5話 疑心暗鬼
翌日、この星の地層等の調査をしていて、気づくと夕方になっていた。
一華に声をかけると、一華もずっと部屋にいたようで、一緒に夕飯の準備を始めた。
そんな時に、陽翔が1人で帰ってくる。
「どうしよう。悠真と途中ではぐれてしまって、探したんだけど見つからないんだ。」
「どういうこと? 誰もいないんだから大きな声を出せば、返事があって居場所がすぐにわかるでしょう。」
「僕も同じように考えて、大声で呼んでみたんだけど、返事はなかった。どこかで、アンドロイドの体が故障して、倒れているのかもしれない。」
私たち3人は、陽翔がいたエリアを探し回った。
でも、どこにもいない。
そのうち、真っ暗になったので、しかたがなくホテルに戻ってきた。
「明日、再度、探してみよう。」
「そうするしかないわね。」
でも、その後1週間探してもどこにも悠真の姿は見つからなかった。
もう諦めるしかない。でも、何が起きたというのかしら。
もしかしたら、地球外生命体のスイッチが発動されたのかもしれない。
3人のうち1人が、私達を狙っているのかもしれない。
最近、気づいたのだけど、一華の私を見る目が変わった。
何か心を閉ざしているというか、私の心の奥を探るような目つき。
具体的に、何かというのは分からないけど、昔のように明るい一華ではなくなっていた。
もしかしたら、私の隙を狙っているのかもしれない。
悠真がいなくなったんだから、人を疑うのは当たり前。
でも、それだけじゃない気もする。
一華が何を考えているのか分からない。
これまで明るかった一華の顔には表情が消えた。
そして、常に、周りの状況をうかがう。
一華の突き刺すような目線で部屋は一瞬にして凍りつく。
これまで南国の雰囲気に包まれていたこの部屋で、寒さに鳥肌が立つ。
これまで爽やかで明るさに満ちていたホテルの部屋は疑惑の闇に包まれていく。
廊下で一華とすれ違った時の足音に警戒心が響く。
私の目を見つめ、奥まで覗き込もうとする鋭さ。
これまで仲良くやってきたのに、別人のよう。
一華は操られ、私を殺そうとしているの?
このままでは何もかも凍りつく闇の世界に落ちていってしまう。
闇の中でどこまでも続く氷水の中でもがき、体が凍りつき、手足は動かない。
そうしているうちに思考も停止し、既に殺されているのではと不安が心を覆う。
一方で、陽翔は悠真がいなくなったのに、あいかわらず危機感がない。
どうして、そんなに呑気でいられるのかしら。
この惑星でまだ別の生命体が生き残って、私達を殺そうとしているかもしれないのに。
このままでは、狙われる前に私の心が壊れてしまう。もう限界。
1人でまずは気持ちを立て直すしかない。
「しばらく、別々の部屋で過ごそうよ。」
「そうね、乃愛も悠真がいなくなって1人で悲しみたいと思うし。」
一華は、3人だと私を殺しにくいと思っているんじゃないかしら。
殺すタイミングを探している? 1人になる方が危ない?
でも、一華と陽翔が地球外生命体に操られているとすれば、私1人でいる方が安全。
一華は、人が変わったみたいに厳しい目つきだし、陽翔はとぼけているように見える。
悠真が頭を撃ち抜かれ、どこかの倉庫に隠されている姿が頭に浮かぶ。
悠真と一緒にいた陽翔が一番怪しい。
でも、私が地層を調査している間、ずっと一華を見ていなかった。
一華は私に悟られずに部屋を出て、悠真が一人になった時に銃で撃ったのかもしれない。
外に出かける機会はいくらでもあったし、一華は兵士だからその点はプロだし。
そういえば、私以外は兵士だから、学者の私なんて簡単に殺せる。
一番、怪しいのは、表情から笑顔が消えた一華のような気もしてきた。
一華と2人だけになるのは避けた方がいい。
こうして、3人は個人行動を取るようになる。
陽翔は、あいからず危機感はなく、毎日、一華と私の部屋の前に食事を用意してくれる。
私は、アンドロイドの体の構成に関するデータを読み込んでいた。
それから1ヶ月が経ち、もしかしたら私の勘違いだったんじゃないかと思い始める。
もし、地球外生命体に操られていれば、私はすでに狙われているはず。
私が不安になり疑っていたから、一華も陽翔も私を警戒していたのかもしれない。
私は、陽翔と廊下で会ったから、久しぶりに話しかけてみる。
「最近、研究に没頭していてごめんね。元気だった?」
「特に変わらないけど。」
「久しぶりに3人で飲もうよ。」
「いいね。このところ、ずっと1人で寂しかったんだよ。子作りも、そろそろ始めないとだし。今後のことを、話さないといけないよね。今夜とかどう?」
「じゃあ、今夜、あの部屋で3人で集まりましょう。」
「じゃあ、後で。」
私が夕方にその部屋に行くと、陽翔しかいない。
「一華は遅れているのかな。3人揃ったら始めましょう。」
「いや、一華は体調が悪いんだって。仕方ないから、まずは2人で始めようよ。」
「そうなんだ。明日以降もあるし、今日は陽翔とだけ飲むか。」
笑顔が溢れる陽翔に心を許し、お酒を飲む。
トイレに行こうと立ち上がった時、少しふらついている自分に気づく。
陽翔が、転ばないように私の腕を支えてくれる。
「ありがとう。」
そう言った時、私の時間は止まった。
私の頭に陽翔が銃口を突きつけている。
やっぱり、悠真を殺したのは陽翔だったのね。
悠真と一緒にいたのは陽翔だったのだから、一番疑うべき人物だった。
しかも悠真がいなくなったのに、全く動じていない陽翔はおかしい。
多分、一華は誘わず、今夜は私と2人だけにして殺す計画だったに違いない。
また、そうだったら、子作りなんてもう無理。
だって、子作りに協力できる男性はもういないんでしょう。
一華と私だけでは、子供はできない。
しかも、私は今、殺そうとされていて、残りの時間もない。
ミロ、ごめんなさい。期待されたけど、使命は果たせなかった。
お父さん、お母さん、何もできない人生だった。
こんな私で本当にごめんなさい。許して。
再度、生き残る方法がないか陽翔を見つめる。
でももう遅い。私に逃げることができる場所なんてどこにもない。
その時、部屋に銃声が轟く。




