表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/50

43. 家族にご挨拶!?

 台所にお茶を足しに行こうとしたら、廊下にアヅミとウィリアムが立っていた。


 え、なんで全員いるの。


「い、いや! ライラさんを尾行したわけじゃなくて!」


 アヅミが言いながら、明らかに尾行してきたことがバレている顔をしている。ウィリアムが「ライラくんが不審な動きをしていましたので」とカイとまったく同じことをカイより丁寧に言った。


 同じ理由で二人も来てたんですか。


 結果として、僕の家のリビングにヴィラン四人が全員揃っていた。


 リビングの壁際には継ぎ当てのある椅子が並んでいて、テーブルの脚の一本は少し短い。それでも、母が拭き続けているのが分かるくらい、天板だけが綺麗に光っていた。


「……ほかの弟たちは?」


 カイが一瞥するように部屋を見渡したのが分かった。人数が足りない、ということに気づいたらしい。


「教会に行ってるよ。週に四日、修道士のエドガー先生に字と算術を教えてもらうんだ」


 僕は答えた。


 この世界では、学校に通える子どもはそう多くない。でも教会が無償で教えてくれる日がある。

 それを知ったのは、ヴィランのアジトに出入りするようになってから、ゼオスさんが教えてくれたことだった。英雄族の子でも、ヴィランの子でも、来た者には教える――それが、この王都でエドガー先生の教会だけが続けている習慣らしい。


「……そういうのがあったのか」


 アヅミが小声で言った。誰に向けたわけでもない声だった。


「今日は夕方ごろに帰ってくるよ」


 アランがアヅミのカップにお茶を注ぎながら、当然のように言った。

 遠慮がない。むしろ嬉しそうだ。


「みんな、レオンにいちゃんのお友達だよね!」


 四人が一瞬だけ固まった。

 アランがカイを見上げた。


「ねえねえ、にいちゃんのこと、好き?」


 弟特有の、悪意のない直球だった。


 カイは無言で視線を逸らした。ライラさんが少しだけ笑った。アヅミが「ぶっ」と吹き出しかけて口を押さえた。ウィリアムが眼鏡を押し上げた。

 全員の反応が、それぞれ違った。

 アランはきょとんとしている。


「なんで誰も答えないの」


 台所の方から、母の声がした。


「レオン、お客さんが来たのに言ってくれれば……」


 体調がいい日だったことが分かる声だ。


 アヅミが台所の方向に目を向けた。ウィリアムも向いた。


 母が台所から顔を出した時、二人の表情が少しだけ変わった。


「あ、えっと……お邪魔してます」


 アヅミが珍しく神妙な顔になった。ウィリアムが「突然の訪問をお許しください」と丁寧に頭を下げた。


 母が「まあ、レオンの友達ね」と笑う。


「……体調、大丈夫ですか」


 アヅミが小さく言った。聞こえるか聞こえないかの声量だ。でも母には届いた。


「あら、気遣ってくれてありがとう」


「いや、そういうんじゃ……」


 アヅミが小声で言いながら耳まで赤くなった。


 ウィリアムは静かに台所を見回して、何も言わずに棚の前に立った。食材の位置を確認している。それからレオンに、ほんの小さな声で聞いた。


「俺から何か言いましょうか」


「え?」


 僕が反応する間に、ウィリアムがもう母に向かって「何かお手伝いすることがあれば」と静かに言っていた。


 ウィリアムは、こういう人だ。言葉じゃなくて、動く。

 それが分かってから、なぜか喉の奥が詰まる感じがした。


 全員がリビングに落ち着いた頃、弟たちはそれぞれの用事に戻っていた。ヴィランたちと僕が輪になって、会話が一段落した静かな間が生まれた。


 僕はそっと、ライラさんの横顔を見た。前髪で隠れている目のほうだ。


「ライラさん、隠れている目って」


 ライラさんが僕の方を向いた。振り向く速度が、少しだけ早い。


「――なに?」


 聞き返す声は穏やかだ。「どんな色なんですか」と聞こうとした言葉が、引っ込んだ。


 ライラさんが前髪をゆっくりと指で払う。しかし隠れている目が見えるほどは払わない。ほんの少し、毛先を動かすだけ。


「教えてほしいなら……そのうち、ね」


 微笑んでいる。その笑みがからかいなのか、本気なのか僕には分からない。


 ライラさんはヴィラン族の妾と、英雄族の貴族の間に生まれた子どもだ。攻略ルートの過去回想で明かされるのだ。不義の子として、どちらの家にも居場所がなかった――と。あの片目が何色なのかは、ゲームでも、ついに明かされなかった。だから僕も知らない。


 これ、ほんとに転生者チートだよな……。


 リビングに差し込む夕方の光が、ライラさんの横顔の輪郭だけを柔らかく縁取っていた。

 『そのうち』という言葉の重さが、どこかに落ちないまま、ただ空気の中に溶けていく感じがした。


 僕には『そのうち』を待つ時間があるのかな、と一瞬だけ思った。思考の意味が分からないまま、僕は視線を窓の外に逃がした。


 会話が続いている。アヅミが何かに突っ込んで、カイが「うるさい」と言っている。ウィリアムが呆れた顔でお茶を飲んでいる。アランが端から全部面白そうに見ている。


 僕はその場の全部を、一秒だけ眺めた。


 疲れていた。でも、ここに全員がいる。それだけで、少しこのまま時間が止まればいいと、思いかけた。


「そいえば、レオン」


 ライラさんが割り込んだ。


「さっき俺たち、お母さんに挨拶終わったから。だからこの中で誰でも」


「言わないでください」


 アヅミが間髪を入れずライラさんをどついた。


 いやなんのこと!?!?


「僕の、知らない間に、なにか進んで……?」


 カイは無言だ。ウィリアムが眼鏡を押し上げてから笑った。


「ふっ。レオンさんは知らなくていいんですよ?」


 何か、寒気がする……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