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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
33/49

(3)成りすまし

 

 ──えっ?


 そこにいた全員が一瞬、耳を疑った。

 先程『魔導師補佐・ドレイク』と自己紹介したばかりではないか。

 魔法使い達から、ざわめきが起こる。


 物見台からドレイクが口を開いた。

「魔力を使って私を見極めてください。私が『魔承師補佐・ドレイク』だと感じるなら、向かって右。違うと感じるなら、左に移動をお願いします」

 魔法使い達の中から動揺が起きる。


 これは『成りすまし』かどうか見極める問題。


 目利きがあるかどうか──。


「分かんないよ……!」

「俺、補佐と会うの初めてだぜ!」

 そんな声が、あちらこちらから上がる。

「言ったでしょう。魔力で目利きを施行しなさい──それがヒントです」

 会った会わないは関係無い。

 物見台のドレイクが、『成りすまし』による偽者か本物か見極めるのだ。

「周囲に相談は無し! 自分の判断で動いてください。周囲に聞いた時点で失格になります。制限時間は二分!」

 えーっ!

 少ない時間で皆、慌てて施行する。

 右に行ったり左に行ったりと忙しない者もいれば、じっと動かないでひたすら物見台のドレイクを見極めようとする者もいる。


「はい! 時間切れです!」


 中央に白い紐がひかれた。

「大体半分だね」

「でも、付き添いも一緒に移動してますからね」

とアデラ。

 あの例の豪華な団体も、ロジオンと同じ判断をしたようだ。

「受ける本人達より、付き添いの数の方が多いんだね……」

 付き添い除いたら、どのくらい残るんだろう。

「ロジオン様……大丈夫ですよね? あってますよね?」

 魔法管轄処の魔法使いが、自信なさげに尋ねる。

 魔法管轄処の四人はとにかく、ロジオンの後ろにくっついてきた感じだ。

「『目利き』したんでしょ?」

「実はあまり視みえなくて……」

うん、と四人は頷く。

「その辺り、上手だよね……流石協会にいるだけあるよ」

と、ロジオンは四人を咎めもせず、壇上にいるドレイクを見つめた。

 それに──ドレイク本人も『目眩まし』を施行しているから余計に視えにくいんだ。

「でも……落ち着いて冷静に見れば分かるよ。一定以上の魔力は必要だけど」

 そう言った。

 ロジオン達が選んだのは『否』──左だ。

(だって……本人はねえ……)

 誰もいない空間を見て思わず目が据わる。


「はい、注目! ──解答です!」

 物見台のドレイクが声を上げた途端──全身黒い出で立ちの彼が陽炎のように揺らぐ。刹那、姿形が変わった。

「俺は補佐の助手です。答えは左!」

 金髪の物腰の柔らかな青年に姿を変えた物見台の彼が、にこやかに挨拶をする。

 わー! と言う歓声と落胆した声に、あり得ないと言う奇声が上がる。

「良かった~! 勘でこっち来たけど当たったよ!」

とか言う魔法使いもいる。

「ドレイク様じゃなかったんだ……」

 ラーレががっかりして肩を落としていて、アデラが苦笑する。


「第二次に通過できなかった者はこのままお帰りください! 通過者はこちらの指示があるまで暫くこのままで!」

 協会の者達が手際よく指示を出していく。

「こんな審査無いだろう! 補佐に一度でも会った者が有利に決まっているじゃないか!」

「そうよ! じゃなきゃうちの王子がこんな所で落ちるわけ無いわ!」

 親子連れでやって来た数組が、協会側に文句を言いつけている。


「王子って……どこの国の王子だろう?」

 ロジオンが首を傾げながら『王子』と呼ばれた幼い少年を凝視する。

「違いますよ。あの親御さんにとっては息子は『王子』なんです」

 アデラが答えた。

「愛称みたいなもんです」

と、ラーレも付け加える。

「……王子と呼びたいのに魔導師にしたいんだ……」

 協会の者達に食って掛かっている親御達を、ロジオンは異生物を観察するように見つめた。

「国に言って訴えてやる!」

 親御達は捨て台詞を吐くと、子供の手を引っ張りながら去っていった。

「国に強制力は無いんですけどね」

「逆(協会)はあるけどね」

 魔法管轄処の魔法使い達も呟く。その辺りの関係は流石に理解しているようでロジオンは安心した。

 これも分からないでいたら、魔法使いの在り方から講習しないといけない。

 流石に宮廷の魔法使いがそれでは大問題だ。


「──まあ、二次通過者は問題ないでしょう」

 抑揚のない声が何も無い空間から聞こえた途端、全身黒ずくめの背の高い男が現れた。

 きゃーっ! とラーレの黄色い声が上がる。

「ドレイク、何で姿を隠して僕の側をウロチョロしてたわけ?」

「貴方に一言、言いたいことがあるから側にいたのですが、他にも第二次審査の救済措置と言う名目もあります」

 そうしていきなり現れたドレイクに驚き注目されている中、気にせず話を重ねる。

「緊張して本来の実力が発揮できなかった者もいるでしょうから、こうして姿を隠して視て回っていたのですが相応なようでした。──勿論、通過した側も相応なのか」

 それを聞いて皆、一斉にギョッとして身を引き締める。

「このくらいなら、どちらも問題ないでしょう」

 そう付け加えて周囲が安堵に肩を揺らしているなか、ドレイクは壇上で自分の『成りすまし』をやった助手を見上げた。

「……しかし、彼はむやみに微笑み過ぎかと思います」

 あんなに私は愛想が良いのでしょうか? とロジオンに尋ねてきたので首を横に振った。

「違うね……」

「やはりそうですか。見ていて自分でも寒気がしましたから」

 ──自分が無愛想で素っ気ないの、知ってるわけか

 

