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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
王子達は本音を隠して華麗に踊る
24/49

(12)貴方と同じ

 微かに舞踏曲が聞こえる。

 時々意識が浮上して、周囲を見回す。

 人の気配にそちらを向くとゲオルグが、何かを語りかけてくる。

 その度に水差しで飲ましてくれて、氷嚢と着替えを変えてくれた。

 意外と面倒見の良い人だと気付く。


 熱が高くだるい。そして眠い。

 それ以外、何の特徴の見られない『魔コウ熱』

 もう、確固たる特徴が出てきたって早くない──いや、遅い。



 分かってる


 分カッテル──頭に響く声。


 古の時代は『魔コウ熱』は無かった。

 これは、古の血と混じった転移した人の血が、拒絶しあう時に起きる。

 何処かで譲り、混じり、その時に抜き出る能力が魔法の使い手達の特徴となる。


 僕は?


 僕は何故、何も出てこない。


 分カッテル

 分カッテルダロ?


 何も出てこないのは


 抜キ出タ

 確固タル能力ガ


 無いからだ。


 ──無インジャナイ

 万能ダカラ


 ソウジャナケレバ

 マルティンノ魂ヲ、受ケ継イダトハ言エナイ


 あの人は、古に


 世界ノ意志


 と言われた人だから──




 教えて欲しい


 前ニ教エタ


 彼ノ意志 思イ 想イ 生キ様 色々ナ事


 それは良い 分かった


 僕が知りたいのは


 僕の中のマルティンが 蘇ったら


 ──僕は何処へいくのか──



 蘇ルノハ


 魔法ダケダ




 ──嘘だ




「僕なのに……何故……嘘を付く」




 寝台が沈む。

 誰か、来た。


 意識がまた浮上する。

 枕元に座る影に、ロジオンは目を向けた。

 既に日が落ち、寝台を囲む垂れ幕も更に闇を作る。


 影が動き、ロジオンの湿った髪に触れた。

 その手は女の手だ。

 手の形、身体の線、流れる髪──ロジオンがよく知る人だ。


 ──でも、知らない人だ。


「……誰だ?」

 ロジオンの、髪に触れている手が離れた。

「怯えなくて良い……私は貴方に危害は加えない」

 ──分かってる。

 髪を撫でる手は、至極優しかった。

 でも、酷く異質に感じた。


「彼女から……離れろ……」

 ロジオンの言葉に首を振る。


「私は──ロジオン。貴方と同じ。貴方の中の意志と、同じ志を持つ」

「……だから、誰?」



「ジーア」




「──ロジオン!!」

 荒々しく扉が開いてゲオルグが入ってきた。

 同時──パタリ、と女はロジオンの寝台に身体ごと倒れた。

「誰かいるのか!!」

 ゲオルグが寝台の幕を開ける。


 怪訝な表情をし、倒れている女を見て、それからだるい身体を起こして座るロジオンに視線を移した。

「……俺の目を盗んで、いつの間に忍び込んできたんだ? アデラ嬢は?」

「……ゲオルグが寝てたんじゃない?」

「寝てはいないぞ。確かにラバトリーに行っていたが」

「じゃあ、その時でしょ」

「その時入ってきたとして、今まで気配を消していたのか……?」

「彼女の本職に必須だから……」


 ゲオルグの言い分にロジオンが応答するも、ゲオルグは勿論納得出来ていないし、ロジオンも気難しく眉を寄せていた。


「取り合えず、起こしてみるか」

 ゲオルグがペチペチとアデラの頭を叩く。

 う……ん、と何とも艶かしい声を出したが、起きる気配がない。

「……酒くさい」

 ロジオンが呟き、ゲオルグが近付いて鼻をひくつかせる。

「泥酔して、間違えてお前の寝室に?」

「……」

「……間違えてこっちに来るほど、親密な関係なわけか」


 ニヤつくゲオルグに、ロジオンは否定する気力が出なかった。

 まだ高熱は続いていて、体力はない。

 それに、先程のアデラの様子をどう説明したら良いのか、ロジオンにも分かりかねない。

「好きにとって……」

 ロジオンは気だるそうに言った。

「アデラ嬢を部屋まで連れてくか──寄宿舎で良いのか?」

「医務室でも良いんじゃない……? この分だと明日……二日酔いになってそうだし」

「近いし、そうするか」

 よっこらせ、とゲオルグはアデラをおぶる。

「寝てろよ」ロジオンにそう告げて寝室から出ていった。



「ジーア……」

 名前だろうか? 呼称のように聞こえた。

 ロジオンは再び寝台に横たわり、瞳を閉じる。

 イゾルテ様に聞けば何か分かるかも知れない。

 トクントクンと胸が波打ち出す。

「……名前出したからって、ときめくの止めてよ。具合悪いんだから……」

 自分の中にいる過去の自分。

 普段は呼んでも出てこないし、答えてもくれないくせに。

 イゾルテの名を出した途端こうだ。


 自分自身にも分からない秘密を抱えているのに、アデラにも何か謎を持っている。


「……面倒だな……」


 ロジオンはうっすらと瞳を開け、天蓋があるはずの闇を見て、また瞳を閉じた。




ラバトリー:トイレ

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