8. 悪の英雄族登場ですと?
聖封印庫の扉が重々しい音を立てて開いた瞬間、張り詰めた空気が流れ込んできた。
内部は広い円形のホール。壁も床も天井も白銀色の魔法石で覆われている。
僕はミナと共に封印庫内を歩いた。
「……すごい……」
ミナが恐れたようにぽかんと口を開ける。
僕も同じ気持ちだ。まるで荘厳な聖堂じゃないか。
中央には台座が並び、それぞれ魔法障壁で守られていた。
毒や呪具、聖遺物が整然と保管されているが、1つだけあからさまに空白になっている台座があった。
「……あそこだ」
僕は迷わず指を差した。並びを考えて記録と照らし合わせると、カイの事件に使われた毒が、まさにそこに保管されていたはずだ。
台座の前にたどり着くと、ミナは小さな手をかざして魔法陣を展開させた。
「……魔力痕跡、解析開始ですっ」
光の糸のような魔力が、空白の台座の周囲を走る。しばらくして、ミナがはっと目を見開いた。
「……レオンさま、これ……やっぱりグラディス公爵家の魔法痕跡です」
「おおっ?」
僕は驚き、慌ててミナの肩越しに魔力の解析結果を覗き込んだ。そこに浮かび上がったのは、見たことのある紋様の波形。英雄族の高位貴族、グラディス家の魔力特有のパターンだ。
「……いや、待って。これ……おかしいよ」
僕は無意識に呟いた。
「痕跡が綺麗すぎる。こんなにはっきりと残したまま隠さないなんて……気のせいかな、まるで……『ここに令嬢セリーヌ様の家が関与してます』って言ってるみたいだ…」
ミナは不安そうに僕を見上げる。
「じゃあ、どういうことなんですか……?」
「……逆だ。これ、罠だよ」
ここで考えようか。セリーヌを犯人に見せかけるための、あまりにも雑な〝隠れ蓑〟。けれど、ここまで堂々と残してあるなら、これは意図的に僕らに見せつけてる可能性がある。
それにしても――わざわざ見せかけるのはなんで?
僕が疑問に思ったその瞬間――
カツカツと背後からヒールの足音が響いた。
「まぁ……何をしているのかしら?」
艶やかな声が封印庫内に響いた。
振り返ると、漆黒のエンパイアドレスに身を包み、冷笑を浮かべる令嬢が立っていた。
「鼠どもが、王城の地下で迷子かしら?」
扇の紋章で分かった…この人はセリーヌ・ド・グラディス。氷血令嬢。
うわ典型的悪役令嬢きたぁ!!
「……レオンさま、なんでこうふんしてるのっ。落ち着いてください」
ミナは小声で僕に耳打ちした。うへへ、ごめん。
すると。
セリーヌが冷たい微笑みを浮かべたその後ろから、さらに一人、悠然と歩いてくる影があった。
「やれやれ、セリーヌ。こんな無駄な連中に構う必要はないよ。君たちのことはカードキーを渡した兵士から聞いてる……弁護士ごっこか。見てて滑稽だね」
金色の髪を持つ青年――
英雄族の王子、アレクシス。
……この人は、確かゲームでもヒーローポジションだった。
だけど、なんでかな。
その目には、隠そうともしない悪意が宿ってるじゃないか。
「―――ミナ。下がってて」
僕は泣きそうなミナを後ろに立たせ、二人をはっきりと瞳に映した。
ここは、僕が乗り切ろう。




