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20. 推しに狙われ始めました

 盛大に打ち上げが行われている裁判所のホールは騒がしい。

 ほんと、神聖な法廷で酒盛りなんて、日本の裁判官が見たら卒倒するだろう。僕は前世では相変わらず考えられないこの世界のがばがばさに、呆れつつもちょっとだけ微笑んだ。


 すっかり夜が深まってきている。豪華な回廊にて、カイと僕は並んで歩いた。

 窓から夜の街灯りが差し込む。その光が、酔っ払いが赤ら顔で騒ぐホール内の喧騒とは、別世界みたいな静けさを保っている。

 普段は一歩が大きなカイが、今は僕の短い歩幅に合わせて、ゆっくりと踵を鳴らしてくれていた。


 足音だけが誰も居ない回廊に吸い込まれていく。


 僕は気まずい空気に耐えきれず、カイの顔を「よっと」と覗き込んで目を合わせた。


「それで、話ってなんですっ? いい加減教えてくださいよー」


 僕の顔が、グレーの瞳に至近距離で映り込んだ。カイは気だるげに頬を指で掻きながら、僕から視線を逸らしてやっと口を開いた。






「………お前、次もあったら絶対やって。俺専属の、俺だけの弁護人になって……」




「は?」


 僕はその瞬間、驚いて立ち止まった。


「はって何」


 カイは「む」と苛立ったように眉を寄せてくる。



「えっと。それって……ほぼ、告白じゃないですか」


 いやいや。何いってんだろ僕。カイは冗談で言ってるはずなのに真面目に返しちゃったよもう。


 僕の心臓が恥ずかしさでドクドクと高鳴っていた。廊下の冷たい空気がいやに涼しい。頬がどんどん熱くなっていくのを感じながら、今度は僕がカイから目をそらした。カイはそれでも答えを待つかのように見つめてくる。なになに、これ。なにこれ。どういう事態だよ。



 と、その時。



「おわっ」


 ぎゅうっと後ろから手を回され抱きしめられる。

 

「カイ様、レオンを独り占めしないで?」


 低い声とともに、耳元に息がかかった。白くて骨ばった滑らかな手が、視界の隅で僕を離すまいと力を込める。その声は―――


「らっ……ライラさん!?」


 背筋がぴんと跳ねる。

 黒髪が僕の頭にさらりと落ち、甘い香りが鼻孔をくすぐりながら、僕の首に鼻先が寄せられる。


「くあ!? ライラさんちょっと、嗅がないでください……!」


「はー……レオンの匂いって、優しいハーブみたいだよね。俺好き」


「いや、初めて言われましたよっ」


 そもそも、ここまで自分の匂いをあからさまに嗅がれたことなんてないし。


「――…レオンぅ〜…なんでさっき呼んだのに宴居ないんだよ! 話長くね!?」


 またたく間にさっと空いた手を両手で包まれる。横を見ると、赤髪のヴィランは半泣きで僕を見つめていた。


「ああああ、アヅミっ……いつの間にここに!?」


 どした?? きみ泣き上戸だったの!? 酔った拍子におかしくなった!?


「さっさと、自分のとこ来てぇ……」


 普段は強気なアヅミの瞳が、今は潤んで仔犬のように揺れている。その手は僕の手を握りしめながらぷるぷる震えていた。


 うん、かわいい……だけど僕なんかにするもんじゃないよ……高揚して壁を拳で突き破りそうだ。そんな力ないけど。



 そして――

 僕に抱きつくライラさんとアヅミを力付くで引き離し、首筋をすうっ……と撫でてくる者がいた。


「ぁう!?」


「では、ここはいっそ勝負といきましょうかねぇ?」



 そう眉を寄せて笑って――ウィリアムはくいっと眼鏡を押し上げた。


「な、なななななっ……!」


 この状況どーしたらいい!? てかまずどゆこと!?!? 


 アヅミとウィリアムの視線がぶつかり、空気がビリッと裂けた気がした。稲妻がバチバチするモーションが見えたのは見間違いじゃないよね?

 一方、ライラさんとカイは牽制し合うように口角を上げながら、互いの足先を一歩も引かない。


「へ、あのっ」


 右に左に後ろに前に……何が何やら……

 頭の中がはてなマークでいっぱいになるなんて、実際ないと思ってた。まさに僕の脳内、今それだ。


 僕が目を回してふらついた瞬間、廊下の奥からゆっくりと靴音が響き、ヴィラン全員が同時に振り返った。


「―――みんな、何してるの?」



 回廊に、ゼオスさんの素朴な声が落ちた。

 ヴィランの間に、まるで氷水をぶちまけたみたいな沈黙が落ちる。


『………』


 全員スピーディーにぱっと僕から離れた。


「……なんでもない、父さん」


「そうだね。ボスは関係ないよ」


 カイの言葉にライラさんは笑って賛同する。アヅミは焦ったのかつんとそっぽを向いて、ウィリアムはため息を一つした。

 少しだけ寂しそうにゼオスさんはしょんぼり顔になって、うなだれる。


「………皆で集まっているなら、なんで私を呼んでくれないの……」


 その後、全員ですねたゼオスさんを慰めた。

 言っとくけど僕のせいじゃないからな!?




 ―――まぁ、みんなの真意はよくわからんが。ひとまず裁判で勝訴できてほんとに良かったっ!




 僕はこの時、ヴィランたちが自分を巡って争うことになるとは露ほども思わなかったのを後悔することになる。それには全く、気付かなかったのだった。



 


 あれ。推しに気に入られちゃいました?


 ふふ。まさか、ね。


あと1話で第一章が終幕し、第二章に続きます。

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