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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
王子達は本音を隠して華麗に踊る
22/49

(10)僕とダンスを

 舞踏会会場のロジオンの控え室。

 詳しく言えばユリオンと共同利用だが、彼は舞踏会会場に出っぱなしのようだ。


 あの求婚を最後まで見守って、もうさすがにお邪魔虫だと感じた二人は、ソロソロと屈んだ体勢で後退。近くの方陣で移動したのだった。

「う、さむ……冷えたかな」

 ロジオンは、燃える暖炉の側で身体を暖める。

 かくゆうアデラは、ボーッと夢心地の中にいるようだ。常緑色の瞳が、魔法を使わずともキラキラしている。

 はあ、と感嘆の息を吐くと両手を前で合わせた。

「素敵でした! エアロン様! まるで観劇を観ているようでした! 物語の中だけの話ではないのですね!」

 顔を上気させてキャイキャイと黄色い声を出すアデラを、しらっとロジオンは暖炉に手をかざしながら見ていた。

「感激しましたよねー! ロジオン様! ようやくエアロン様の想いが通じたんですから! ああ、でもあんな熱い想いを幼少の頃からお持ちだったなんて!」

 これはラーレやベルにも話さなきゃ!

 興奮冷めないアデラだったが、ロジオンが結構冷めた様子に気付き

「嬉しくないのですか! ご兄弟の恋愛が成就した現場に居合わせたと言うのに?」

 少々憤慨気味で問いかけた。


「嬉しいよ、そりゃあ。……でも、身内なだけに見ていてこそばゆいと言うか……ムズムズしたと言うか……つーか代弁したら半端無いムズムズ」

むず痒そうに身体を動かすロジオンにそんなものですか?と、アデラ。最後に呟いた内容はよく理解できなかったが。

「アデラだって、ラーレの告白される場面とかさ……逆でも良いけど、熱いとこ見たらどうよ?」

「ラーレですか? あの子、結構モテますから、あまり──と言うか『今度こそ長続きしますように』と心配になります」

「へえ……モテるんだ。そんな感じはするね……」

 サラリと返してきたロジオンにアデラは

「ラーレのこと、お気になさらないのですか?」

と近付く。

 普段の様子からして、ラーレは彼のお気に入りだと分かる。

 だから、淡白な反応に無理しているのかとアデラは思ったのだ。

「ラーレは優秀だと思ってる……。侍女としての仕事だけじゃなく、それ以外もやってくれるし……ただ──」

「ただ?」

「やり過ぎ……と言うか、首を突っ込みすぎる……時々周囲が制してやらないと……危ないね」


 そんな感じはするけれど──アデラも思っていたことを指摘された。

 男女問わず、冷静にその人を判断する方だ──アデラは内心嬉しかった。

 ちょっとヤッカミもあったから。



「それより……僕は、君の方がお気になります」

 ちらりとブルーグレイの瞳を向けた主人に、アデラの胸が一気に高まった。




 ──ま、まずい!

 退院して復帰してから、ようやく『真面目でお姉さんな仕官』の評価の自分を取り戻せた、と思ったのに。

 ロジオンの悪戯な口説き文句も流せるようになってきて、心落ち着いた護衛生活。

 とにかく主人を敵から身をていし、守らなくてはならない。

 主人の誘惑に心乱れているわけにはいかない。

 ゾウルの件で重々反省したじゃないか! 自分は切り替えが悪い。──だから、仕事中は気持ちを塞いでいた。


(まずいわ! エアロン様の求婚見て、外れちゃったんだー!)


