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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
31/49

(1)第一次考査

久々投稿。

「ロジオン様、あれ……」

 ロジオンの部屋に入ってきたコウモリを、アデラは訝かるように指差す。

 それはそうだ。こんな真っ昼間に飛んでくるコウモリなんて。

 しかもこのコウモリ、どこかおかしい。

 目を凝らしてようく見れば、飛膜に付いている腕の部分が無い。折り紙で作られた偽造品のように見える。

「──あっ!」

 ロジオンは短く声を上げ、コウモリに向かって手を差し伸べる。すると、大きく旋回してロジオンに向かってきた。「捕まえて」と言うように、ロジオンの前で翼を羽ばたかせて止まる。

 ロジオンがコウモリの翼を摘まむと刹那、コウモリは姿を変えた──一枚の葉書に。

「ドレイク……魔導術統率協会からだよ」

「使い魔でしたか」

「いや……『式神』の応用番だね」

 そう言いながらロジオンは、葉書に書かれた内容を読む。たちまち血色が良くなった。

「よし! 一次考査合格!」

 珍しく少年らしいガッツポーズを見せた。

「おめでとうございます、ロジオン様」

「一次考査が通れば……後はちょろいちょろい」

 鼻唄混じりに葉書の内容の続きを読んでいるロジオンの鼻唄が止まった。

「ん?」

と、目を瞬かせる。

「何が書いてあるんです?」

 アデラが横から顔を覗かせる。

「第二次考査の持ち物の中に『食料や寝袋など、野営の準備』って書いてある……。いつもは協会に寝泊まりするんだけどな……」

「それだけ、一次考査を通過した者が多いのでしょうか?」

 う~ん、とロジオンは唸りながら

「考査のやり方を変えると言っていたから、その一貫かも知れないな……」

と、葉書を見つめた。

「ドレイクだからな~。どんな意図があるやら……」

「考査は5日後ですね。充分準備をする時間はありますからお手伝いしますよ」

「まあ……取り合えず、魔法管轄処の皆にも葉書が届いたか聞いてみよう。何人かレポートを提出した者がいるから」




**

 管轄処から提出した魔法使いは十人。一次考査を通過できたのはロジオンを入れて五人だった。

「私達は駄目でした~。考査って一人単位で見るから、一人で二人の私達は毎回落ちるんですよ」

「「ね」」

 キアラとソアラは、唇を尖らせながら肩を竦めた。

「今年から考査内容が変わるみたいですから、気を引き締めないといけませんね」

 一次考査を通過した魔法使いが、自分に言い聞かせるように呟く。

 ロジオンが、葉書を片手にかざしてヒラヒラさせる。

「内容は皆一緒?」

「野営の準備のことですよね」

「やだなー。もしかして、しばらくお風呂に入れないってこと?」

 通過したけど辞退しようかな、とぼやいた女魔法使いは落ちた皆から一斉に避難の視線を浴びて、身を縮めた。

「今までなら、一次通過したら魔承師と補佐の前で実演して、それで判断していたんだよね……」

「余程酷くなければ認定貰えてたんですよ」

 ロジオンは執務室の椅子に寄り掛かり、葉書を見つめていたが諦めたように卓上に置くと、背もたれから体を起こす。

「シミュレーションするのかも……」

「シミュレーション? 何のです?」

「戦の……」

「えっ?」

 勿論、魔法管轄処の者達だ。年に何回かの王国軍の合同演習に参加している。何パターンかに分かれた演習も皆心得たものだが──。

「魔法の使い手同士で戦って……したことない……」

 不安そうに女魔法使いが口を開く。

「一対一で勝負をしたことはないの?」

 はい、とロジオン以外の一次考査通過者達が頷いた。

「そう言うのって、魔導師になってからだと思っていました」

「うにゅ」

 ロジオンが短い奇妙な声を上げ項垂れた。

「まあ……合同演習の経験はあるから、大体雰囲気は掴んでるよね……?」

「大体は」

 

