってるし」

 ロジオンとゾフィの突っ込みに

「男と女の仲など、見た目では分からんものだぞ」

と悩ましげに答える。

「……タウィーザ、どれだけ耳年増」

 まあ、万が一有るかも知れないなぁ、とロジオンは彼の発情期を逆算する。

(大変だからなあ……発情期の時のドレイクの相手は。エレノイアみたいな竜なら大丈夫だけど、純血はもう此方には──)


 ──ええと……誰の記憶……?


 ロジオンは不意に浮かんだ考えに、額を抑えた。

 エレノイア、なんて会ったことがないのに顔まで鮮明に知っている。

 それに純血の竜がいないのも理由を知っている。


「ドレイクはそんな邪な考え持ってないよ!」

 ゾフィの怒鳴り声にロジオンは額から手を外し、彼女を見た。見れば怒りで真っ赤だ。

「邪な考えは無くとも、そうなることもある。それが男女という物だ」

 お子様に諭すように言うタウィーザは、ゾフィを見てはた、と気付き慌て出す。

「ドレイクは普段厳しいし、冷たく見えて人を寄せ付けないとこあるけど、強いし優しいよ! だからディルのご両親が心配で様子を見に行ってるだけだよ! 権威振りかざして無理強いしない!」

 ──既に聞いてない。

 とうの息子のディルを差し置いて泣きながら怒り狂うゾフィに、さすがのタウィーザも唖然とした後、引きながら「すまぬ」と詫びた。

 それでもゾフィは収まらないようで、言い続ける。

「小さい頃、癇癪起こすと風を出して回りを滅茶苦茶に壊す私に根気よく付き合って、感情の起伏で風の魔法が勝手に出て来ないように教えてくれたんだ! 両親だって怖がって近寄らなかった私を、抱き締めて根気よく教えてくれたんだ! そんな汚い考えなんか無い!」

「ゾフィ、分かったから」


 ──風の属性か

 森の空気が荒れ始めた。風に煽られ火が消える。

 魔力が不安定なのは、原因が精神年齢だけじゃ無かったんだ。


 気まぐれの代表格『風』の力を強く受けて産まれたからか。






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