【Day.1】憧れの先輩が義姉になった件【Part.3】
本日は休日だが、ゆっくりはしてられない。
何故なら、今日、家族が増えるからだ。
今は朝だが、昼前にはお相手の《《親子》》がこちらに到着し、荷物は午後に届く予定だ。
そう。────"親子"、だ。
当事者ではないからと熱心に質問しなかった俺も悪いが、言葉足らずにも「家族が増える」しか言わなかった父も悪い。
結局、再婚相手にお子さんがいることを聞いたのは昨夜のことだった。
正直、母ができること自体はなんの心配もなく、気にならなかったが、急に自分の兄弟が増えるとなれば緊張の度合いが変わってくる。
そんなこんなで、リビングにてソファーにだらりと座り、高速で貧乏揺すりを繰り広げていると、外出用の服に着替えた父が話しかけてきた。
斯く言う俺も、本日は綺麗目な服装で固めている。
「私は今から車で迎えに行くが、お前はどうする?」
「……いや、やめとく。気をつけて」
「ふむ……40分か、遅くても1時間程度で帰ってくる」
「ん」
言葉少なに服のボタンを締め終えた父は、車のキーを持って家を出ていく。
その背中は緊張からか、少し小さく見えた気がした。
服にシワが付かないように気をつけながら、ソファーの上で大の字に寝転がる。
魂が抜けるような溜め息が止まらない。
さっきのだって、会うタイミングを送らせたいが為に付いて行かなかった。
それもこれも、これから家族となる再婚相手……の、お子さんの性別に問題があるのだ。
「兄弟……いや、姉と弟の方の姉弟なんだよな。はぁ〜、まじかぁ……」
嬉しいような、嬉しくないような複雑な気持ちが心を圧迫するように犇めき合っている。
やはり溜め息が止まらない。
普通に兄や弟という同性の兄弟ができるならまだわかる。
だが、この歳にもなって異性の姉弟ができるのは由々しき事態だ。
しかも、自分よりも歳上である姉だ。
心底、気まずい……っ。
そうして、溜め息が止まらぬまま気分転換──否、現実逃避にお相手方の住む予定である空き部屋を掃除していると、携帯が振動したのでポケットから抜き出す。
「あと五分か……どんな人たちだろうか」
外から車特有の駆動音が聞こえ、止まったかと思うと複数人の笑い声が響いてくる。
……久しぶりに父の笑い声を聴いた。
「あ、やべ、忘れてた」
慌てて先日買ってきたスリッパを二名分用意していると、扉が空いて笑い声と共に父とその後ろから二人入ってきた。
目が、合う────
「え、」
「あっ」
有らん限り瞳孔が開く。
痛いくらい心臓が煩い。
熱を持ったように顔に赤みが差す。
御三方がスリッパを履き、俺対三人の構図が出来上がる。
そこには穏やかな笑み浮かべる父と、口に手を添えて上品に笑う女性、そして────憧れの女性が、そこに居た。
「おっと、知り合いだったのかね?」
「あらあら、まずはご挨拶ですね。この子の母、二葉です。今日からよろしくね。……ほら、挨拶なさい」
髪を束ねて肩にかけた切れ長の目の女性──フタバさんが、目を見開いて固まる隣の彼女に優しく手を置いた。
彼女の肩がびくりと跳ねた。
毛が逆立ち、耳と尻尾がピーンと立っている。
自己紹介をされる側なのに、緊張から唾を飲んでしまう。
「あ、う、うん。はじめまして……? 天遥と言います。これからよろしくお願いします」
彼女の名前は天遥っていうんだとか、やっぱり声可愛いなとか、彼女が俺の姉になるのかとか、これから一緒に住むんだとか、思考が溢れて綯い交ぜになって一向に纏まらない。
三人から次はお前の番だと凝視され、思考が纏まらないまま慌てて口を開く。
「……っ、こ、こちらこそよろしくお願いします。燐空です」