 気を取り直したロジオンは、残り五日間の間で対魔法の使い手の実演をすると決めた。

 実際は行ってみないと内容は分からないが、今までにやったことがないと言うなら経験して貰った方が良いと考えたのだ。

「一対一から始まって二対二、三対三……とやっていきます」

「通過できたのは五人だから、三対三は無理ですよ」

「別に通過者限定でやることはないよ……魔法管轄処内全員でやっていく」

 それから、とロジオンは言葉を続けた。

「一対二、一対三 ……とまあ、一人で数人パターンもやっていくつもり。それに加えて後衛演習もね」

 魔法の使い手に求めるのは、前衛よりも後衛支援が多い。

 敵味方入り乱れた戦では、より的確に味方に支援できるか──それで勝敗が分かれることが多々あるのだ。

「でも……考査前に怪我は支度ありません……」

「大丈夫! 治癒師はいるから!」

 渋る一次考査通過者達にロジオンはにこやかに答えた。



「……何かなあ……以前の体勢が身に付いちゃってるなあ……」

「すいません……」

 書類を両手にハインが申し訳なさそうに頭をもたげた。

「十人中五人って結構良い通過率なんだよね。今までなら通過時点で魔導師に認定されたもんだったんだよ。でも……今回は第一次、大分甘くしているんじゃないかと思う」

「と、言うことは……第二次考査で……?」

「かなりの数が振り落とされる……かな」

 ハインの言葉にロジオンは憂鬱そうに答えた。

「僕の読みが当たってなくて、皆実力相応だから通過出来たと思いたいね」

 早速だけど午後から演習始めるから、とハインに告げた。


 ──それから夕方、ロジオンの予想が当たりそうなことが起きた。




**

「協会からの派遣者交代?」

「ああ。明日には協会に戻る」

 ラーレの手からスープが皿に注がれる。

 カボチャの甘い匂いが鼻腔を刺激したせいか、ロジオンの腹が空腹を知らせた。

 小食堂室──王室関係の小さな飲食会や茶会を開く時に使用する部屋に、ロジオンとルーカス、それにゲオルグにハインが揃って一つのテーブルについていた。

「ハイン、そっちにあるジャガイモと人参寄越して。豆はいらない」

「良い歳して好き嫌いはやめてくださいよ」

 テーブルの真ん中に置かれたミートローフの付け合わせをルーカスから所望され、ハインがぶつくさ言いながら取り分ける。

 豆が入ったのが気に入らなかったのかルーカスは

「小さい頃、散々食べたから良いんだ」

と自分の皿からロジオンの皿に豆を移した。

 ロジオンはルーカスの行動を気にする様子もなく、ゲオルグと話し込んでいた。

「それは考査の準備ってこと?」

「だろうな」

 まあ、交代で来る奴等もそこそこの腕前だぞ、とゲオルグは葡萄酒を口にしながら答えた。

 ルーカスとゲオルグが来てからは、こうして四人でよく夕食を共にしていた。

 意見交換しながらの食事会と言う名目だが、実際は気がねなく飯を食べたいだけだ。

 仕官らと食べる食堂だとワラワラと仕官達が取り囲み、ゆっくり食べれたものじゃない。

 ロジオンの家族と混じって食べると作法だ何だと食べた気がしない。

『何で一気に飯が来ないんだ、面倒くせえ』

とゲオルグが怒ったので、このような食事方法を取ることになったわけだった。

 ロジオンにとってもこの方が気が楽だから、にべもなく承諾した。

「どんな考査方法になるかとかは……」

「そんなの戻らなきゃ分からねえよ。つーか、知っていたって教えねえよ」

 そっけなく言い返され、そうだよねとロジオンは諦めてスープをすする。

「あのゲオルグ様、交代で来る魔導師様の中にはドレイク様は入っていますか?」

 ラーレが次にパンを配りながら期待に頬を染める。

「「「「入ってるわけないでしょ」」」」

 テーブルを囲む男衆四人に即答され、彼女の頬が今度は膨らんだ。

 ロジオンはパンを口に頬張りながら思う。

『地』の称号持ちのルーカスと『目利き』のゲオルグが協会に戻される。

 ルーカスの『地』は奇襲戦法ではかなり有利に働く。

 ゲオルグは魔承師やドレイクの助手役に側につくかもしれない。

 頭を巡らす。

「ロジオン。お前、一次考査通過した魔法管轄処の魔法使いと、今日から予行演習始めたんだって?」

 ゲオルグの問いにロジオンは頷いた。

「お人好しだな。好きにさせておけば良い、自分だって考査の支度で手一杯だろう」

「そう言うわけにはいかないよ。一人でも多くの魔導師は欲しいし。管轄内の中で認定された者が誕生すれば勧誘もその分楽だし。それに今日からやっていることは、これからも必要なことだと思うよ」

