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8. 王子の爆弾発言ッッ

 聖封印庫の空気が、アレクシス王子によってさらに冷え込んだ気がした。

 黄金の髪と氷のように冷たい瞳。華やかで優雅な微笑みを浮かべているのに、その奥には得体の知れない何かが潜んでいる。


「……君がレオン・カーティスだね」


 アレクシスはゆっくりと歩み寄り、僕を頭から足元まで値踏みするように見た。


「……っ」


 背筋が自然に強張る。王族特有の威圧感って、半分物理的に来るんだねこれ。

 でも、なんで王子は僕の名前まで……。


「面白い噂を聞いたよ。ヴィラン共と弁護士契約した少年兵がいるって」


「っ……!」


 反射的に目を見開く。

 もう僕は職を変えたけど……英雄族の軍人精神と矛盾する、とか言われる感じ?

 思いがけず半眼になると、アレクシスは愉快そうに唇を歪め、囁くように言った。


「王城にはね、君が思う以上に諜報員が大勢いるんだよ。君の名前はそこからすぐに報告が上がった。だから気になって来てみたんだ」


「……」


「それに、好奇心もあった。英雄族に喧嘩を売るバカを一目見てみたくてね」


 ……腹立つな、こいつ。

 王子はくすりと笑い、さらに続ける。


「いいかい? 教えてあげようか。野蛮なヴィランなんて法廷に立たせるだけ無駄だ。君の弁護なんて、ただの茶番さ」


「……ぅ」


 ミナの手が、僕の袖をぎゅっと掴む。その指先は氷みたいに冷たい。

 恐らく何かがフラッシュバックしたのか、ミナは震える体を抱え込むように縮こまった。


「それでも必死に足掻く、君みたいな可愛い子は嫌いじゃないけどね。見てて飽きないから」


 ゾワッと僕の背筋が凍った。

 うわ、気色悪…。


 ―――でもね、それもいつまで馬鹿にできるかな?


 僕は一歩前に出る。笑顔を作って上目遣いで拳を握り、王子を見上げた。


「……じゃあ、その〝無駄〟を覆してみせますよ。証拠で、ね!」


 その場にいたミナが、わずかに息を呑む音がした。

 セリーヌまでもがわずかに片眉を上げる。


「……ふぅん」


 アレクシスは愉快そうに笑い、僕の方にさらに近づいてきた。


「でもそんなこと言って君さぁ、組み敷かれそうな可愛い顔をしてるよね。ふふ、身体だって女みたいに華奢だ」


「っ……」


「そのホワイトブロンドの髪も、王家のスタイリストがセットすれば映えそうだよ……?」


 庶民らしくバラバラに切りそろえられた僕の髪を一瞥すると、頬をさらりとなぞるように触ってくる。

 覗き込んでくる蒼い瞳が、ひどく濁って見えた。


「僕の側室にでも検討してあげようか?」


 ミナの顔がはっと赤く染まり歪む。この国では男色文化も当たり前のようにあるし、平民を妃にした前例もある。冗談ではない雰囲気だ。いっぽうセリーヌはどうでもよさそうに扇をひらつかせていた。


 僕はといえば、睨まないように意識しながらアレクシス王子とまっすぐに視線を合わせていた。


 ――こいつは本当に救いようがないなぁ。


 だから前世でもこいつを推さなかったんだ。

 ゲーム内ではここまでしゃしゃり出る場面はなかったけど、それでもどこか違和感があった。原作の主人公に対する態度からしても、からかいと嫌味の境界が曖昧で、そんな人間性に疑問を持っていた。


 だから………こんな見せかけの英雄、嫌いだ。


「……その巧みな揶揄い方、僕にも教えてくださいませんか? 殿下」


 内心の怒りをスルーして素知らぬ顔で首をかしげると、それに応じてにこりとアレクシスも微笑んだ。


「しらを切っていないで、イエスかノーか答えてくれないかな」


 笑顔を貼り付けたアレクシスの手が僕の手を取って握る。ピキッと空気が凍りつく。


 ほんとに、ほんとに最悪―――


「……離れろッッ」


 その時、誰かの叫びが遠くから聞こえたような気がした。

 聖封印庫のドアが勢いよく開き、怒声が響く。


「離れろ、王子サマァァァァ!!!」


 僕は振り返った。

 ――息を切らした様子のアヅミと、ふむと場を伺うライラさんがいた。


 僕の、推しだ。


 扉からやって来たライラさんがアヅミを少々宥めてから、控えめに笑う。

  

「……レオンくん、俺が兵士に交渉しておいたから」


 この短い時間で衛兵を説得できるような、ましてカードキーさえ渡してもらえるような即効性がある交渉ってなんだ。まさか脅し? いやいや、ライラさんに限ってそんなことはあり得ない……はず。  


 僕の手と自分の手を絡めて微笑んだままのアレクシスを、ライラさんは真正面から見つめた。

 その数秒後、すっとアレクシスの腕を取り、薄く微笑む。


「……それ、やめてくれるかな」


 静かな声なのに、空気が一気に張り詰める。余裕のイケメンっぷりだ。

 ぎゅっと握ってきていた指先が緩み、僕はすぐに腕を引き戻した。アレクシスは楽しそうに笑ったまま、肩をすくめる。


「……やれやれ、ヴィランの連中は本当に過保護だね」


 僕は腰から力が抜けへたりこんだ。

 やっぱ、こいつらかっこいい……。


 ライラさんは無言で僕を背に庇う。


 その背中が、やけに頼もしかった。

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