Issue#03 I I Dreamed A Dream CHAPTER 5 16
2階の廊下もまた、床が見えないほどの物で埋まっていた。
開けもされないままにうず高く積み上がる通販の段ボールや、ガラクタの山の中に、
不釣り合いなほど綺麗な黒曜石の小さなピラミッドが、ぽつんと置かれている。
さなは、そこから放たれる微弱ながらも奇妙なエネルギーに気づき、足を止めた。
そして、何かに引かれるように、その冷たく滑らかな表面に、そっと指先で触れてしまった。
「……ここだね」
突き当たりのドアは、異様だった。隙間がすべてガムテープで目張りされている。おせちは意を決し、そのドアをノックした。
「カンノさん?シノちゃんの友人の、吉濱です。カルテット・マジコという名義でしたら、もしかしたら私たちの事、 ご存じかもしれません」
しばらくの沈黙の後、ドアの向こうから、くぐもった神経質な声が返ってきた。
「知ってるわよ。シノが言ってた。……それより、あなたたち、廊下の黒いピラミッド、
触ってないでしょうね?」
その言葉に、さなの顔からサッと血の気が引く。アシュリーが「ピラミッド?」と訝しげに呟く横で、おせちは咄嗟に答えた。
「いえ、何も……」
「あっ、さわってしまいました……」
そしてさなが申し訳なさそうに、正直に告白する。
「嘘!そんなことしたら、ディメンション・ゲートが開いて――」
アキノの甲高い声が言い終わる前に、それは起こった。
4人の真横の空間が、陽炎のようにぐにゃりと歪む。そして、そこから1歩、禍々しい姿をした何かが踏み出してきた。
硬質な鱗に覆われた、緑色の皮膚。鋭い鉤爪を持つ長い腕。そして、爬虫類そのものの顔には、冷たい知性を宿した赤い瞳が、無感情に4人を捉えていた。
宇宙人――その単語が全員の脳裏をよぎるより早く、はちるが動いた。
「にゃっ!」
獣の本能が、思考を置き去りにして肉体を駆動させる。人間とは思えぬ踏み込みから放たれた拳が、宇宙人の顎を正確に撃ち抜いた。
だが、殴りつけた感触はなかった。宇宙人の身体は、まるでホログラムのように揺らめくと、次の瞬間には黒い霧となって、その場から跡形もなく霧散してしまう。
後には、淀んだ廊下の空気が残るだけだった。
呆然とする4人を前に、ドアの向こうのアキノが、パニックに陥ったような声で叫ぶ。同時に、いくつもの鍵が慌ただしく開けられる音が響いた。
「言ったでしょ!早く入って!こっちにテスラ缶があるから、それで中和しないと!」
*
(想像していた以上のイメージが出来たのでビジュアルはとりあえずこれで)
カンノアキノの姿は、年齢という概念そのものを嘲笑うかのように、奇妙な矛盾を孕んでいた。彼女の戸籍上の年齢は37歳。しかし、そこにいるのは、どう見ても10代後半にしか見えない、1人の少女だった。
2040年代の技術が可能にするサイボーグ置換も、富裕層がこぞって受ける細胞レベルでのアンチエイジング手術も、彼女は一切行っていない。その若さは、医学や科学の産物ではなかった。
まるで、彼女の時間が、引きこもりを始めた20年前――その一点で、凍りついたまま止まってしまっているかのようだ。
肌は、長年太陽の光を浴びていないがゆえの、病的なまでに白い透明感を湛えている。
その陶器のような滑らかさには、同年代の女性が持つはずの、生活の痕跡や、
経験の年輪といったものが、一切刻まれていない。
つまり、その若さは決して生命力に満ちたものではなかった。
艶を失い、ぱさついた長い黒髪は、手入れを放棄されたまま、無造作に伸びている。
血の気の失せた薄い唇。そして、モニターの光を映すだけの、感情の読めない大きな瞳の周りには、
不摂生と睡眠不足を物語る、濃い隈が、まるで墨で描いたように深く沈んでいる。
華奢な肩、細い手足。その肢体は、成長期の途中で時間が停止したかのような、未発達な危うさを感じさせる。だが、そのアンバランスな若さこそが、彼女の異常性の何よりの証明だった。
彼女は、若々しいのではない。ただ、「老いる」という、生命として当たり前のプロセスから、完全に切り離されてしまっているのだ。その姿は、美しい花の姿のまま、永遠に枯れることのない、
不気味な押し花のようでもあった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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