 同意を受けて満足げに頷いているドレイクにロジオンは

「……で、僕に言いたいことって?」

と尋ねた。

「そうですね──」

 そう言った刹那、ゴンッと固い音がしてドレイクの拳骨がロジオンの頭に落とされた。

「い、い、い、い、いた……っ! 何すんだよ!『一言言いたいこと』じゃなくて『一発殴ってやりたい』じゃないか、これじゃあ……!」

 文句を言いながら殴られた場所を押さえて踞るロジオンに、ドレイクは気にすることなく淡々と述べた。

「全く……誰かの召喚詞を自分の物として提出して。もう一つの提出物がなければ不合格でしたよ」

「ばれちゃった?」

「僅かですが気が残っていました。何がばれちゃった、ですか」

「あの一つだけじゃあ不安で……さすがドレイクだね! 完璧に消したと思っていた気を見付けるなんて」

「持ち上げて誤魔化しても無駄です。呆れましたよ」

 珍しくドレイクが肩を揺らし、大きな溜め息を付いた。

「あれは身内ですか?」

「そう、ユリオンだよ。歌うときだけ魔力が生まれるらしい」

「他のご兄弟も可能性はありそうですね」

 ふむ、とドレイクが考え深げに顎を擦った。


「ドレイク!」

 その時、二人の注目の波を掻き分けて来た少女が、顔を紅潮させドレイクに飛び付いてきた。

 小柄な身体がドレイクにぶら下がる形になる。ドレイクの知り合いらしく彼は払うことなく腕で少女の腰を支えた。

「久しぶり! 第二次審査通過したよ!」

「まだ喜ぶのは早いですよ、ゾフィ」

 柔らかそうな白い頬がプッと膨らんだ。

「ドレイクは相変わらずだな」

 そう言ってつまらなそうにドレイクから降りた。

 そうそう、とドレイクが、ゾフィと呼んだ少女の肩に手を当てるとロジオンに向きなおす。

「貴方に紹介しておきたい人がいます。ゾフィ=メイヤーです」

 ──メイヤー

 ロジオンは、こちらをじっと凝視する少女を見据えた。

 まだ十代前半位だろうか。全体にほっそりしていて中性的な体型だ。

 柔らかそうな銀の髪を首元で梳いて流し、ハイネックのアンダーウェアに添うように流れている。

 瞳の色はロジオンと同じブルーグレイで、多少つり目だ。

 瞳が大きく猫目に見えて、例えれば敏捷な小動物だ。

(この子がユージンの……)

 子孫──

 ロジオンの中で、どこかが軽くなった気がした。

 ユージンの残っていた想いが昇華されたのか。

「貴方は?」

 ぼんやりと自分を見つめるロジオンを、胡散臭そうに尋ねてきた。

「そうだね、自己紹介。ロジオン=イェレ=エクロース=エルズバーグです」

と、ゾフィに右手を差し出す。

「お互いに頑張ろうね」

 ゾフィも右手を差し出し握り締めた。

「……ねえ、貴方さっきエルズバーグって言わなかった?」

 ゾフィがはた、と気付きロジオンに問い掛ける。

「うん、そうだよ」

 ゾフィの大きな瞳が、よりいっそう大きく開く。

「ええ! じゃあ、貴方エルズバーグ王家の人?」

 周囲がドレイクから視線がロジオンに移り、ざわつく。

「じゃあ、あのコンラートの弟子かよ」

「『水』の称号の」

「え~! 嘘!」

 何処からともなくそんな声が上がり、ロジオンは一気に居心地の悪さを感じた。

 羨望と憧れと嫉妬と憎悪と──自分に向けられる多種多様な眼差し。

「──のわりには、あまり良い身なりしてないね……」

 大きな声を出して周囲に注目を浴びかせた本人のゾフィは、特に気にする様子もなくあっけらかんと言い放った。

「……良いの、好きでやってるの、注目されたくなかったの」

 ロジオンには珍しい早口でそう答えた。


「そろそろ第三考査を始めますので」

 ドレイクは物見台にいる助手達の手招きにそう告げると、人の波を掻き分けて離れていった。

 話す機会を見逃したラーレが、悔しそうに肩をいからせていたのは言うまでもない。

 

 ロジオンは、自分の周囲の雰囲気が微妙な空気に包まれたのに、そっと溜め息を付いた。

 ──『水』の称号のコンラートの愛弟子

 ──エルズバーグ王子・ロジオン

 この二つの肩書きが、周囲を緊張に走らせてる。

 エマやアデラは気付いて、さりげなくロジオンの側に来て周囲に目を光らせていた。

「ごめんね……あたし、つい大きい声で。ビックリしちゃったもんだから」

 流石に周囲の雰囲気が伝わったのか、ゾフィがシュンとした様子でロジオンに謝ってきた。

 彼女もエルズバーグ王家と言うだけでなく、他の付加要素も知っているのだろう。

 謝って頭を下げる辺り、素直な正確なのだとロジオンは思った。

「良いよ、あのドレイクが側にいるだけでも注目を浴びていたんだし──遅かれ早かれ周囲は気付いていたよ」

 ロジオンが逆に慰めるようにそうゾフィに言うと、彼女はホッとした様子で笑った。

(ユリオンに似てる……雰囲気が)

 こちらは女だと思うだけで可愛い。



「注目!」

 物見台の助手が声を張り上げた。



 第三次考査が始まる──







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