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after the mother's day

作者: 小石 汐

昨日は母の日――あなたは素直に「いつもありがとう」と言えましたか? まだの方、今からでも遅くないと思いますよ?

 その日、私の脳裏にあの人の笑顔が思い浮かんだ。

 私のあの人はいつも喧嘩してばかりだけど、私はツンデレしているわけではない。本当に相性が悪いのだ。

 無神経で間が悪いし、いちいち私の行動に干渉してくるし、些細なことで急に怒り出すし、あの人は本当に面倒くさい。離れられるものなら離れてやりたい。

 それが出来れば、どれほど気が楽になることか。

 一人で自由に暮らす日々を夢見て、私は今日も空想の世界にのめり込んでゆく。

 一人になれば、私がどんな男を付き合ったって文句を言う人はいない。

 一人になれば、あの人でも私のプライベートな面に立ち入れなくなる。

 一人になれば、些細なことで怒られることもなく、私も気分を害することはない。

 そんなしがらみをすべて無くすことができる。


 できるけれど。


 そうなれば朝起きて、暖かいご飯が私を待っていることはなくなるだろう。

 もちろん、一人で暮らしていくために仕事だってしなければならない。

 その疲れた体で帰ってきて、洗濯やお掃除といった家事もしなければならなくなる。

 何より、家に帰っても、あの人の「ただいま」が私を迎えることはなくなってしまう。


 とても嫌いなあの人だけれど。

 それ以上に、私はあの人に感謝している。

 いつでも私を待って暖かく迎えてくれるあの人に、感謝してもしきれないぐらい感謝している。


 けれど、昨日――面と向かって「ありがとう」を言えない私がいた。

 夜、明かりもつけずに、私はベッドの中でじっと携帯電話のディスプレイを見つめていた。

 二十三時五十九分、あと一分で終わってしまう。

 けれど、私はベットの中で縮こまり、その時が過ぎ去るのを待っていた。

 大いに落胆すればいい。こんな私の母親になったことを精一杯、悔やめ。

 ベッドの中で笑いをかみ殺しながら、私はその日の終わりを見届けた。


 そして今朝、落胆したであろう母に普段どおりの挨拶を済ませて、家を出た。

 母もいつも通りに見えた。少しだけ納得がいかないけれど、あまり余裕のある時間ではないので、私は急いで家を出た。


 この後のことを考えると、私はいてもたってもいられなかった。

 勉強も手につかず、そわそわとした一日を過ごした。


 そして今日の私はいつもと違う道を通って帰る。

 一週間も前から予約していた物を取りに行くために。

 それを受け取り、準備は万全。一週間も前から、しっかりと準備をしてきた私に抜かりは無いはずだ。

 あとは私が言葉にするだけ――感謝の気持ちを。


 一日遅れの母の日。

 面と向かって素直にありがとうなんて言えるはずがない。

 だから私は考えた。

 素直になれないなら、徹底して捻くれればいい。

 だから意表を突いて一日遅らせてみた。

 別にツンデレじゃないと思う、ただ捻くれているだけ。


 きっと母は驚くだろう。

 だから私はこの花束を渡して、悪戯っぽく微笑みながら言うんだ。

 いつも、ありがとうね――と。

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