 ずいっ、と近付いてきたロジオンに、アデラはおたつきながら

「ずっと寒い外にいらっしゃいましたから、今、温かいお飲み物でもお持ち致します!」

と、言いながら下がる。

「飲み物は……」

 ロジオンが指差した卓上には様々な飲み物が置かれており、その中には酒類もあった。

「これで温まるから平気」

「お酒よりミルクとか、蜂蜜と檸檬の入った物とかの方が!」

 アデラは真顔でズンズン迫ってくるロジオンに、そう捲し立てると扉の取っ手に手を掛けた。──が、開かない。

「──えっ? 鍵?」

「魔法で施錠してるから……開かないよ」

「な! 何故こんなことを?!」

「だって……この部屋ユリオンと共同だし。邪魔されたくないんだよね……」

 ニコッと、無邪気な笑いを見せるロジオンだが、アデラには大いに油断できない笑顔である。


「第一反則技だよ……? アデラの仕官服」

 へっ?──アデラは自分の服装を見る。

 今夜は華やかな席な為、宮廷内の女仕官は皆下はタイトかフレアなスカートだった。

 アデラは膝下タイト。ただし、動きやすさ重視のため、長めにスリットが入っている。

「惜しげもなくおみ足を見せてくれちゃって……」

「そ、そ、そんなつもりでは……」

 だって、タイト選んだ人はこのくらいのスリットは皆、入れているし。フレアだと足上げた時丸見えだ。

 はっと気付いた。

(フレア選んで、にスパッツ履けば良かったんだー!)


 半数以上がフレアな理由を、今頃思い付いたアデラだった。




 扉に張り付くアデラにロジオンはズンズン近付いていく。

 こんな急に 突然

(こ、心構えが……!)

 

 アデラの前で立ち止まったロジオンは

 すっ……と、右手を差し出した。

「僕と踊っていただけますか? アデラ」

 口を開けてポカンとしているアデラに

「ここまで曲は聞こえてる……。この部屋なら……アデラと踊っても誰にも文句は言われないでしょ」

と、ロジオンは小首を傾げた。


 ──一気に身体の緊張が解けた。

「なら、別に扉の鍵を閉めなくても……」

 不満そうな口調のアデラに

「ユリオンが来るかも知れないじゃない……邪魔されたくないし。──それに……エアロンの兄上との練習では、ちっともアデラと踊れなかったし」

 そう言うと、差し出している手をくい、と軽く上げて促す。

 ちょっと拗ねたような表情に変わっている主人に、アデラは含み笑いをする。

 そうして

「喜んで」

と、ロジオンの手を取った。




 曲は舞踏会が佳境に入っているせいか、しっとりとした落ち着いた曲が流れていた。

 こう言う曲が流れれば、踊っている者達は今までより密着気味になる。

 ロジオンとアデラもそうだが、アデラは若干腰が引けて、猫背気味でいた。

「……落ち着かないよ。練習の時はちゃんとやっていたじゃない」

 エアロンの時は出来て、僕の時は出来ないの? ──不満そうに声音を低くしたロジオンにアデラは「すいません」と姿勢を正した。

 その様子をロジオンは可笑しそうに見つめる。


「何もしないよ……今日はね」

 意味ありげな台詞をアデラに投げ、顔を真っ赤にした彼女を見てクスクスとロジオンは笑う。



 密着したダンスに馴れて、二人静かに曲に合わせて踊り続けた。

「今日はお疲れさまでした、ロジオン様」

「お互いにね……。後は年始の舞踏会に一日出て、他の日にちは適当に出席すれば良いから……」

「前半戦、終了──ですね」

「うん。半分気楽になった」

 嬉しそうに微笑むロジオンに、アデラはつられて微笑んだ。

「一緒にデビューしたお嬢様方に、気になったお方はいましたか?」

(意地悪な質問だな─)

 言って見て気付いた。他意無くした問い掛けだが、今夜踊った女性達に嫉妬して聞いているかのようだ。口に出して後悔したが、ロジオンの方も他意無く答える。

「いたよ」

「……どんなお方です?」

 自然、アデラの声が小さくなった。聞かなきゃ良かったと。

 んー、と、ロジオンは視線をそっぽに向けて話し出す。

「招待客含めて五人程……魔力を持ってる人がいたね」

「……魔力?」

 そう、とロジオン。

「魔法を扱う者かどうか……分からないけど。招待客じゃなくて……侵入者じゃないことを祈るよ」

 ──まあ、怪しいのは目利きの良いゲオルグが捕らえてると思うけど。

 そうぼやくロジオンに「そうですね」と返事を返したが、気に入ったとかでは無いことに、ちょっぴり安心したアデラだった。




 次の日──

 ロジオンが寝込んでしまった。



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