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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
王子は宮廷筆頭魔法使い
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(9)あなたは誰?

輝く金の髪に、輝くような金麦の肌──。


 貴女、誰?

 私の問いに振り向く。


 ……私?


 私より年上で私より綺麗。

 でも私に似ている。

 その人は私に触れて微笑む。


“ダメ。ヨウヤク希望ガ叶ウノ”

 えっ? 希望?

“アノ人ノ元ヲ離レテハイケナイ”

 あの人?

“触レテ感ジテ私二渡シテ”

 何を?

“私ノ願イハ、人々ノ願イ”

 願い?

“イル、ヲ──”


 無限ノ魔法ヲ(イル・マギア)──



 ──ああ、溶けていく。


 貴女は誰──





 眩しい。

 重たい瞼を懸命に開け、目の前にいる女性と見つめ合う。

「ラー……レ……」

「お姉ちゃん……気分はどう? どこか痛む所、ある?」

 アデラがゆっくりと首を横に振ると、ラーレは自分の目元に溜まった滴を指で払いながら

「先生を呼んでくるね」

と出ていった。


 外でワー!! と大歓声が沸き上がり、アデラは不思議に思いながらも、まだ重たい瞼を閉じる。


 ──あれは、誰だったんだろう?

 夢なのに、現実に感じた。

 生々しい感覚。

 そっと胸に手を当てる。

 

 ──私の中にいる……?


 ロジオン様と同じ──自分の中の誰か―……。


 まさかね、アデラは突拍子もない自分の考えに口角を上げた。





 ロジオンは、外でアデラの意識の回復を聞いた。

 盛り上がる魔法管轄処の者達に『午後から仕事』と伝え、解散させ、一人向かった場所──。


 離れ屋──


 施錠を外し中へ入ると、温室の硝子から朝日がいっぱいに部屋に差し込んでいた。

 粗末な白い四角いテーブル。

 壁際にぴったり付けた作業机。

 薬棚に本棚。

 ロジオンは一つ一つゆっくりと愛しげに撫でながら、最後に一番馴染んでいる長椅子に座った。


 目を閉じるとまだ、鮮明に思い起こせることが出来る記憶。


 師匠──コンラートとの日々。


 昨夜の出来事と記憶が重なる。


 大切な人

 助けたかった。

 助けられなかった。

 思い──。


「……良かった……」


 漏らした言葉が我慢できず震える。

 我慢することもない。

 だから、ここへ来たんだから。


「助け……られた……今度は……。良かった……僕でも救ることが出来た……」


 前に屈み、両手で顔を覆った。

 

 死して救えたが、死んで欲しくなかった。

 物心が付く前からずっと自分の側にいて

 親より兄弟より近しい人だった。

 思い出すたびに自分は無力だと、うな垂れる。

 魔法なんて使えても、何の役に立つと言うんだろう?


 それでも、それしか出来ない自分。

 

 魔法があったから、彼女を見つけることが出来た。

 生きる手助けが出来た。


 自分はこの世界で生きていけるだろうか?

 生きていける きっと──。


 どんなに罪を被ろうと

 どんなに血塗られた道になろうと


 愛しい人を救えた喜びを知ったから。



 漏れる掠れた嗚咽を、硝子越しの光が、優しく受け止めていた。






**

「ごめんね……直ぐに来れなくて。仕事が押してたから」

 ロジオンは申し訳なさそうに見舞いの花をアデラに渡した。

 アデラはクスクスと

「私が寝ている時に様子を見に来るんですって? ロジオン様?」

笑いながらすましている主人に聞いた。

「う……お喋りな看護師だな……」

 口を尖らすと、恥ずかしそうに備え付けの椅子に座った。


「綺麗な薔薇……王居の庭の?」

 色鮮やかな花々が束ねられたブーケ。冬の時期にこれだけ種類の揃ったのは珍しい。

 病室内だと言うことも考慮してか、あまり香りの立たない花を選んである。

「魔導術統率協会のイゾルテ様──あそこの温室は凄かったよ……秘境の花畑の中にいる気分だった」

「人材の派遣依頼をしに?」

「うん……まあ、魔法使いは……あのグループ以外……全員残ってくれるって言うから。魔導師だけの依頼で……」

「良かったですね。皆、ロジオン様のお人柄のお陰です」

「──もう、それ止めて……」

 照れ臭そうに目を瞑ると、恥ずかしさを誤魔化すように足を伸ばす。



 一昨日──。

 辞職を希望していた魔法使い全員が、執務室にやって来た。

『辞職を取り下げてください!』

『自分達、ここで──いえ! ロジオン王子の下で頑張ります!』

 ポカンとするロジオンとハイン。

 コリンの件で真剣に話し合っていた矢先である。


 昨日今日で突然の心境の変化。

 そりゃあ、辞めないでいてくれた方が助かるけど。

『一体何が……?』

 まさか、コリンに全員何かの操作をされていた? ──疑惑に眉が寄る。

 プライバシー侵害になるが『明証』をしておけば良かったと言う考えが、頭に過る。


『俺達、いまいちロジオン王子って人が掴めなくて……前回の筆頭のこともありましたから、面倒な争いに巻き込まれて、部署内がドロドロするのかったるいなーって』

『だったら、違う場所でやり直した方が良いと考えていたんです』

 ハインが『すいません』と、項垂れた。


 ──まあ、自分も逆に『視えない』ように精神防御をしていたから、返ってそれも良くなかったか──


 ロジオンは警戒し過ぎたかな? と、顎を擦る。


『今回、護衛さんの件で王子は決して見捨てない、人を大事にしてくれる方だと思いました』

『可能性を探ってとことん出し尽くす──魔法を使う者達の探究心を唱える姿に感動しました!』


『王子の下で、魔法の使い手として頑張らせてください!!』


 一斉に頭を下げ、懇願する魔法使い達。


 ようするに──ロジオンのアデラを助けようと必死になっている姿に感動した──と言うことになる。


(うわ~……こっぱずかしい……)


 好きな人が目の前で死にかけたら、必死になるのは当然じゃないか。

 こほん、と、恥ずかしさを誤魔化すように一つ咳払いをしたロジオンは、彼らに一つ約束をさせた。

『これからは『王子』と呼ばないこと』




 つらつらと思いだし、アデラの顔を見る。

 まだ顔色が良くないし、あれだけ身体に負担をかけた。毒が抜けても、しばらく休職させることにしてある。

 それでも、顔を合わせると恥ずかしながら笑顔を向けてくれる彼女。

 再び笑顔が見れて良かった。


 そう思うロジオンだった。




次回は明日5/29の予定です。

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