2話 新しい星へ
まぶしい。横には、まだうつろな悠真がベッドに横たわっているのがぼんやりと見える。
目の前には、笑顔の一華が私のバイタルを計り、大丈夫だとほっとした顔を見せる。
夢を見ていたんだ。つらい夢だった。
すぐに起きて、4人が今後暮らす惑星の調査をしないと。
私ができることを着実にこなすことが、まずは私に求められていること。
1時間もしないうちに、平常の体調に戻ることができた。
20年も寝ていたのに、どこも痛いところはない。
鏡をみても、年をとったという感じもない。
コールドスリープの装置に入ったのは昨日のように思えた。
悠真は、計算通りの航路で来たかを確認して、大丈夫だと私にオーケーサインを送る。
私は、まだ肉眼では見えない目的地の惑星を望遠鏡から解析する。
そこには、1つの大陸を海が包み込む惑星が見えた。
地球もかつては1つの大陸で、マントルの対流活動の結果、大陸が分かれていった。
この星も同じなのかもしれない。
このことは、マントルが活動する惑星では普遍の法則なのかもしれない。
気候は温暖で、地球がかつて言われていた青い星そのもの。
温暖化していたり、氷河期ではなかったのはラッキーだった。
山から流れる川には水が溢れ、住みやすい環境と言える。
420日をかけて恒星を1周し、自転角度が傾いているので四季もあるのだと思う。
大陸には多くの木々が茂っているように見える。
高い山は少なそうで、300m程度の山々と平地が広がる。
恐竜のような私達を攻撃するような生き物は、現時点では見えない。
海の中は分からないけど、超音波を送った範囲では、そのような魚はいない。
安全性は高いように見える。
次の日には、海岸沿いにビル群が見え、それなりの文明があることが確認できた。
ただ、人影は確認できていない。とても静かなように見える。
廃墟のようにひっそりとしている。
翌日は、上空から観察したけど、まるで地球のような風景だった。
海岸沿いにはビーチがあり、そのそばにリゾートホテルのようなビルが立つ。
そこから少し先に都会といえるビル群があった。
ただ、違うのは、街は木々が生い茂り、ほとんどのビルは蔦などに覆われている。
見る限り、廃墟のようで、外を歩く動物もいない。
どこかの時点で、生命が全滅したように見える。何があったのかしら。
空気の温度、構成、水質等もほぼ地球と同じ、というより全く同じだった。
空気を採取すると、毒物やウィルス等のようなものはない。
普通に空気が吸える状況だとわかる。
こんな偶然があるのかしら。
もしかしたら、なにかの異常事態で、自分たちを地球に送ったのではないかとも考えた。
私達が持っているような物質瞬間移動装置で移動し、地球環境をこの星のようにした。
それなら、この星で私達は問題なく過ごせる。
でも、異常事態って何かしら。
ウィルスが猛威をふるい、宿主が死に絶えて落ち着いたのかもしれない。
ウィルスに感染していない人だけを地球に送ったとか。
温暖化等で生活環境が劇的に変わり、生活ができなくなったのかもしれない。
少なくとも、地球のように、別惑星の生命体から攻撃を受けたという様子ではない。
いくつかの仮説を考え、それが私達にどう影響するのかを検証する。
いずれにしても、私達が暮らせる環境のようだとの結論がでる。
ただ、念の為に、更なる調査を続けた。
AIで気象シミュレーションをしても、台風等の災害は1年を通してないと回答がでた。
その後の調査で、蜂のような危険な小動物もいないことが確認された。
特に、害はなさそうなので、私たちは、この惑星に上陸することを決断する。
この星には飛行機はなかったのかしら。
空港のようなものはなく、海に着陸することを決めた。
空気や水に問題がないので、私たちは、軽装で宇宙船を降りる。
宇宙船のドアを開き、ゴムボートに4人が乗り、海辺へと進んだ。
海にも生物がいないのか、海特有の臭みはなく、爽やかな風が流れる。
陽翔と一華は、念のため、ビーム銃を握りしめる。
海に足を入れても、水質が同じなのか、違和感はない。
むしろ、久しぶりに海へと足を入れ、冷たく、水飛沫が心地よい。
こんな感覚を味わっていいのかと再び自責の念を感じながら、任務だと前に進む。
浅瀬の砂浜で、5m程歩いて波寄せぎわに辿り着いた。
砂浜には多くのリクライニングチェアが並ぶ。
そこには、驚くことに、多くの白骨遺体が横たわる光景が広がっていた。
多くが横の人と手を握り、顔を空に向ける。
骨の構造は人間そのもので違いは分からない。
骨からは表情がわからないけど、苦しんだ様子はない。何があったのかしら。
だいぶ時間が経っているのか、骨と、装飾品しか残っていない。
この星にも、金銀で飾る風習があったことが分かる。
道路はビーチとは違い、白骨遺体はなかった。
急に道で倒れて死ぬということはなく、落ち着いて死に向かって行ったということかしら。
誰かが遺骨を取り除いたという雰囲気はない。
その代わりに、地球と同じように、車輪を持つ車や、交差点には信号があった。
効率を考え辿り着くところは同じなのだと感じる。
信号は今でも、色が変わるところをみると電気が未だに維持されているのだと思う。
車の中にあった写真が見える。
そこには、人間と全く同じ姿の楽しそうな親子が映っていた。
生き生きと楽しく過ごしていた時間があったのだと思う。
木々が生い茂っているけど、道路の中央は普通に歩くことができた。
ただ、ビルは木や蔦が巻きつき、壁もかなり老朽化が進んでいる。
ただ、地震とかはないのか、崩壊しているビルは見当たらない。
廃墟となってどのぐらい年月が経ったのかしら。
植物の育成スピードによるけど、200年ぐらいは経っているのだと思う。
動物が息絶えた世界で、植物だけが活き活きと成長している世界に違和感を感じる。
ホテルらしいビルに入ると、冷房が効いているのか涼しい。
太陽光発電なのかしら。どこから電力が送られているのかは分からない。
カウンターの裏に鍵があり、いくつかの部屋を探索する。
多くの部屋には、ビーチと同じように、ベッドで手を繋いだ白骨遺体がある。
ただ、ビーチでは気づかなかったけど、シーツは緑色で染まっていることが多い。
おそらく、緑色の血を吐いて亡くなったのだと思う。
ただ、ここでも、襲われたとか、殺されたという様子はない。
死ぬまでのわずかな時間を大切な人と過ごす。
そういう死に方を選んでいったように見える。
遺体によっては、笑顔で溢れる家族写真を抱えているものもある。
その写真を抱きしめ、楽しい時間を思って静かに死んでいったのかもしれない。
この星の人は愛情が深かったのかしら。
みんなが手を繋ぎ亡くなっている。1人の姿はなかった。
2人や、子供を真ん中に置く家族等ばかり。
ホテルから5分ほど歩いたところに街があり、ホテルと同様に木々が生い茂る。
オフィスらしい所では、ほとんど人はいない。
自宅に戻り、家族と最後の大切な時間を過ごしている様子。
AI翻訳機で調べてみても、普通のビジネスをしていた様子。
この会社は証券会社で、地球と同じビジネスが展開されていたように見える。
でも、これだけ大きい街なのに、誰もいないゴーストタウンは不気味だった。




