Issue#03 I I Dreamed A Dream CHAPTER 5 15
おせちがまず頼りにしたのは、アキノの唯一の家族である母親だった。
電話口から聞こえる声は、感情の起伏が抜け落ち、ひどく乾いていた。
シノという名前と、カルテット・マジコという素性を明かすと、
母親は「……わかりました。どうぞ」と、すべてを諦めたかのように、
驚くほどあっさりと訪問を許可した。
……翌日。4人が訪れたカンノ家は、まるで時が止まったか、あるいは腐敗していくのをただ待っているかのようなところだった。
庭の雑草は伸び放題で、くすんだ黄に変色した室外機が、
塗装の剥げた壁にもたれるように据えられている。
苔むした飛び石の縁を、季節を違えた小虫がのろのろと這っていた。
トタン庇の裏側には、雨染みに黒ずんだ溝を見上げるようにして大きな蜘蛛の巣が張り、
そこに宿った雨滴が、音もなく、1粒ずつ落ちていく。この場所のすべてが、忘れられたまま朽ちていくことに、とうに慣れてしまったかのようだった。
――呼び鈴を押した。
沈黙があった。
それからやがて、錆びたドアが、まるで不承不承といった様子で、軋みながら開いた。
「――」
そこに立っていた母親は、家そのものと同じくらい、手入れが放棄されているように見えた。やつれた顔、色のない唇、そして、何も映していないかのように虚ろな瞳。彼女は4人を無言で招き入れた。
1歩、家の中に足を踏み入れた瞬間、4人は言葉を失った。
玄関から続く廊下には、未開封の郵便物や、いつのものとも知れない新聞が山と積まれ、リビングの床は、コンビニの弁当容器やペットボトルで埋め尽くされている。
埃と、何かが僅かに腐敗したような甘い匂いが、淀んだ空気と混じり合い、息苦しく肺にまとわりついた。
予想を遥かに超える屋内の荒廃。それは、単に散らかっているというレベルではない。生活という営みが、長年にわたって死んでいる。その事実が生み出す声なき恐怖に、アシュリーはいつもなら真っ先に口に出すはずの悪態すら忘れ、ただ眉をひそめた。
さなは、おせちの服の袖を無意識に強く握りしめていた。
世間から、そしておそらくは彼女たち自身からも、完全に忘れ去られた家庭。母親も、
そして、ドアの向こうにいるはずの娘も、緩やかに自分自身を損なっている。
セルフネグレクト――その言葉が、おせちの脳裏をよぎる。4人は、この空間に漂う、
救いようのない病的な気配を肌で感じ取っていた。
「アキノは……2階の、突き当たりの部屋です」
母親は、感情のない声でそう言うと、ふらりとリビングのソファに崩れ落ち、
ふたたび呆けた顔でテレビ画面を見つめ始めた。
4人は顔を見合わせる。その目には、憐憫や同情ではない、もっと冷たく、そして根源的な謎に直面した者の、緊張の色が浮かんでいた。彼女たちは音を立てないよう、ゴミの山を避けながら、軋む階段へと足を向けた。
20年、開かれたことのない扉。その向こうに、この世界を狂わせている元凶がいる。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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