12. 二度目の接見といきましょか!
あれから二週間。とうとうカイの第一審まであと五日に迫っている!
僕は晩餐会毒殺事件の真相を探るため、片っ端から調査をしていた。……ようやく全貌が見えてきた。
少し骨が折れる作業だった。
なにしろ僕という一般市民が、貴族の会合で実際何が起こったかの内容を調べるのは中々ハードだ。なので連中の動向にも精通するグルムに頼りながら、一般の関係者や快い貴族に聞き込みをする形でなんとか全ての概要を掴んだ―――
今日はカイにそれをぶつける。
僕は他のヴィランとともに牢獄に足を運んだ。
外は快晴で午後の時間帯もあり暖かい、牢獄の中は薄暗くて寒い。温度差がすごいな。
僕とミナ、そしてライラさんにウィリアム、アヅミが牢獄の檻の前に立った。ゼオスさんは今日は別件で仕事に出向いている。
鉄格子越しにカイが長椅子に寝転んでいて、後ろには無表情の衛兵が突っ立っていた。
カイはのそっと起き上がり、僕たちを一瞥する。
「……また来たのかよ」
「大事な話ですよ。誤解を解きに来ました!」
僕が手を頭にびしっとかざして言うと、カイは腕を組んだ。
「誤解?」
「セリーヌ様は、あなたを陥れたりしてません。証言も集まりました!」
ライラさんやアヅミ、ウィリアムがはっとした目で僕を見た。
カイは鉄格子にもたれかかる。
薄暗い牢獄に、外の光が細い筋となって差し込む。
「……じゃあ聞くけど。今の状況を整理してみろ。俺が何でここにいるか、そして誰が得してるか。全部言ってみてくれ」
試すような目だ。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「……はい。じゃあ、おさらいします」
僕は一歩前に出て、声を低くした。
頭の中で、法廷の証言台に立ったつもりで言葉を組み立てる。
「まず、事件は『晩餐会の毒物混入』。被害者は英雄族の高官。現場は王城の大広間、時間は開宴から一時間後。グラスの中にマチズの種子由来の毒が混入されていた――」
カイは無言。だがわずかに目を細める。
「毒はごく少量でも調合の仕方によって急激な呼吸困難を引き起こす。それを飲んだのが高官、そしてその近くにいたのがあなたとセリーヌ様だった。その場でセリーヌ様は、現場を誰よりも早く封鎖してあなたを第一容疑者として名指しした…」
ライラさんやウィリアムは聞きながら頭を巡らせている様子だが、アヅミはわけがわからなそうにきょろきょろしている。僕は一度息を整えた。
「さらに聞き込みの結果、被害者が飲んだグラスの底面からセリーヌ様の指紋が検出された。これは今、検察側にも恐らく明かされていない情報です。……アヅミのためにまぁ率直にちゃーんとわかりやすく言うと、この指紋について明かされたら真っ先に、セリーヌ様が容疑者候補になるということですねっ」
「うっさい分かるわぁ!」
「はいはい」
アヅミは赤面して僕をはたいた。フフフ意地は張らなくてもいいんだぞっ。
僕は「んんっ」と咳をしてから続ける。
「ただし――これらの証拠には不自然な点があります。……一つ目は」
ミナが息を呑む。
「指紋が底面にしかないこと」
本来そこを持つとは考えにくいのだ。
「二つ目、あなたのグラスからは何も検出されなかったこと」
そもそもセリーヌが殺そうと企むなら、立場を主に考えるとカイが標的になるのが動機として辻褄が合うし。
「三つ目、晩餐会会場への立ち入りなど主に英雄族側が管理していたにもかかわらず、招待された立場である唯一のヴィランのカイさんが先に疑われたこと」
これがそもそも最初からおかしい。
カイが顎に手を当てる。
衛兵がこちらを怪訝そうに見たが、僕は構わず続けた。
「そして――この事件が起きて得をするのは誰か。あなたを牢に閉じ込めたことで、ヴィラン側のいざとなった時の戦力は確実に削がれています。また、セリーヌ様の名誉を傷つければ、彼女の家の封印庫管理権も奪える。つまり……英雄族内部に通じている人物が動いた可能性が高いです」
「……続けてくれ」
「状況証拠の多くは、あなたとセリーヌ様を同時に陥れる形で配置されています。証人は英雄族関係者が多く、証言の齟齬もいくつかある。特に、グラスが『テーブルの上に置かれていた時間』については証言が食い違っています」
僕はまっすぐカイを見る。
「これらの矛盾を突けば、必ず真犯人に近づけます」
短い沈黙。
カイは小さく笑った。だが目は鋭いままだ。
「………ふうん。……お前さ、そもそも真犯人の予想自体はついてるの?」
「……すみません、まだついてません」
僕は頭をかいてあははと目をそらした。
するとカイはうつむきがちに言った。
「………そんな状態ならいっそのこと、どちらかに罪をなすりつけて楽になりたい……とかは、思ったことないの?」
ん?カイは何を言ってるんだろう。
僕は一転して真顔になる。
「あるわけないじゃないですか」
「ライラたちから聞いてるけどさ。……俺らのファンなんだって? そもそもなんで?」
「……」
うう、それを聞かれるとなんとも言えん…。
僕に対するカイの視線が一層鋭くなる。
「つまり、俺が言いたいのは」
「はい」
「……お前、何で俺たちのためにそこまでやる?」
そのほかのヴィランたちも僕を注視するのが分かった。やっぱり気になるよね。
僕は呆れてカイを見つめる。
そんなもの、決まってるじゃないか。
僕のかつての冷たい人生を癒やして、生きがいになってくれた。代わりがないものなんだ。
本来前世で感じるはずだった孤独だって、セクシーで健気な君たちのせいでほわっと消えていったんだぞ!
「…―――僕の大切な人だから。もうねっ、あなたがたは生きてるだけで素晴らしいんですよ」
推しって、そういうものだからな。
僕は口角を緩めながら笑う。ちょっとだけ顔が火照った。
カイはわずかに目を見開き、少しその目を和らげるとすぐに視線を逸らした。それからちょっと震えたような声で言った。
「………あぁ……。お前と似たやつを知ってる。昔……泥にまみれた手を引いて俺に笑いかけたやつ……」
「ほう?」
誰だろう。
僕が首を傾げていると、むむむと眉を寄せたミナに小声で耳打ちされた。
「………カイさまの耳が、ちょっとばかし赤いですっ……」
「え゙っ!? どうしたんです!! やっぱここ外と比べて寒いから…?」
推しが!! 風邪を引いてしまう!!
「うるさいミナ余計なこと言うな」
「ふふん、さすがあたしぃっ。今日はとびきり冴えてますう」
ミナが得意げに言うのでカイは睨み、シスコンのウィリアムと半ば戦争になった。
僕は心配になりカイに熱がないのか檻越しに手を伸ばして確かめようとしたが、ものすっごい嫌がられた。
なぜだ!! こんな薄暗い牢獄になんかずっと居たら、そりゃ体調も悪くなるよぅ。ちゃんと言ってくれればいいのになぁ~………。
――カイが言っていた〝昔の人〟って誰だったんだろ?
僕は帰り道にふと思い出して、再び首を傾げた。