「良い奴だなあ、お前!」

 また頭をグリグリと撫で回されそうになったのでかわす。パンくずが付いた手で頭を撫で回されたくない。

「──あ! ロジオン、それ僕のムース」

 ルーカスの横に置いてあったデザートを食べ始めたロジオンに、ルーカスが物言いを付けてきた。

「豆……引き受けたでしょ」

「デザートは食後に決まってるのに、どうして途中で食べるんだ」

「良いじゃない……別に」

「良くないよ、僕のだし! それに血糖値がぐんと上がるよ」

「血糖値が上がっても、困る病気持ってないよ……」

「うるせえな、静かに食えよ!」

「もう、ルーカスさんは食事に煩すぎです」

「悪いのはロジオンじゃないか、人の取って! 僕は甘い物を食べないと落ち着かないんだ!」

「おかわりあるよ」

「それが良かったのに!」

「他のと、どう違うんですか?」

「一番量が多かったんだ!」

「うるせえ!甘党!」

「……ルーカス、血糖値やばいんじゃない?」


「食事中はお静かに!」

 アデラの険のある一言でようやく静かになった。




**

 次の日、交代の魔導師がやって来たのでルーカスもゲオルグも帰っていった。

 ロジオン含む魔法管轄処の魔法の使い手達は、考査に行く五人を中心に演習を行い続けていった。


 そして魔導師認定考査前日──。


「ロジオン様あ~、お願いします! 私も連れて行って下さいよ~」

「駄目。必要人数以外は増やさない」

「そんなこと言わないで~。絶対お役に立ちますから!」

「駄目ったら駄目」

 頭陀袋に荷物を入れているロジオンの横で、ラーレが必死に同行を求めていた。

 腰を屈めて両手を合わせ、必死モード全開だ。

「……酷い! お姉ちゃんは連れていくんでしょ! 職権乱用です!」

「アデラは……元から僕の護衛でしょう?」

 ──あ、そうでした、と改めてラーレは気付き

「じゃあ、やっぱり身の回りをお世話する人は必要ですよ。──ねっ?」

と、目をパチパチと瞬かせながらロジオンに詰め寄っていく。

 ロジオンも控えていたアデラも、その必死さに呆れ笑いをした。

 ラーレがこんなにまで頼み込む理由は分かっている。

「一緒に付いてきたって、ドレイクにはお目通りは出来ないよ」

 目的がただ漏れだったのかとラーレはうっ、と言葉を詰まらせた。

「遠くから見るだけでも良いんです! 決して迷惑をお掛けしませんから~!」

 今度は半泣きで頼み込んでくるラーレに、アデラは流石に

「ラーレ、遊びに行くのではないんだ。自粛しなさい」

と厳しい口調でたしなめる


「そりゃあお姉ちゃんは良いわよ、行けるから。あ~あ……護衛だったらイチャイチャ出来るから良いよね~」

「──な、な、なんで! 関係ないでしょ! しないわよ! そんなこと!」

 顔を真っ赤にして言い返すアデラに、ラーレはぶすりとした表情を向けた。

「そうだよラーレ、しないよ。……お預け中だもん」

 弁明したロジオンの口調が寂しい。

「お姉ちゃんは厳しいですからね……。人にも自分にも」

 ラーレが沁々と同意する。

「そ、そ、そ、それは……ロジオン様! 余計なことはおっしゃらないでください!」


 恥ずかしさに全身真っ赤になって息切れしながら話すアデラを尻目に、ラーレはしつこくロジオンに頼み込む。

「ロジオン様~お願いします! ロジオン様やドレイク様の邪魔はしません。アサシンの名に懸けて御約束致します!」

 はあ……とロジオンが溜息をつく。

 諦めたように肩を竦めると

「……分かった。良いよ。でも向こうでは、僕の命や協会の指示にはちゃんと従って」

 ラーレの顔が瞬時に明るくなる。

「ありがとうございます、ロジオン様! 」

「その侍女の格好じゃなくて仕官服で行くからね。ラーレもアデラと同じように野営の準備を」

「はい! 任せて下さい! 得意ですよ、サバイバル!」

 きゃーっ! と黄色い声を出しながら駆け足で部屋を出ていった、ラーレの後ろ姿をアデラは溜息混じりに見送った。

「すいません……。妹の我が儘に無理を聞いてもらって……」

 アデラが申し訳なさそうに頭を下げる。

「良いよ。ドレイクに相手にされないと分かれば諦めるでしょう。ドレイクの性格知れば……熱が冷めるかも知れないし」

「……何か問題がある性格なんですか?」

 話した感じ冷たい印象はありましたけど、とアデラは首を傾げた。

「大いにね。ラーレにはきついよ。第一、女性に興味がないし」

「──同性にご興味がある方だったんですか?」

 驚くアデラを見て、ロジオンは笑いながら首を振った。

 そしてひとしきり笑うと

「竜だからね……。純血だし、繁殖期に入った時しか情が湧かないんだ」

と説明した。

「そうなんですか」

 

 繁殖期って──やはり獣なんだな、と思いつつ同種が見付かりにくいだろうにどうしているんだろう、アデラはそこを考えると彼が哀れに思えた。





**

 次の朝早く、ロジオンは家族と魔法管轄処の皆に見送られ、宮廷を出発した。

「お兄様、頑張って下さいね!」

「勧誘も忘れるなよ!」

「旅たつ兄上に唄を──」

 ユリオンが竪琴を片手に歌い出そうとした所を、ロジオンは慌てて止めた。


「魔導師になれなくてもちゃんと戻ってくるのですよ~!」

 ロジオンの母であるオルヒデーヤの一言に

(初っ端からへこむことを)


 ──ロジオン含む一次考査通過した五人は、朝から落ち込んだ気分で協会に向かった。




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