「はっはっは、いつになく緊張してるじゃないか、リク。よし、親睦を深めるためにもまずは腹ごしらえをしよう。すでに出前は取ってある。みんなは座っていてくれ」
折角、今日の為に取った豪勢な出前も、極度の緊張と纏まらない思考に邪魔されて全く味わえなかった。
食事中の会話としては、主にハンカチの件や両親の馴れ初め、家でのルールやこれからの予定について話し合った。
俺が出前の食事から出たゴミを虚ろな目で淡々と処分していると、インターホンが鳴り、扉の近くに居た父が対応する。
「はい……わかりました。今そちらに行きます。どうやらフタバさんとアマハルさんの荷物が届いたようだ。リク、手伝ってくれ」
「ん、わかった」
「あ、業者さん、玄関までお願いします」
「「かしこまりました!」」
引越し業者の従業員が、次々とダンボールを玄関に置いていく。
ダンボールには二葉と天遥と書かれた色別の付箋が貼ってある為、それぞれ分けながらリビングに置いていく。
大した時間もかからずに全ての荷物をリビングに運び終え、引越し業者に家族でお礼を言う。
「リク、私は一階の二葉さんを案内するから、リクは二階のアマハルさんの案内を頼む。荷物運びを手伝ってやりなさい」
「おう」
「あらあら、リクくんお願いねぇ」
「あの、よろしくお願いします」
彼女と一緒にリビングから何往復もかけて荷物を運び入れていく。
推しと会話するなど本来であれば言語道断。
だが、家族になったからには会話しないという手段はない。
大して重くもないダンボールを抱えながら、前後に注意して階段を登っていく。
喉を整える為、咳を一つ。
身体がガチガチだ。
「あ、天遥さん……呼び方、アマハルさんでいいですか?」
「ぇ、ええ、ぜひ。アマハルと。燐空さんもそのままリクさんとお呼びしても?」
「はい、リクと呼んでください。家具は後日購入するんですよね?」
「はい、もしかしたら買い物に付き合わせてしまうかもしれません……ごめんなさい」
「いえいえ、謝る必要はありません。力には自信ありますから、こういったお手伝いが必要な時は遠慮なく頼ってください」
「ふふっ、ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」
「それならよかった。さ、荷物もあと少しですから、頑張りましょう」
「ええ」
会話を通じて互いにどことなく表情が和らいだ気がする。
それから程無くしてアマハルさんの荷物を全て運び終えた。
荷物はアマハルさんの方が多かったらしく、リビングでは先に運び終えていた両親がゆったりとティータイムを楽しんでいた。
俺はハンカチで汗を拭い、アマハルさんの部屋を出る。
「リクさん、手伝っていただき、ありがとうございました。それと、改めて今日からよろしくお願いします」
「どういたしまして。こちらこそよろしくお願いします。…………あの、嫌でなければもう少し喋りませんか?」
「えっ、あ、はい。全然。私でよければ」
「ありがとうございます。俺の部屋に連れ込むのはあまりよくないですし、下は両親が寛いでるので、座布団を持ってアマハルさんの部屋に行きたいんですが……いいですか?」
「あ、はい。どうぞ、大丈夫です」
身振り手振りで感情を表すアマハルさんマジ可愛い、と思いながら言質を取る。
座布団を自室から持ってきてアマハルさんの部屋にノックをしてから入室した。
「入ってもいいですか?」
「どうぞー!」
俺は吸い寄せられるようにアマハルさんの顔を見る。
気付けば、緊張や気まずさといった負の感情は消えていた。
【登場人物&用語集(※微ネタバレ有り)】
・神藤燐空:主人公 ♂
・神藤天遥:メインヒロイン 旧姓工藤 ♀
・神藤秋人:燐空の父 小説家 元営業 ♂
・神藤二葉:天遥の母 編集者 旧姓工藤 ♀




