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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
王子達は本音を隠して華麗に踊る
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(17)魔声

新しい年が明けました。

朝から花火が放たれるなか、メインバルコニーで国民達に笑顔で応えます。


「今年の王室の方々は何やら眩しいな」

「後光かしら?」

「輝いているわよね。光の反射?」


 バルコニーで手を振るご一行様、キラキラと輝いている。

 眩しいやら珍しいやら──新しい年に、目新しい現象を目の当たりにした国民達は『縁起が良い』とご満悦であった。





**

「綺麗でした! ロジオン兄様、またやって下さいね!」

 イレインとアラベラ、そして珍しくリーリアまでキャアキャアと喜ぶ。

 ユリオンは

「今度、僕の詩に合わせてやってください!」

と瞳をキラキラさせながら詰めより、ロジオンに

「……お前の場合、無くても大丈夫──てか、余計うざい」

と却下された。


「でも、たまにはこんな余興も良いわね。ロジオン、楽しかったわ」

 優雅に羽根付きの扇を揺らしながら、第一王妃が声を掛けてきた。

 大柄な身体に添うように作られた扇は、ロジオンの母・大二王妃が持つ扇より二回りは大きく、豪華である。

「ありがとうございます。お寒くはありませんでしたか?」

「丁度良かったわよ。毛皮のマントがいつも暑くて敵わなかったから助かったわあ」

 ロジオンの言葉にほほほ、と楽しげに笑った。

「また今度の春の復活祭もやるかね」

 父陛下も顎髭を擦りながら、次の催しの話を始めた。

「……あまりやると、ありがたみが無くなるので……」

 苦笑いで断るロジオンだ。


「ロジオン、この魔法を協会に提出をするのか?」

 アリオンの問いかけにロジオンは「まさか」と口を開いた。

「これは師匠がよくやっていたのを真似ただけなので……他のを出すつもりです」

「そうだよな。女性に受けは良いが、よく考えればくだらないし」


 ──その通りです。兄上。


 ロジオンは頷く。

 師匠が『美顔効果』と名付けたこの魔法。

 身体、特に顔を中心に水蒸気を凍らせて輝かせ、美顔効果を期待するものである。


 コンラートは新しい魔法を創るのに情熱を燃やす人であったが、それ以上に異性にモテることに情熱をかけた人であった。


「協会に提出する魔法と言っても、基盤はありますからね……まるっきりオリジナルティが無くったって良いんですって……。提出された書類を見て、ちゃんと自分で考えて理論を書いているかどうか……を見るらしいんです」

「そう言うものなのか」

 ルーカスの話によると──だけど。

 あまりにも質が落ちて、魔導師認定考査を取り止めて三年。

 その三年ぶりに行われる認定考査は、今までと趣向を変えたものになる──と情報が入ってきていた。

(今までの考えで書類が通るかだなあ……)

 つらつら考えていたら、ディリオンやアリオンの娘達に『美顔効果』を持続させて欲しいと群がれていたロジオンだった。




**

 舞踏会後半戦──。

 社交界デビューの時の緊張はない。

 年明けの二日に行われる舞踏会は、招待客限定ではなく、チェックが通れば誰でも参加が可能なのだ。

 と言っても、一定の条件と服装の規定はあるし、民が立ち入りが出来ない部屋や会場もある。

 ただし、逆に王室の者や特権階級者はどこでも出入り自由である。


 解放された中庭に詩が響く。

 ロジオンはその声が自分の耳に届くや否や驚き、その場所に出向いた。

 女性達に囲まれ、竪琴を奏でる。

 その洗練された音は濁りもなく、ただ透き通り、空を巡る。

 音と合わせたような澄んだ歌声はそこにいる──人だけでなく全てを魅了していた。


 そこに寄り添って詩をきいている二人。エアロンとシュティルゼーナがいた。

 今日、初夏に華燭の典を上げることを発表し、両国の王を安堵させたばかりの二人は、お互いに穏やかな笑みを浮かべ、今の幸せを噛み締めているように見えた。


「ロジオン」

 ふと目が合い、エアロンが声を掛けてきた。

「僕のことはどうぞ構わずに……」

 二人の世界に浸っているところを邪魔したくない。

 ついこの前だって『ロジオンが背中を押してくれたお陰だ』と、大袈裟に誇張した話を陛下・殿下にし、何度も礼を言われたばかりだ。

「良いんだよ、君も隣へ」

「ええ、一緒に聴きましょう」

 二人揃って勧められてしまい断れなくなってしまった。仕方無く、エアロンの近くで聴く。

「ユリオン様のお声は相変わらず綺麗だわ。何度聴いても心が震えます」

 ほう……とシュティルゼーナが、頬を染めながら感嘆の息をつく。

「本当だね。エリオン兄様も上手だったけど、ユリオンの歌声は芸術だと思うよ──ロジオンは初めて聴いたんじゃないかな?」

「はい……」

「素晴らしいでしょう? まさしく天から貰った声だと思うの」

「そうですね」

 シュティルゼーナの言葉に頷いて見せたロジオンだったが──。


(天からの声じゃなくて魔声だよ)


 ユリオンには魔力は無いと思っていた。

 ──いや、無いはず。


(でも……こんな条件下の元で魔力が生まれるなんてこと……あるんだ)

 誘われて異世界から羽付きの小人や、正体不明な触手が出てきてる。

 魔力が微量なせいなのか、透明で『視る』力が強くないと見えないけど。

 これで強い魔力が出て春の詩でも歌ったら、生態系に影響が出そうだ。


 ふーん……。


 何やら思い付いて、口角を上げるロジオンだった。



「僕の詩でもう詠ってない詩? 沢山ありますよ。詩だけ創ってそのままのもあるし」

「見せて貰えるかい?」

 勿論!──ユリオンは無邪気に本棚から分厚い詩集を次から次へとロジオンの前に積んでいく。

 その十数冊。

 一冊一冊が、辞典並みの厚みだ。

「……よくこれだけ書きためたね……」

 弟の、のめり込み方につい感心してしまう。

「でも、あまり出来の良くない物とか、のらなくて途中で止めちゃった詩とかも沢山あるんです──これなんか、僕自身、傑作だと思ってるんですけど……」

「──あ、いや良いんだ」

 ペラペラと捲り、得意気に披露しようとするユリオンの手を止める。

「えっ? でも読むんなら、傑作読んで貰いたいもん」

 口を尖らせたユリオンにロジオンは気にせず、一枚一枚捲りながら

「僕はどうも情緒とか足りないからね……お前のを読んで勉強しようかと」

と、話した。

「だったら傑作から読んでよ」

「ユリオンとの感性が違うから……僕が読んで良いなあと思うのが、あるかも知れないよ?」


 あ、そうかも──と単純に納得してしまったユリオンから、詩集を何冊か借りたロジオンだった。



(詩人な弟がいて良かった)


と足取り軽く自室に戻っていった。



次回で二章が終わりです。

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