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28. これがたぶん僕の愛

 作戦会議の日から二日。

 四人のヴィランたちは既に指示通り動いてくれている! 良かった、そちらは順調!


 一方ウィリアムと僕は、王都の北西側にあるにぎやかな港に来ていた。

 ずらっと並ぶ倉庫街に、住民たちの賑やかな声が反響している。潮風が鼻先を掠めた。塩の匂いと、魚の生臭さ、遠くから聞こえる船乗りたちの怒鳴り声。いかにも商業地区らしい。


 だけどそれは、あくまで表向き。


 ウィリアムは知っていた。

 港の地下は、都市最大の奴隷市場だということを。


「うわあ、雰囲気めちゃ重厚っ……」


 地下への入り口は、赤い倉庫の奥にある階段だ。

 石段を降りるたびに空気が重くなっていく。なんかやっぱりファンタジーって感じ。


 ウィリアムは無言で、階段を降りる僕をささえる。


 まさに、この地下がミナたち二人が幼い頃に、奴隷として売られていた場所らしいよ。ウィリアムがここで何を見たのか、ミナが何を感じたのか。その記憶を、僕は想像することしかできないな。


「……すみません、あのグルムは、今どこに?」


 そこで、無表情のウィリアムがそれとなく聞いてきた。


「あー、本人ちょっと急用で」

「……急用、ですか」


 ウィリアムは一拍だけ間を置いた。それから、目を細める。


「レオンさん」

「はいっ」


「俺のいないところで、計画を動かしていますね」


 断言だ。疑問の形をしてない。


「…えーっと〜……」


「隠す必要はないですよ」


 ウィリアムの口角が、ほんの少しだけ上がった。


「あなたはグルムさんを先行させて、いったん別行動にしてから、俺と二人でここに乗り込む算段を立てている。そうでしょ?」


 !? この人、怖い!


「……せいかいです…」


「今日アジトを出た時点で、レオンさんのこれまでの動向から推測し、おおよその段取りは読んでいましたから」


 ウィリアムは涼しい顔で前を向く。

 うん……読まれるのは想定内だ。僕はちょっぴり苦笑いをしながら頷いた。


 たどり着くと、薄暗くて広大な地下が目の前に広がった。所狭しと天幕(テント)が張られ、網でツギハギされている。


「……!」


 網の向こうには、首輪で繋がれたヴィランたちがいた。

 それぞれ、感情のこもっていない顔だ。何事にも価値がなくて意味もない。そう揶揄するみたいに、くたりと脱力して座り込んでいる。


 でも、僕みたいな庶民の若者が珍しいのか、時折天幕(テント)の中からの視線が集中した。注目されるとやっぱ、ちょっと緊張するなあ。


 隣のウィリアムは、懐かしそうに目を細めながらも、やっぱり眉をひそめていた。そうだね、この状況は見るに堪えない。


 天幕(テント)の上には奴隷商会の紋章が描かれた提灯が吊るされていて、ランタンの芯が燃える音が、ちりちりと小さく響いていた。光に照らされた兵士の鎧が光る。


 僕は息をひとつ、静かに整えた。今夜はやることが山ほどあるんだ!



 歩を進め、僕たちは兵士たちが集まる一番大きな天幕(テント)へと歩を進めた。……さて、着いた。


「おい。いったい、何をしにきた」


 僕たちが目の前に立つと、商会兵が眉を寄せて訊ねてきた。


「……もしや、貴様が噂の弁護士か」


 え! 

 ここでも、新聞を通じて僕の噂は届いているのか……記者って怖い〜……。


「なにが、目的だ?」


 スウッと、兵士は剣を抜いた。

 様子を観察しているウィリアムを置いて、その場に合わない笑みを浮かべながら、僕は兵士に近寄る。


「ふふ、なんだかわかりますか?」


 僕の目的と、計画。

 それを教える前に、この人たちに牽制をしておきたい。

 僕は商会兵の前に両手を出して、なるべく明るく落ち着いた声を意識して言った。


「あの。上の方に連絡して、奴隷たちの契約書を見せてもらえます?」


「……!」


 その声に、兵士が一瞬身をよじる。

 わかりやすいなぁ。その仕草は見逃すわけにはいかないよ?


「―――では、この場にいる皆さん!」


 大きく声を張り上げた。声が地下空間に反響して広がっていく。


「よく聞いてくださいっ」


 僕の声で、周辺の表情が、水を打ったように変わった。唐突な声に首を傾げている兵士と奴隷に、怪訝そうに眉を寄せる商人たち。


「ここにいる奴隷たちの契約は、全部『違法』の可能性がありますっ」


 天幕の奴隷たちの目が、こちらに釘付けになる。


「英雄条約に残されていた古い王国法によれば――未成年者が結んだ契約は効力を持ちません。

 脅されて結んだ契約も同じ。つまり、この場の奴隷の大半が最初から『契約不成立』なんです!」


 僕は声を張った。

 聞きつけた者たちの金切り声がキンと響く。


「!? ……でたらめを言うな!」

「うちの契約書にはな、監査院の承認があるんだ」

「正式な認可を受けている、違法じゃない!」


 周りの商人たちが口々に声を上げる。


「あー、それはおっしゃる通りです」


 僕は頷いた。そんな僕を見て、一瞬商人たちはぎょっとする。


「契約の承認印、ありますよね。見せてくれませんか? その紋章の形を」


 僕は笑って手を組んでお願いのポーズをする。わざと、子供っぽく無害そうに。しかし商人はかぶりを振る。そりゃあそうだ。見ず知らずの変なヤツに、ただで見せるわけがない。

 ……試してみよう。


 僕は頬を掻く。


「正規の承認印というのは、六芒星の内側に院章が刻まれているはずなんですがぁ……」


 商人はぶるっと身震いして、こちらを見る。


「おそらく―――あなた方の契約書に押してある印は偽造。そして、多分……そんなとき使われそうなパターンである、五芒星とかじゃないですかね?」


 僕はあごに親指を当てて、矢継ぎ早で告げる。


「……っ!」


 命中したか。わかりやすい。


 ここまでくれば、分かるかな? とりあえず、順を追って説明していこう。

 ミナが自身のルーツとしてここに来るなら、商人によって囚われの身になる可能性が超っ超、高い。

 自暴自棄になり、再びみずから奴隷になっている可能性もある。かといって、僕らがミナを買うと奴隷契約を結んでしまうことになるから、そんな手段は使えない。


 ……ミナがトラウマへの回帰を望んでいるなら、尚更僕たちの元に戻ってくることは無いだろう。

 しかし、あの子の望むとおりにすることが、本人の幸せになるとは限らない。

 真実の愛についてはいろいろ意見や定義があるけれど、そのなかに『たとえどんなものでも本人の意向を応援する』というものがあるとしたら、僕は…―――


「あはっ」


 喜んで無視しよう!


「では、答え合わせをしましょおーっ!」


 何としてでも連れ戻すなら、市場の不正を暴いて告発して、ミナごと囚えられなくすればいい。


「僕の目的は、この市場の奴隷を〝全員〟解放することです!」


 びしっと人差し指を天井に指し、そう叫んだ。

今日の夜にもう1話更新です!

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